第2回 元発行人のローマ便り

元発行人のローマ便り 第2回

ローマは昔から、永遠の都として観光のメッカでしたが、世界中の特に女性にとって、それを決定的にしたのは、何と言ってもオードリー・ヘップバーンの映画「ローマの休日」ですね。某国のプリンセスが、お忍びでローマの街に繰り出し、淡い恋心を含めて、さまざまな心温まる経験をするストーリーでした。これでヘップバーンはオスカーを取り、世界のトップ・スターになったわけですが、同時にローマは、世界で1、2を争う憧れの観光の街になりました(現在は?ですが)。


今でもショップで使われているオードリーの写真

ヘップバーンは、日本ではいつも一番人気のスターでしたが、日本以外では超人気のスターではありませんでした。華奢でエレガントでファッショナブルなスターという評価はありましたが。ヘップバーンはヘップバーンでも、崇拝されていたのは、キャサンリン・ヘップバーンのほうでした。ところが確か死後10年ぐらいから、なぜかオードリーの株が上がり、最も美しい女優とか、最も影響を与えた女優などの調査で、いつもトップに選ばれるようになりました。多分、最後まで体を張ってユニセフ親善大使として世界中を駆け回ったことに、多くの人が感動したからではないでしょうか。

オードリーに関しては、日本人は先見の明がありました。「ローマの休日」で出会って以来、驚異的にも現在までオードリー信仰は続いています。日本人はなぜオードリーが好きなのかを、いろいろな角度から分析すると、かなり高度な「日本人論」が出てくると思います。


あるマンションの受付で古色蒼然とした『ローマの休日』のポスターが

私は実はリアル・タイムでは、オードリーのファンではなかったんです。ロードショーで見たのは「暗くなるまで待って」だけで、それもオードリーの映画だからではなく、好みのサスペンス物だったからです。オードリーに開眼したのは、40代にカム・バックして撮った「ロビンとマリアン」という映画で。ロビン・フッドの後日談ですが、ロビンの恋人、もう若くなく尼僧になったマリアンを演じるオードリーを見ながら、涙が流れているのに気付き、びっくりしました。スクリーン上のオードリーのたたずまいに感動したのだと思います。以降、リバイバルのロードショーや、名画座の3本立てやら、テレビ、ビデオなどで、オードリーの映画全部をクリアにしました。

オードリー・ファンなら、多分それぞれがベスト・スリーというものを持っていると思いますが、マイ・ベスト3は、主義に生きる人間の美しさと厳しさを描いた「尼僧物語」、これは外せません「ティファニーで朝食を」、それとあまり評判にはなりませんでしたが、ある男女が出会い、中年になるまでの軌跡を、凝ったフラッシュ・バックで描いた「いつも2人で」です。

オードリー・ヘップバーンにインタビューできたのは、亡くなる数年前でした。ユニセフの親善大使として来豪の際、その機会に恵まれました。同じ大使だった画家のケン・ドーンが壇上でスピーチをした時、偶然にもオードリーの後ろに座ることになり、この細く長いきれいな首が、世界の女性が憧れている首なのかと見ていたことを、今でもよく憶えています。

単独インタビューでオードリーと向かいながら、さすがに年月の流れは感じましたが、強い意志の光を持つ美しい目の輝きは、まったく変わらないなと感じ入っていました。オードリーは現役時代プライバシー尊重の大スターで、単独インタビューというのは稀でしたが、ユニセフの大使になって以来、積極的にそれをこなしていました。あるジャーナリストにそれを聞かれて、「私が喋ることで1ドルでも多く寄付が集まれば、こんなに嬉しいことはありません」とオードリーは答えていましたね。


映画『ローマの休日』の1 カット

オードリー・ヘップバーンのついでに、イタリア映画事情を少し。昔は名作が続出し、70年代には、イタリア映画は日本でロードショー公開されていた有力な映画だったといっても、若い人はピンとこないと思います。現在、イタリア映画はまったくといって良いほど日本へは入っていないので。イタリア映画界から国際的な大スターになったのは、男優では今は亡きマルチェロ・マストロヤンニ、女優ではソフィア・ローレンですね。次に出てきたのは、ジャンカルロ・ジャンニーニとクラウディア・カルディナーレ。ジャンニーニは70年代に、「セブン・ビューティーズ」という映画で世界中でセンセーションを巻き起こしました。ジャンニーニには強い思い入れがあります。その理由は、洋画雑誌『スクリーン』のシドニー通信員として、多くのスターをインタビューする機会を与えられたわけですが、その第1号がジャンニーニだったんです。掲載された雑誌を送ると、「ローマに来る機会があれば連絡するように」というメッセージのついたお礼のエア・メールを貰ったのは、嬉しい思い出です。ただ日本では人気は出なかったですね。ジャンニーニのようなアクの強い俳優は日本では受けません。カルディナーレは人気スターになりましたが、その後は女優不足。マストロヤンニに次いで人気が出たのは、ジュリアーノ・ジェンマ。アクション系のイケメンです。日本のCMにも出ましたが、残念ながら数年前に、ローマの郊外で自動車事故によって亡くなっています。一発屋ですが、「ガラスの部屋」という映画で、レイモンド・ラブロックが特に日本女性に騒がれました。こちらは貴公子然とした超イケメン。その後はこれといったスターは現れていません。

もちろんイタリアでは、映画製作が続いていますが、不況という感じは拭えないですね。テレビでは新作映画の紹介を頻繁にやっていますが、テレビ映画のような小粒の映画が多いです。それから、イタリアでは海外の映画作品はほとんどが吹き替えで、ローマなら、サブタイトルで上映する映画館は数軒しかありません。それだけにサブタイトルで上映する映画館は、『ハンティング・ゲーム』などの超大作の際は、各国から赴任している家族で大賑わいになります。(元発行人 坂井健二)

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