北島康介、入江陵介らトップスイマー集結

特別レポート

日本のトップ・スイマーが参戦

ニュー・サウス・ウェールズ州オープン選手権

 ロンドン五輪のメダリスト7人を含む日本の競泳選手23人が、シドニーのオリンピック・パークで3月15〜17日に開催された競泳大会「ニュー・サウス・ウェールズ州オープン選手権」に参加。豪代表選手が数多く参戦するハイレベルな大会となった中、多くの日本人スイマーが表彰台に上がる好成績を収めた。取材に訪れた際に北島康介や入江陵介、日本チームの平井伯昌ヘッド・コーチに直撃インタビューを敢行。大会のレポートとともにトップ・スイマーたちの生の声をお届けする。 (取材=編集部)

 

日本選手団が各種目で表彰台

試合が行われたのは2000年に開催されたシドニー五輪会場のオリンピック・パーク・アクアティック・センター。同会場のプールは北島康介(30、日本コカ・コーラ)にとっては初めて出場した五輪で泳いだ記念すべき場所で、ここで行われたNSW州オープン選手権に北島をはじめとする23人の日本人選手団が参戦した。

北島は言わずと知れた日本水泳界の顔。04年のアテネ五輪と08年の北京五輪の2大会連続で平泳ぎ100m、200mの金メダルに輝き、競泳での日本人初となる2種目2連覇を達成。4大会連続出場となったロンドン五輪では4×100mメドレー・リレーでチームを銀メダルに導くなど日本水泳界を牽引し続けた。

そのほか出場した主な選手としては、ロンドン五輪で同メドレー・リレーをともに泳ぎ、200mバタフライ銅メダリストの松田丈志(28、コスモス薬品)。

同リレーのメンバーで、ロンドン五輪200m背泳ぎ銀メダリスト、100m背泳ぎ銅メダリスト、100m/200m長水路の日本記録保持者の入江陵介(23、イトマン東進)。

同じく同リレー・メンバーで、ロンドン五輪400m個人メドレー銅メダリストで、200m/400m個人メドレー、100m/200m背泳ぎで高校記録保持者の萩野公介(18、御幸ケ原SS)。

2012年9月の岐阜国体で、ロンドン五輪でダニエル・ジュルタ(ハンガリー)がマークした世界記録を0秒27も更新する記録を叩き出した現200m平泳ぎ世界記録保持者の山口観弘(18、志布志DC)。

女子では、ロンドン五輪100m背泳ぎ銅メダリスト、4×100mメドレー・リレー銅メダリスト、50m/100m背泳ぎ日本新記録保持者の寺川綾(28、ミズノ)。

同リレー・メンバーで、50m/100mバタフライ日本記録保持者の加藤ゆか(26、東京SC)。

同じく同リレー・メンバーで、100m/200m自由形日本記録保持者、200m/400m/800m自由形リレー日本記録保持者の上田春佳(24、キッコーマン)など、錚々たるメンバーが顔をそろえた。

第1日目となった15日は、女子50mバタフライで加藤が26秒81で3位、男子50m平泳ぎでは山口が28秒45で2位、北島が28秒50で3位、50m背泳ぎでは入江が25秒42で2位に入賞した。

また萩野は、男子400mメドレー・リレーの日本の第1泳者として53秒81と100m背泳ぎの高校新記録をマーク、男子400m自由形でも3分46秒89の高校新で優勝を飾った。同リレー(萩野、山口、砂間敬太、松田)は3分37秒66で優勝。女子400mメドレー・リレー(寺川、金指美紅、加藤、上田)も4分1秒18で優勝した。

男子200mバタフライでは松田が1分56秒68で優勝を飾った。

翌16日、男子200m背泳ぎでは入江が1分54秒72で優勝。萩野は同レースで自身の持つ高校記録を更新する1分55秒12で2位に入ったほか、200m個人メドレーにも出場して1分57秒68で優勝した。

男子100m平泳ぎでは山口が1分1秒45で優勝、北島は1分2秒49で2位。女子100m背泳ぎでは寺川が59秒16で優勝した。

そして17日の最終日、男子100m背泳ぎで入江が53秒43で優勝、16日の200メートルに続く連続勝利となった。同レースでは萩野が2位に入り、自身の持つ高校記録を更新する53秒58を記録。これで今大会で4つの高校記録を塗り替えた。

また、男子200m平泳ぎでは山口が2分12秒23で優勝し、今大会2冠。女子50m背泳ぎでも寺川が27秒89で勝ち、16日の100mに続き2冠。男子100mバタフライでも松田が52秒76で優勝し、100mに続き2冠を手にした。

女子400メートル自由形リレーでは、上田、内田美希、宮本靖子、加藤の日本チームが3分42秒66で優勝。男子400メートル自由形リレーは、松田、萩野、砂間、北島の日本チームが3分21秒21で2位に入った。

3日間を通して、シドニー在住の数多くの日本人ファンも会場に駆けつけ、日本選手団の活躍に熱い声援を送った。2日目にはサッカーAリーグのウエスタン・シドニー・ワンダラーズの司令塔として優勝争いに奮闘中の小野伸二も来場し、北島と談笑する姿も見られた。

 

北島康介

「大好きな水泳を心から楽しむ1年に」


インタビューに応じてくれた北島康介選手

試合の合い間に北島ほか数名の選手に話を聞く機会に恵まれた。

パワーで勝る外国勢に対抗するため、水中での水抵抗を極限まで減らす、流れるような美しく大きなフォームに改良を重ね、そして100m/200mの両種目で世界記録を2度も塗り替える偉業を達成した北島。

その後、記録は破られるものの、それは世界のトップ選手が北島の泳ぎに注目し、取り入れたため。つまり世界の平泳ぎを進化させたのは間違いなく北島なのだ。その北島も30歳となった今年は最後の年と思って競技を続ける。

—メディアでは最後の1年と思って水泳を楽しみながら過ごしたいと発言しています。

「そうですね。1つ1つ試合を楽しむ1年にしたい。水泳は選手としてやるには長いスポーツではありません。僕の同年代では豪州を含め、世界中のスイマーはみんな引退していますしね。7月の世界選手権とか、(その選考会となる4月の)日本選手権を目標にするとか、そういうことをあまり気にしないで試合を楽しもうと思っています。と言うか(世界選手権には)たぶん出られないと思うんで(笑)」

—今年はベースにしていた米国を離れ、アテネ五輪と北京五輪で2種目2連覇を一緒に達成した平井伯昌コーチの下で再びトレーニングをしています。

「日本で平井コーチの下でもう1度トレーニングできることがすごく嬉しい。しかも昔みたいに“一緒に金メダルをとりに行くぞ”という関係とはまた違った、お互いが肩の力を抜きながらの関係の中で指導を仰げるというのは、新鮮な気持ちですね。

ただ、平井コーチは僕だけを指導しているわけではない。今は高校生もいるわけだし、ほかの選手をもっと強くすることの方が大切。なので僕は純粋に個人で水泳を楽しみながら、平井コーチともその楽しみを共有できればいいと思っています」

—これまでは日本競泳界を引っ張ってきた存在。今年は後進の育成に力を注ぐということも考えていますか。

「僕から若手に何か具体的に伝えられるというものはないですね。むしろ頑張っている若手に刺激をもらいながら僕自身も良い状態で水泳を楽しめればと思っています。今の僕にできることというのは限られている。そう考えると、自分が泳ぐことで国内に向けた何らかのメッセージだったりとか、そういうことで活躍できたらいいなと思っています。

今回のような海外の大会でも見に来てくれるファンがいるということはすごく嬉しいし、僕に限らず日本の水泳に目を向けてもらうことは日本水泳界の発展にとっても大切なことです。オーストラリアは水泳大国ですが、これからも日本の水泳にももっと目を向けてもらって、応援してもらえたらありがたいなと思います」

 

寺川綾 & 加藤ゆか

“美人スイマー”2人にカフェで遭遇


日本女子最強スイマーの加藤ゆか選手(左)と寺川綾選手

最終日、試合会場に併設されたカフェでリラックスする寺川綾と加藤ゆかに遭遇。ともにロンドン五輪での銅メダリストで、寺川は女子50m/100m背泳ぎ、加藤は女子50m/100mバタフライでの日本記録保持者。2人とも各種目における日本女子最強のスイマーであり、また「美人スイマー」として名を馳せている。今大会の前には北島を含む平井チームの一員としてキャンベラでの合宿に参加している。

—今回の豪州遠征の成果はいかがでしたか。

「キャンベラではAIS(注:豪スポーツ研究所)との対抗試合もあって、アリシア・クーツ選手(注:ロンドン五輪で5つのメダルを獲得)の隣で泳げたことがとても光栄ですね。すごく差を着けられちゃったんですけど(笑)。この大会でも結果は全然よくなかったんですが、少しは得たものはあったので次の試合に生かせたらと思います」(加藤)

「キャンベラではAISの方に水中での映像を撮っていただいたり、アドバイスをいただいたりして、とてもいい経験になりました。この大会でも五輪メダリストがたくさん出ていますし、日本で出る大会よりもレベルの高いレースだったので、その中で勝てたことは良かったと思います」(寺川)

—遠征中はオーストラリアを観光する時間はありましたか。

「オーストラリアには何度か来ていますが、2007年の世界選手権の時と同じく、ホテルと会場の往復ばかりで観光はあまりしていません。でも今回はキャンベラで植物園と美術館に連れていっていただきました」(加藤)

「それとキャンベラの日本国大使館に、チーム全体のためにお昼に歓迎会を開いていただきもしました。秋元大使がスポーツにかなり詳しい方でいろいろとお話を伺いました。クリケットのルールについてなど楽しくお話ができました」(寺川)

—こちらにも2人のファンはとても多い。何かメッセージを。

「この試合にも日本の方が応援に来てくれて、すごく嬉しくて力になります。日本だけでなく世界中でもっともっと水泳が盛んになるよう、私たちもその1つの力になれればいいと思っています。これからも頑張りますので応援をよろしくお願いします」(加藤)

「応援してくださる皆さんに感謝の気持ちを持って、日本の選手ももっと世界で戦えるように頑張っていきたいと思います」(寺川)

 

平井コーチ

「日豪水泳界のコラボレーションで4年後に金を」


平井伯昌ヘッドコーチ

北島が5歳から通う東京スミング・センターのヘッド・コーチとして、そして北京では日本代表コーチ、ロンドンでは日本代表ヘッド・コーチとして数多くのメダリストを育て上げた日本水泳界指導者の第一人者が平井伯昌氏。4年後のリオデジャネイロ五輪終了まで代表ヘッド・コーチを務める契約を日本水泳連盟と交わしている。その平井コーチに4年後に向けた戦略を聞いた。

—日本選手権前の今回、遠征地として豪州を選んだ理由は。

「レースに出ることで選手たちのスピード強化を図るためです。ロンドン五輪が終わって今シーズンのスケジュールを練っていた時に、ちょうど4月の日本選手権前にこの大会があり、日本との時差もないので適切と判断しました。

以前からジュニアの大会に参加したり、4年前には日豪対抗戦をやったりと、もともと豪州と交流が深かったこともあります。また、日本の弱点となっている種目、例えば男女の自由形とか長距離などが豪州は強い。日本の強い部分と豪州の強い部分が重なっていないことから、うまく情報交換したりトレーニングを一緒にしたり、対抗試合をしたりすることでお互いに良い効果が望めます。

豪州は前回の五輪で10個メダルを取りましたが金メダルがなかった。日本も11個メダルを取ったがこちらも金がない。4年後の目標ということでは金メダルの獲得というところで一致していますので、今後もできるだけコラボレーションしてやっていきたいですね」

—キャンベラでの合宿も含め、有意義だったと感じることは。

「AISのスタッフに『ウェット・プレート・テスト』という、スタートから水中動作、浮き上がりまで、それとターンなどの水中映像の撮影と測定をしていただいたことがまず1つ。それとアリシア・クーツ選手などの一流選手と一緒にレースをしたことも選手にとって刺激になったと思います。試合では寺川と萩野の内容がすごくよくて、また松田もだんだん自信を戻してきています。

高校生で世界記録を出した山口とかメダリストの萩野のように、スケールの大きい選手もいますが、私は日本という枠の中に閉じ込めないでいろいろ外に触れることが大切だと思っています。人間的に大きく伸びますし、その結果として記録も伸びると思う。」

—北島選手が平井コーチの下でトレーニングをすることになりました。

「今、ひと回り以上年齢の違う選手ともトレーニングをしていますが、彼の原点である“水泳が好きだ”という気持ちが、若手に良い影響を与えています。試合に向けた集中力だとか、練習中の前向きな姿勢を見て、萩野や山口、ほかの選手も刺激を受けています。彼のポジティブな態度や自信、存在そのものが影響を与える人物になっているので、見ていてすごく頼もしい。彼と改めて一緒に練習すると、僕にとっては北島康介という存在が原点だったんだと感じます」

—リオ五輪に向けての抱負をお願いします。

「ロンドンで金が取れなかったというのが一番の反省ですので、リオに向けての4年間の中で、金メダルを取れる“匂い”のするような、積極的なレースというのを選手に求めたいですね。お互いに切磋琢磨して、高いレベルを狙う内容のレースをしてほしいと思います」

 

入江陵介

「ブリスベンは自分自身と向き合える場所」


入江陵介選手

ロンドン五輪では銀2・銅1の3個のメダルを獲得し、日本水泳連盟が選ぶ2012年度の最優秀選手に選出された入江陵介。その入江はこの1月から3月にかけての約2カ月強、ブリスベンを拠点にトレーニングを積んだ。北京五輪女子個人メドレー2冠のステファニー・ライスらを指導したマイケル・ボール・コーチに師事するためだ。

—リオに向けての4年のスタートとして、ブリスベンを練習拠点に選んだ理由は。

「日本がオフシーズンの冬場にこちらは夏。暖かい所の方が故障が少ないということで選びました。マイケル・ボール・コーチに関しては、言葉も環境も違う中でのトレーニングでしたので新鮮でしたし、自分なりにいい雰囲気の中で練習ができました。具体的に言うのは難しいのですが手応えも感じています」

—ブリスベンという街は合宿地としていかがでしたか。

「僕は大阪に住んでいますが、ブリスベンは日本みたいにすごい都会ではなかったですし、自然が多くてとても落ち着いた街でした。気持ちに余裕を持って練習に励める環境で、自分自身と向き合ったりしながら、とてもゆっくりできる機会でした」

—こちらでの思い出を挙げるとすると。

「初めてサーフィンに行きました。バイロン・ベイという場所です。初めてでしたがロングボードで波に乗ることができ、とても気持ちよかったです。それと、こちらに来て日本人のコミュニティーの結束力の強さみたいなものを感じる機会が多々ありました。これからも応援してもらえれば嬉しいです」

—リオ五輪に向けての課題と抱負をお願いします。

「リオに向けてはまだまだ。とにかく今は1年1年しっかりやっていくことだと思っています。今年は世界選手権があります。日本でもオーストラリアでも指導してもらっていますが、ターンの浮き上がりとかバサロなどの強化を課題としています」

日本のトップ・スイマーたちがここ豪州で存分に力を発揮し、また豪水泳界から多くのものを吸収しようとする姿を目にし、とても頼もしくまた誇らしい気持ちになることができた3日間となった。リオデジャネイロ五輪という4年後の大舞台で、金色のメダルを手に満面の笑みを浮かべる日本人スイマーたちの姿が見られることを大いに期待したい。

(文中すべて敬称略)

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