サッカー日本代表、シドニー決戦━━現地在住ライター・ルポ

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日豪戦の至福、消えぬ余韻に浸りつつ━━サッカー日本代表戦ルポ

(取材・写真:タカ植松=本誌特約記者)

スタジアムの真ん中でありがとうを叫ぶ森保監督(Photo by Yusuke Seki)
スタジアムの真ん中でありがとうを叫ぶ森保監督(Photo by Yusuke Seki)

おめでとう、日本代表

 一夜明けた日豪戦の興奮が冷めやらぬ中、昨晩の体験の肌感覚が消えないうちにと、この原稿を起こしている。

 目の前で祖国の代表チームがW杯行きを決める━━そんな、またとない機会に立ち会えた。これは海外で暮らす日本人として至福の一時だ。読者の多くにとっては一生に一度の経験となるかも知れない貴重な時間だったろう。ピッチ上で喜びを爆発させる選手・スタッフ、サポーターに絶叫する森保一監督、そして、笑顔弾ける日本人、日系のファン、サポーター。そんな歓喜の渦を3階のメディア席から見守っていた。

 試合最終盤に待っていた劇的なドラマで、試合後の選手が掲げたタオル・マフラーのその文字のとおり、日本は長く辛いカタールへの道のりの最後の関門を「突破」。7大会連続7度目となるW杯への切符をつかみ取った。

 試合後、森保監督は日本サポーターに向けて「ありがとう」を絶叫したが、何人のスタンドの日本人が逆に「ありがとう」を叫び返したことだろう。本当におめでとう、日本代表。

試合前には、シドニー日系サッカーコミュニティの顔とも言うべき元日本代表・田代有三さんの姿も
試合会場には、シドニー日系サッカー・コミュニティーの顔とも言うべき元日本代表・田代有三さんの姿も

グッドルーザーを讃えよう

 そして、惻隠の情を常に忘れぬ日本人として慮らねばならないのが、昨夜のグッドルーザーであるサッカルーズ、そして、そのサポートにスタジアムにやって来た我々コミュニティーがいつもお世話になっているこの国の人びとだ。彼らの代表チームは、けがやコロナの影響でチームとして今までにない危機的な状況で、日本との勝たなければならない試合に臨み、不利が予想されるなかでも85分まで凌ぎ、残り5分で散った。

 過去4大会の最終予選で“日豪同舟”を続けながら育んできた日豪戦の健全なライバリー。多くのオーストラリア人は、ライバルと思いながらも実は密かに仰ぎ見ている日本に、W杯最終予選での引導を渡されたことに納得をしているはずだ。彼らのこれまでの健闘を讃える共に、今後のプレーオフを勝ち抜いて共にアジアを代表してカタールの地に立てることを心より願おうではないか。

“救世主” 降臨の夜

 90分のピッチ上での戦いは、多少のレフリーのジャッジングの基準の不可解なブレがあったくらいで、フェアでクリーンに戦われた。若手が多く起用されたサッカルーズは、いつも以上に球際に厳しく、激しく日本のボール・ホルダーに襲い掛かった。それを素早さと卓越したスキルで交わす南野、伊東を中心とした日本の攻撃陣。そのプレイには欧州の檜舞台でチャレンジを続けてきた選手としての矜持がしっかりと見て取れた。それに相対するオーストラリア守備陣も試合のほとんどの時間で集中力を切らさずにしぶとく守った。守護神ライアンも、尋常ではない反応力と守備範囲の広さで多くのピンチの芽を摘んだ。攻撃面では、オー10番を背負う次代の期待の星MFフルスティッチがその才能の片鱗を見せ続けた。

 そして、サッカルーズが疲れを隠せないながらも、勝つためには前がかりにならざるを得ない最終盤のタイミングで、森保監督が満を持して切った極上のカード2枚。そのうちで、真の「ジョーカー」となった日本の背番号21が、出場5分で試合を決め、圧巻の3人抜きで駄目を押した。正味10分で、オーストラリアを奈落の底に突き落とした日本の救世主こそ、日本が誇る必殺ドリブラー三笘薫だった。

What a great night…

 昨晩の決戦の地、スタジアム・オーストラリア。その至るところで、全豪各地の日系コミュニティーの成員が集った。筆者自身も何度「タカさん」と声を掛けられたことだろう。試合当日、私に付いていた本誌インターンも、友人知人に何度も出くわしていた。おそらく、スタジアムのそこかしこで同じような光景が広がっていたのではないだろうか。普段はいろいろな世界でこの国に根付きながら生きる日系の人びとが、祖国の代表チームの歓喜の瞬間を共に味わい、分かち合うために集い、ピッチ上の日本代表の一挙手一投足に叫び、頭を抱え、そして、試合最終盤に、2度、歓喜の雄叫びを挙げた。そんな素晴らしい夜だった。

 スタンドには、目の前で起こる「夢」から醒めないようにと、必死にその小さな瞳に憧れのスター選手の姿を焼き付けようとする子どもたち、長くこちらに暮らしているのだろうか―肩を抱きながら日本代表の勝利を喜び合う初老の日本人カップル。サッカルーズのジャージを着たボーイフレンドに誇らしげな笑顔を見せる妙齢の日本人女性━━さまざまな日本人の笑顔がスタジアムのそこかしこに溢れていた。人生に二度とはない歓喜を目の当たりにして、その喜びを体中から発散されながら家路に就く、そんな彼らの姿を、目を細めながら見送った。

豪州を待つ茨の道

 これで、日本の次戦ベトナム戦(29日)は凱旋試合となり、ホームでの勝利で長いカタールへの道のりの有終の美を飾り、あらためて自国でファン、サポーターとW杯出場の喜びを分かちあいたいところだ。

 かたや、傷心のオーストラリア代表は、最終節はアウェーのサウジアラビア戦(30日未明)を控えるが、その視線は既に出場が決まっているアジア代表決定プレーオフ(6月7日/カタール)へと向いている。その一発勝負の気になる相手だが、大混戦のグループAは、UAE、イラク、レバノンの3カ国に3位の可能性が残り、どこが進出してくるかはまったく予断を許さない。ただ、中東のカタールで行われる試合の対戦相手となる可能性のある国々は、上記のように全て中東諸国。地理的状況も含めて、完全ニュートラルとは行きそうにはない。そこで勝っても、その先には南米5位との大陸間プレーオフ、これまたカタールでの一発勝負が待ち構えるなど、サッカルーズにとっての茨の道は続く。

“半端ない”日豪戦を追い続けて

 今回の「日豪戦」、過去4大会の最終予選のように現行フォーマットでの緊張感のある対戦としては、最後になってしまうかも知れない。コロナ禍で渡航を許されなかった昨年10月の埼玉での対戦以外は、7試合ともに現地で観戦し続けてきた身としては、試合前の両軍がピッチ上に並んだときには正直、こみ上げてくる感慨があった。その時に、ふと独り言ちたのは、「できれば、日豪両国ともけがやコロナの影響無しの快晴のベストのピッチコンディションでやらせたかったなぁ」との思い。

 しかし、それがどうだ。その90分後には、目の前で繰り広げられた熱戦と劇的な結末に魅了されている自分がいた。試合を終えて、オーストラリア側のメディアの仲間からも「おめでとう、日本は強いよ」と声を掛けられて誇らしかった。良いものを見させてもらった・・・・・・そんな思いに捉われると、また、違う感慨がこみ上げてくる。

 残念ながらその有名なフレーズの元ネタとなった大迫勇也の姿はピッチ上の歓喜の輪には見られなかったが、あのとき、ピッチを見下ろしながら、あらためて思った。

 「あー、フットボール、半端ねぇ。あー、日豪戦も半端ねぇ」。

 これだから、フットボールはやめられない。

声高らかに、Go Socceroosの雄叫びを
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小さな2人の眼には、昨晩の日本代表の勇姿はどう映っただろうか。
小さな2人の目には、昨晩の日本代表の勇姿はどう映っただろうか
松木安太郎さんの熱い応援もシドニーに?!
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試合後のアーノルド監督。失望の色は隠せない
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