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編集部イチ押し! 3月の新作映画をチェック

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cinema check シネマ・チェック

辛口コメントで映画を斬る、映画通の日豪プレス・シネマ隊長と編集部員たちが、レビューやあらすじと共に注目の新作を紹介!レーティング=オーストラリア政府が定めた年齢制限。G、PG、M、MA15+、R18+、X18+があり、「X18+」に向かうほど過激な内容となる。作品の評価は5つ星で採点結果を紹介。

ビール・ストリートの恋人たち
If Beale Street Could Talk隊長が観た!

ドラマ/MA15+ 公開中 満足度★★★

©2018 Annapurna Releasing, LLC.
©2018 Annapurna Releasing, LLC.

アカデミー賞の発表が近くなっているが、アカデミー賞と聞いて今でも思い出すのが、2017年の作品賞の受賞作を間違えて発表したことだろう。プレゼンターのウォーレン・ベイティーとフェイ・ダナウェイが渡された封筒を見て『ラ・ラ・ランド』の名前を読み上げたが、これは封筒の渡し間違いで、その後主催者側が『ムーンライト』が本当の受賞作であると訂正した。個人的に応援していた『ムーンライト』が受賞したことは大変喜ばしいことだか、何とも後味の悪い授賞式だった。そして、今回紹介するのが、その『ムーンライト』の監督・バリー・ジェンキンスの待望の新作『ビール・ストリートの恋人たち』。

物語は、1970年代初期のニューヨーク・ハーレムが舞台。19歳のティッシュと、彼女の恋人・ファニーは22歳。この若いカップルは赤ちゃんを授かるが、ファニーは冤罪で刑務所の中。2人の家族や友人たちは、ファニーの罪を晴らして何とか助け出そうとするが……。

オープニングのシーンで、黄色く色付いた街路樹の下を歩くティッシュとファニー。彼女の黄色のコートに彼の黄色のシャツ、彼のブルーのGジャンに、彼女のブルーのワンピース。この計算された色の構築! 前回の『ムーンライト』も、フィルムを奇麗に洗ったような美しい発色が特徴だったが、同作も美しいカラー・トーンでまとめられている。このオープニングからワクワクしてしまった。更に美しい映像にバッチリはまった音楽と、一瞬「これは、ウォン・カーウァイ監督の作品?」と思ってしまうほどだった。前作の『ムーンライト』は、ウォン・カーウァイ監督の『ブエノスアイレス』へのオマージュが指摘されたりしているが、今回は同監督の『花様年華』がチラチラしてしまった。路地裏の雨のシーンやタバコの煙が漂う場面など。特に雨のシーンは、外から聞こえる雨音に、レコードからはジャズが流れてくる……と、アメリカの監督とは思えないような、ウエッティな湿度感が画面から滲(にじ)み出てくるような描き方だ。

©2018 Annapurna Releasing, LLC.
©2018 Annapurna Releasing, LLC.

このような美しい映像が続くのだが、テーマは果てしなく重い。前作もそうだが、黒人を取り巻く人種差別や偏見など、相変わらずブレてはいない。邦題は『ビール・ストリートの恋人たち』で、このタイトルと美しい映像の予告を見てしまうと、ハートウォーミングなラブ・ストーリーを想像してしまうが、原題は『If Beale Street Could Talk』。もしビール・ストリートが話すことができたなら“彼の冤罪を晴らすことができるのに”という意味合い。人種問題と性の問題を扱った黒人作家、ジェームズ・ボールドウィンの小説が原作となっていて、決して軽々しいラブ・ストーリーではない。

ただ、前作に続き好きな作品ではあるが、同じようなペースで進んで行くので、ちょっと中ダレしているような気がする。感傷的な音楽もあって、途中睡魔が……。『ムーンライト』は、主人公の年代で3部作のようになっていて、それぞれ演じる俳優も違いメリハリがあるのだか、今作はその当たりが弱いように感じた。もう少し、演出の方法が違ったり、進行のテンポに変化が付いていた方が良かったように思う。

出演陣に関しては、主人公に抜擢された新人のキキ・レインが魅力的で、相手役のステファン・ジェームスとのケミストリーもバッチリ。でも、やはり見どころは、母親役を演じたレジーナ・キング! ゴールデン・グローブ賞助演女優賞を受賞したのも納得の演技だ。

ヴォックス・ルクス
Vox Lux

ドラマ/MA15+ 公開中 期待度★★★

1999年、13歳のセレステは学校で起きた銃乱射事件の追悼式典で姉妹で披露した歌声が注目され、歌手デビューを果たす。人気ポップ・スターへと飛躍し名声を博した彼女は8年後、ティーン・エイジャーの娘を持ちコンサートの準備を進めていた。同作は1999年と2017年の2つの時代を舞台にセレステの歌手人生が描かれている。過去の悲惨な出来事をきっかけに歌手を目指すようになった彼女が、昔のトラウマに悩まされながらも歌手人生を歩み続ける理由とは……。銃乱射事件など深刻な社会問題が背景となっていることでも話題に。セレステを演じたのはナタリー・ポートマン、また若きセレステと彼女の娘役をラフィー・キャシデイ、セレステの音楽マネージャーをジュード・ロウが務める。

ア・ドッグズ・ウェイ・ホーム
A Dog’s way home

ファミリー、アドベンチャー/PG 2月28日公開予定 期待度★★★

©2018 CTMG, Inc.
©2018 CTMG, Inc.

『僕のワンダフル・ライフ』の原作となったベストセラー小説『野良犬トビーの愛すべき転生』の作者、W・ブルース・キャメロンが、2012年に発表した同名小説を原作に映画化。同作は、犬のベラが離ればなれになってしまった飼い主・ルーカス(ジョナ・ハウアー=キング)に再会するまでの旅路が描かれている。飼い主に会いたい一心で自力で400マイルもの長い距離を移動し、険しい道のりや絶望的な状況を乗り越えようとするベラ。道中でさまざまな人びとと出会いながら、ルーカスの元へ向かう心温まるストーリーに仕上がっている。監督はチャールズ・マーティン・スミス。全米3,090館で公開され、公開初週末に1,125万ドルの興行収入を打ち出しランキング3位となった注目の作品だ。

キング・オブ・シーブズ
King of Thieves

ドラマ、クライム/M 2月28日公開予定 期待度★★★

同作は2015年、ロンドン中心部の宝飾店街ハットン・ガーデンで起きた英国史上最大の貸金庫強盗事件が描かれている。現金や宝石類など1,400万ポンド相当が盗まれた大胆かつ計画的な実際の犯行に基づく物語だ。犯行に及んだのは何と、平均年齢60歳以上の老人集団。果たして彼らは事件後どのような結末を迎えるのか……。監督を務めたのは劇映画やドキュメンタリー作品で高い評価を得ている『博士と彼女のセオリー』のジェームズ・マーシュ。『ブリジット・ジョーンズの日記』でブリジットの父を演じたジム・ブロードベントや『ハリー・ポッター』シリーズのダンブルドア校長役で知られるマイケル・ガンボン、『アリス・イン・ワンダーランド』のポール・ホワイトハウスらキャスト陣が登場する。

キャプテン・マーベル
Captain Marvel

アクション、アドベンチャー/TBC 3月7日公開予定 期待度★★★★

©Marvel Studios 2019
©Marvel Studios 2019

マーベル・コミックを原作とした同作の舞台は1990年代。地球が2種類のエイリアンの抗争に巻き込まれていた中、アメリカ空軍の女性パイロット、キャロル・ダンバースは、ある事故を機にエイリアンと遺伝子が融合し、銀河最強のヒーローに成長していく。彼女は、マーベル・コミックのヒーローらが集結した「アベンジャーズ」結成の鍵となった人物で、劇中では『アベンジャーズ』シリーズの人気キャラクター、ニック・フューリーやフィル・コールソンらの若き日の姿も描かれている。主人公キャプテン・マーベル(キャロル)を演じるのは、『キングコング:髑髏島の巨神』のブリー・ラーソン。『A.I.』のジュード・ロウや『ミスター・ガラス』のサミュエル・L・ジャクソンらが脇を固める。

★今月の気になるDVD★

サブマリン SUBMARINE
青春、コメディー、ドラマ 97分(2010年)

学生時代を思い出してみて欲しい――。人間は2通りのタイプに分かれていなかったか。

キラキラと輝く充実した青春時代を送っていた者。もう一方は、そういった人気者の影で物思いと妄想に没頭し、もう一方は、ひっそりと青春時代を送っていた者。

同作は、後者のいわゆる「中二病」の15歳の少年・オリバーの青春を描いたラブ・コメディーだ。コメディーといっても手をたたいて大笑いするよりは、イギリスらしいシュールでキュートな笑いが散りばめられているタイプの作品。彼だけでなく彼の家族や隣人の見ていて痛々しいと感じるその姿は、時折笑いを誘いながらもどこか共感できリアリティーがある。

大人の階段を登りたくて仕方がない思春期男子の葛藤の物語だが、いかんせん主人公は中二病。「好き!」と伝えるのに「小さな潜水艦に乗って僕の中身を見て欲しい」というせりふをチョイスしてしまうドロっとしたセンスの持ち主だ。しかし、8ミリ・カメラで捉えられた美しい映像とイギリスのミュージシャンであるアレックス・ターナーによるセンチメンタルな挿入歌が絶妙にマッチしお洒落でユーモラスな芸術作品に仕上がっている。

アレックス・ターナーがフロントマンを務めるバンド、アークティック・モンキーズは2月23日、パースから始まりメルボルン、シドニー、ブリスベンと3月初旬までオーストラリアでライブを行っている。ぜひ、そちらもチェックしてみては。(編集=RM)

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