【現代アート】ビエンナーレとは何ですか?

関心はあるものの、実は全く理解できない! いったいどこから勉強して良いのか分からない! そんな読者の心の声に答えるべく登場したこのコラム。奥深い現代アートの世界に対する素朴な疑問に、著者がずばり回答。易しく解説してくれます。これを読めば、芸術の世界がぐっと身近に感じられるはず。

第27回“ビエンナーレとは何ですか?”

参加アーティストたちと片岡真実氏(中央)。その左はシドニー・ビエンナーレ・ディレクター兼CEOのジョアン・バーニー=ダンズカー(ⓒ芸術手帖)
参加アーティストたちと片岡真実氏(中央)。その左はシドニー・ビエンナーレ・ディレクター兼CEOのジョアン・バーニー=ダンズカー(ⓒ芸術手帖)

現代アートは、額縁がない、画廊空間にも収まりきらない、絵でもない彫刻でもない何ものかですが、鑑賞者の共通の基盤なくしてどうしてアート作品として認識できるのでしょうか? 制度なくしてアート足り得るのか、というのがこのコラムで私が何度も触れてきた論点でした。

確かに現代アートに額縁は似合いません。額縁というのは、たとえ絵が美術館になくとも、アートであるということを保証する枠組みだったのです。例えば、スパイラルジェッティで有名なアメリカのロバート・スミッソン(1938~73)は、額縁どころか画廊や美術館空間からも脱却し、ランドアートや、やがて原型を留めなくなるプロセス・アートなどを提唱し、美術史にも飲み込まれないアートを目指しました。

さて、額縁や伝統を保証する美術館や画廊空間をはみ出した現代アートに枠組みを与えているのが、国際ビエンナーレ(トリエンナーレ)という形式と言えます。つまり、一過性のものであり、額縁の代わりにサイト(場所)が各アーティストに与えられ、美術館らしからぬパビリオンが与えられ、アートのお祭りに各アーティストが参加するという開かれた形式を持ちます。

例えば、2005年のヴェネチア・ビエンナーレ第9回国際建築展では、日本館全体に「おたく:人格=空間=都市」というテーマで「オタク文化」が紹介されました。このことは、まさに美術外のものを、ビエンナーレという制度(枠組み)に取り込み、草の根的存在であったアニメ・漫画文化の底上げを目論んだものでした。

『現代美術の海外発信について』という文部科学省の諮問機関である現代アートの海外発信に関する検討会が以下の報告をしています。

「現在、国際的に評価されている作家は、ほとんどが一度海外へ出て活動し、その作品が海外で評価され、日本に逆輸入される形でその地位を築いてきている。こうした若手作家の国際的な位置付けについては、海外で評価された後、さまざまな舞台で更なる活躍の伸びを見せていくことが重要である。例えば、世界的影響力のある著名な美術館や、新聞、雑誌での作品紹介、国際的ビエンナーレなどへの招へい、国際市場での継続的な評価などがその作家の名声と評価を支えることになる。しかし、日本人の若手作家にとっては、そうした活動がなかなか定着しにくい部分である。そのことは日本国内での現代美術に関する評論、研究などの活動が、海外から見えないことも1つの要因となっている」

つまり日本の現代アートの作家にとって、海外の評価を得ることは、言葉の壁などがあるために難しい、そこで政府としても支援すべきであるという論点です。

しかし、日本の政治家が現代アートをきちんと理解しているかというと怪しいものです。日本で言うアートまたは芸術作品は、京都画壇や東京藝大派閥の日本画や有名画廊で取り扱われる西洋画なのですが、これは首相官邸にどのようのなアート作品が壁にかかっているのかを見れば分かります(参照Web: http://www.kantei.go.jp/jp/vt2/main/05/photo-bijyutukan1-01.html)。

これはオーストラリアや西洋の国会議事堂などに現代美術が取り入れられていることと比べると雲泥の差があります(参照Web: www.abc.net.au/news/2016-01-05/parliament-house-$85-million-art-collection/7063732)。

16年7月に、18年開催のシドニー・ビエンナーレのアーティスティック・ディレクター(芸術監督)に、森美術館チーフ・キュレーターの片岡真実氏が、アジア人として初めて指名されました。森美術館という海外でも評価が高い、日本で現代アートを取り扱うまれな美術館のキューレーターとして指名されたのだと思います。

森美術館の先の館長である、南條史生氏は1970~80年代に元国際交流基金の職員であったころ、海外からの現代アート招致に力を尽くした方です。南條氏は経済誌「フォーブス」の世界で最も影響力のある美術関係者100人の中にも選ばれたことがあります。こういった知名度が森美術館の地位を押し上げ、今回の片岡氏の指名に結びついたのではないでしょうか。

「スーパーポジション:均衡とエンゲージメント」というテーマで、現代世界へ向けられた洞察へのメタファーとして、量子力学で言うところの“スーパーポジション(重なり合い)”という考え方をタイトルに借用したそうです。展示の構成も「古代中国の自然哲学である五行思想を借用。五行思想では、万物が木・火・土・金・水の五大要素で構成されており、それぞれの要素がそれぞれ次の要素を生成、促進する循環系としての相生説と、おのおのの要素が拮抗、抑制しあう循環系の相剋説が存在する」のだそうです。面白そうですね。

片岡氏がどのような手腕を振るうのか、今年のシドニー・ビエンナーレが楽しみです。第21回シドニー・ビエンナーレは、3月16日~6月11日にかけて開催。お見逃しなく。


登崎榮一(Ph.Ds)
メルボルン大学哲学/美術史並びにモナーシュ大学 アート&デザインでPhDを取得。現在は、アーティストとして活躍するほか、ディーキン大学でも講師を務める。
Web: bimanualdrawing.wordpress.com

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