オーストラリアが戦争でトクするヤバい理由とは? 生活者の財布は火を吹いているけど!

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エネルギー輸出企業が儲かり、税収も増える無慈悲なシナリオ

「漁夫の利」とは、古代中国の書物『戦国策』に出てくる古事成語。鳥と貝が争っているところを漁師が両方捕えるという話

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3月のオーストラリア物価上昇率、前年同期比4.6% ガソリン高騰で2年半ぶり高水準

5月利上げは想定内、でもそれからどうなる? 分水嶺に立つオーストラリア経済 イラン攻撃後初のインフレ率、市場予測4.8%!

 ホルムズ海峡封鎖による急激なインフレに加え、5月に追加利上げも想定され、オーストラリア生活者の財布は火を吹きそうだ。その一方で、資源価格の高騰で輸出企業が儲かり、税収増で政府の懐も潤う。そんなシナリオもささやかれ始めた。(解説:守屋太郎)

 同国の統計局(ABS)が29日発表した物価統計によると、3月の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比4.6%と2月の3.7%から一気に上昇し、2年半ぶりの高水準となった。ホルムズ海峡封鎖によるガソリン小売価格高騰が直撃した。

 ただ、事前の市場予測4.8%(ウエストパック銀)は小幅に下回った。初期の燃料高騰を反映した格好だが、極端な物価変動を除いたCPIの「トリム平均値」(基調的インフレ率)は3.3%と前月と同じだった。

チャーマーズ財務相、インフレは「数カ月中に様々な物価に波及する」

 統計発表を受けて、ジム・チャーマーズ連邦財務相は同日、イラン情勢由来のインフレが今後、より広い範囲に拡大する可能性があるとの見解を示した。

 チャーマーズ財務相は声明で、CPIデータについて「中東の紛争のために、国民が高額の負担を強いられていることを示した」と指摘した。その上で、財務相は「戦争の影響は、今日発表されたヘッドライン・インフレ率(CPI総合)に現れたが、今後数カ月間でほかの物価指標に反映されるだろう」と述べ、「基調的インフレ率」にも影響が及ぶことを示唆した。

 インフレは今後は、燃料の小売価格だけではなく、トラックなどの輸送費、航空機の燃料サーチャージ、石油を原材料とする素材、輸入品の価格などサプライチェーン全体に波及し、景気を悪化させる可能性がある。最悪の場合、物価高と景気後退が同時進行して制御不能となる「スタグフレーション」が起きる可能性も否定できない。

 連邦政府は5月12日に発表する2026-27年度(オーストラリアの会計年度は26年7月1日〜27年6月30日)連邦予算案で、イラク情勢の影響を含む経済見通しを公表する。各種経済指標の予測をどこまで下方修正するかが注目される。

 なお、24日時点のウエストパック銀の予測によると、CPI総合の上昇率は26年4-6月期に前年同期比5.4%、トリム平均値の上昇率は26年7-9月期に4.0%に、それぞれ達する見通し。国内総生産(GDP)の伸び率は、26年が前年比1.0%、27年が1.6%と低空飛行する。失業率は27年1-3月期に5.0%まで上昇する。

21世紀の石油ショック、豪経済にとってマイナス?それともプラス?

 その一方で、エネルギー輸出企業や政府の財政にとっては追い風となる可能性も指摘されている。戦争による商品価格の上昇を背景に、関連企業の利益が増え、法人税収が拡大するとの見立てだ。公共放送ABCによると、5月の来年度予算案で政府の歳入見通しが大幅に上振れするとの観測が出ている。

 株式市場はエネルギー企業の業績拡大を織り込んでいる。オーストラリア証券取引所(ASX)の主要株価指標「S&P/ASX200」(時価総額上位200社の加重平均)と、同エネルギー関連企業に特化した株価指標「S&P/ASX200エナジー」をイラク攻撃直前の2月27日の終値を100とした指数で比較した(グラフ参照)。S&P/ASX200エナジーは攻撃直後から上昇し、上げ幅は一時20%を超えた。その後の一時停戦で低下したものの、4月29日は2月27日比で約14%高い。一方、S&P/ASX200は一時10%近くまで下落した。29日は約6%安い水準にある。

 実際、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった22年以降、オーストラリア経済は商品価格が高騰したため資源や食糧の輸出額が増え、「漁夫の利」を得た。法人税収が増大し、インフレで名目賃金が増えたことで所得税収も拡大。政府の財政収支は、22-23年度から2年度連続で黒字を達成した。

 オーストラリアにとってホルムズ海峡封鎖の本質は、9割を輸入に依存する石油精製品の「供給ショック」にある。ウクライナ侵攻と異なり、生活に直結する国内問題だ。それでも、オーストラリアのエネルギー輸出の主力商品である液化天然ガス(LNG)や石炭には、追い風が吹いている。

 LNGは、イランによるカタールのLNG輸出拠点への攻撃と、世界全体の2割が通るとされるホルムズ海峡の封鎖で、特に中東産への依存度が高いアジア諸国で需給がひっ迫している。LNGは長期契約が主体で、急な増産も難しいため、オーストラリアにとって好影響は限定的という側面もあるが、有利な状況ではある。

 そうした中、儲けを社会に還流させるため、天然ガス輸出企業に新たに課税する案が浮上している。ただ、コストアップにつながるため、輸出先の政府や関連企業が反発しているとされる。オーストラリアとしては、LNGの安定供給と引き換えに、アジア諸国から石油精製品を確保したい。それだけに、今のところ5月の来年度予算案に盛り込むのは難しいと見られる。

 また、石炭火力発電も見直し、再稼働の動きが出ている。石炭の利用は脱炭素の流れで縮小傾向にあったが、今は背に腹は変えられない。日本政府もイラン情勢を受けて4月から稼働制限を解除した。

 イラン情勢の起結は見通せない。ただ、エネルギー価格の高止まりが続いた場合、国民がガソリン高騰や供給難、インフレで困窮しているにもかかわらず、LNG・石炭の輸出企業や政府の税収はウハウハ。そんな成り行きも、なくはなさそうだ。

◼️ソース

New inflation figures(The Hon Dr Jim Chalmers MP, Treasurer)

AUSTRALIA & NEW ZEALAND WEEKLY, Week beginning 27 April 2026(Westpac Economics)

S&P/ASX 200 Energy (AXEJ) Historical Data(Investing.com)

S&P/ASX 200 (AXJO) Historical Data(Investing.com)

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