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非常時におけるサプライ・チェーンのデジタル化の効果(後編)

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BUSINESS REVIEW

会計監査や税務だけでなくコンサルティングなどのプロフェッショナル・サービスを世界で提供する4大会計事務所の1つ、EYから気になるトピックをご紹介します。

非常時におけるサプライ・チェーンのデジタル化の効果(後編)

 新型コロナウイルス(COVID-19)がもたらした危機により、コストとスピードを重視して設計されたサプライ・チェーンの脆弱性が浮き彫りになりました。EYとP&Gは、10年以上にわたる協力関係を通じて、400以上のスマート・ファクトリーを構築し、150億米ドルの節約を実現してきました。今月は、サプライ・チェーンにおけるデジタル化の効果の実例をご紹介していきます。

レジリエンスを発揮する

 世界的な消費財メーカーであるProcter & Gamble(P&G)は、過去10年間、サプライ・チェーン・マネジメントを細部にわたって効果的に調整することにより、サプライ・チェーン・コストを大幅に削減しながら業績を向上させ、ビジネスの成長を支えてきました。COVID-19による混乱の中でも、同社は不意をつかれることはありませんでした。P&Gはこのような危機を単に耐え抜いただけでなく、自社のサプライ・チェーンの機敏性を生かし、製造ラインの一部を個人用防護具(PPE)の生産に切り替え、世界中へ寄付しました。

 では、機敏性を発揮できる強固なサプライ・チェーンの基盤とは、どのような要素なのでしょうか。

 P&Gの最高製品供給責任者であるJulio Nemeth氏は、次のように述べています。「まず、サプライ・チェーンがイノベーションの原動力であるという確信を持つことから始める必要があります。サプライ・チェーンの役割が、生産、梱包、出荷だけに留まるのであれば、その可能性は限定されるでしょう。レジリエンスの高いサプライ・チェーンを構築していくことで、株主総利回り(TSR)の原動力とする必要があります」

 P&GがCOVID-19の危機に対処した際、デジタル化がサプライ・チェーン全体にわたり、大きな効果をもたらしました。同社のサプライ・チェーン・モデルは、自立したサプライ・チェーン・チームによって管理されており、ソーシャル・ディスタンスを確保し、現場にマネジャーがいない状態でも業務を行うことが可能でした。

 Nemeth氏は、サプライ・チェーンのレジリエンス強化において、大量の安全在庫を抱える必要はないと指摘しています。また、「レジリエンスを高めるためだけに」生産能力を増やすことも、全くの逆効果になりかねません。Nemeth氏は、「レジリエンスとは、装備するものではありません」と述べています。P&Gにとって、サプライ・チェーンのレジリエンスとは、混乱が生じた際、経営状況(例:サービス・レベル、コスト、キャッシュ・フローなど)が通常の状態に戻るために必要な時間を最小限に抑えることを意味します。

 世界経済の一部が危機に見舞われた場合、その混乱は、サプライ・チェーンのティア1からサプライヤー・エコシステム全体に広がり、予期せぬ形で影響を与えることが多くあります。需要の検知、トラッキング、トレーシングを行う洗練されたシステムや事業継続計画(BCP)は混乱時に業務を遂行するのに役立ちます。しかし、レジリエンスを真に高めていくには、パフォーマンスの高いチームが業務を共有し、先端技術を用いて、グローバル・サプライ・チェーンにおける脆弱性の高まりに対抗することが重要です。

ケース・スタディー:乳製品向けサプライ・チェーンにおけるレジリエンスの向上

 世界的な大手乳業メーカーはこのほど、コスト削減、更なる品質及び安全管理の強化、業務全体の最適化を目指して、サプライ・チェーンの向上に取り組みました。この企業は、世界各地で製造工場を展開しており、年間50億ガロンを超える牛乳を加工しています。

 乳製品に対する消費者の嗜好や意識が変化し、これまで以上に新鮮な製品への需要が高まるなか、従来のサプライ・チェーン・モデルは限界を迎えていました。このような変化はサプライ・チェーン全体で生じていましたが、ほとんどの乳製品の保存可能期間が限られていることから、極めて慎重に対処する必要がありました。

 P&Gの「Integrated Work System(IWS)」を基盤としてEYのスマート・ファクトリーを活用することにより、以下を始めとする多くの要素において、サプライ・チェーンのパフォーマンス指標を改善しました。

  • ボトル・ネック解消
  • コンバージョン・コスト
  • 品質インシデント
  • 歩留まり低下
  • 生産性
  • スタッフの能力

 効率性の向上では特に大きな効果を上げています。あるホエイ(乳清)工場では、設備総合効率(OEE)が33%上昇し、それに伴ってスループットも38%増加しました。またあるチーズ工場ではOEEが18%上昇し、生産性も40%上昇しました。

 最終的に、ここでご紹介した大手乳業メーカーでは、サプライ・チェーンの最適化に取り組むことで、金利税引前利益(EBIT)が年間1億2,000万ドル向上することが見込まれています。更に重要なことは、急速に変化する食品業界において、同社が今後も競争力とレジリエンスを維持できるという点です。

サマリー

 サプライ・チェーンのレジリエンスは、危機に際し、単に生産能力を増強したり、代替サプライヤーを手配したりすることだけでは達成できません。レジリエンスの向上には、サプライ・チェーンがイノベーションの原動力であるという確信を持ち、事業継続計画の立案及びシナリオ・プランニング、混乱の兆候の検知、優れた業績を追求する企業文化の構築、デジタル技術の導入、危機が起こった際の迅速な行動による市場ニーズへの機敏な対応のために常に尽力することが必要です。

 本稿に示された第三者の見解は、必ずしもEYのグローバル組織またはそのメンバー・ファームの見解ではありません。また、それらの見解はそれぞれの見解が示された際の文脈において理解されるべきものです。

解説者

須藤卓馬

EYシドニー コンサルティング・チームシニア・マネジャー 須藤卓馬

サプライ・チェーンと金融サービスの両分野で最新の業務・テクノロジーの知見を基に、業務改革及び能力開発に従事している。Institutional Asset Management Awards 2021 – Best Insurance Consultancy Firm受賞(Web: https://insuranceasianews.com/awards/institutional-asset-management-awards-2021
Tel: 02 9248 4062 / Email: takuma.suto@au.ey.com

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