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オーストラリアでストが相次いでいるのはなぜ?

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長期的に見ると実は激減 組合に加入する労働者の割合も大幅に下落

 シドニーの広範囲で11月の週末に計画された州営鉄道のストや、メルボルンにあるスーパー「ウールワース」の配送センターで12月初めまで3週間以上続いた従業員のピケ(封鎖)など、オーストラリアではこのところ生活に影響を与える大規模な労働争議が相次いでいる。

 13日早朝には航空最大手カンタス航空の整備士も4時間の時限ストを予定していて、クリスマス直前の休暇シーズンの空のダイヤが混乱する可能性がある。ストが珍しくなった日本から最近オーストラリアに移り住んだ人や出張で訪れている人は、「なんてストの多い国だ」と感じるだろう。

 世間を賑わせるストが続いている背景には、インフレや高金利で生活コストが高騰して自由に使える所得が目減りしたため、賃上げ圧力が高まっていることがあると見られる。

グラフ作成:©守屋太郎

労組組織率は最盛期の4分の1に

 ところが、1980年代のピーク時と比べると、実はオーストラリアの労働争議は激減している。長期的なトレンドで見ると、ここにきてストが多発しているわけではない(上記グラフ参照)。

 オーストラリアでは80年代から90年代初頭にかけて、国民生活や経済に大きな打撃を与えるようなストが頻発。「カントリー・リスク」(海外からの投資や企業進出に影響を与える紛争や政情不安などのリスク)とまで言われた。オーストラリア統計局(ABS)の四半期毎の労働争議に関するデータによると、最盛期の85年には7-9月期の3カ月間だけで605件のストがあり、17万900人の労働者が参加、34万9,400日の労働日数が失われた。この年のスト総数は1,958件に達した。

 しかし、その後、スト件数はおおむね右肩下がりに減少。2023年1年間は246件、直近の今年1月〜9月は163件と低水準で推移している。

 最大の要因としては、労組に加入する組合員の割合が大幅に低下したことがある。ABSによると、労組組織率は80年代中頃まで5割近くに達していたが、24年にはわずか13.1%と最盛期の約4分の1の水準まで低下した。

来年の選挙に向け労働党政権に打撃か

 では、ストが多発した40年前と比べて、労組の組織力が相対的に弱体化したのはなぜか? いくつかの要素が指摘されているが、1つには、ハワード首相(当時)の保守連合政権(96年〜07年)が、労組の影響力低下を狙って労使関係改革を断行したことがある。これにより労使協定は、従来の会社と組合の団体交渉から会社と従業員の個別交渉にシフトした。

 加えて、自由貿易や規制緩和を背景にオーストラリアの産業構造が変化し、労組の力が強かった製造業が衰退。労組があまり浸透していないサービス業が台頭したことも一因と指摘されている。90年代初頭からコロナ禍まで約30年続いた記録的な長期経済成長を背景に国民が総じて豊かになったことで、労働者の権利を主張するより、個人のスキルを上げて仕事をステップアップしようという前向きな勤労意識が定着したことも、1つの要因と言える。

 もっとも、アルバニージー首相率いる現労働党政権(中道左派)は、その名の通り「オーストラリア労働組合評議会」(ACTU)を頂点とする労組が支持母体。政権内にも労組の弁護士や幹部を経て政界入りした人物が多い。交通機関の運行やスーパーの物流など日常生活に支障をきたすような大規模なストが今後も続くようなら、労働運動と関係ない一般国民は敬遠するだろう。来年5月までに実施される次期連邦選挙に向け、政権にとって爆弾となる可能性は否定できない。

■ソース

Industrial Disputes, Australia, September 2024(ABS)

Trade union membership, August 2024(ABS)

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