メルボルン探訪/豪柔道界を影で支える日本語教師ダグラス・ノアクさん


第2回豪柔道界を影で支える日本語教師、ダグラス・ノアクさん

メルボルン在住の著者がメルボルンに絡むさまざまな「人、モノ、こと」を取材を通して掘り下げていくシリーズ。今回は柔道の全豪大会を取材した。取材・文=原田糾

左から桜さん、平くん、ダグラスさん、愛理さん
左から桜さん、平くん、ダグラスさん、愛理さん

柔道の全豪チャンピオンを決める国内選手権大会が13年ぶりにVIC州で行われると聞き、開催地ジーロング(Geelong)のジーロング・アリーナ会場に足を運んだ。全国の9歳から70歳まで約800人の強豪選手が116部門に分かれて全豪1位の座を競い合う4日間の大会は大変な熱気に包まれていた。

大会2日目には8月に開催されるリオデジャネイロ五輪の豪州代表選手が発表され、過去最多の7人が選出。VIC州からは2人の男子が入った。

五輪を直前に大きな成功を収めた同大会、そのホスト役を務めたのが地元ジーロングの私立校カーディニア・インターナショナル・カレッジで日本語教師として働くダグラス・ノアクさん(46)だ。会場で声をかけると「ようこそおいでくださいました」と明るく流暢な日本語で出迎えてくれた。

8歳から柔道を始め、10代は全国大会でトップの座を争った。豪州政府の奨学金で日本に留学した際には大学の体育会で鍛錬し、武道精神も身につけた。日本人の奥さんをもらい、1995年から2年半、英語教師として日本に滞在した際にも地元警察署や学校の柔道部員として団体戦に出場するなどし、柔道一筋の人生を送ってきた。現在はVIC州柔道連盟の会長を2期連続で務め、州柔道界の発展に力を注いでいる。

彼が、現在の学校に職を見つけ日本から帰国した時に創設し、地元の子どもたちに18年にわたって柔道を指導する柔道教室「カーディニア柔道クラブ」は、州のみならず豪州柔道界の発展に大きく貢献する活動の1つだ。学校の授業の一環としても柔道を取り入れていることから、小学生も多く、生徒は60人と州内随一。日本国外でありがちな、勝負にこだわる競技としての柔道に偏ることなく、礼儀作法など武道精神を伝えることを大切にしている。生徒が成長して教室を巣立っても、大学生や社会人になると後輩を教えに戻ってくる。

「創設当初は数人でしたが、他人や環境を敬うなどの礼儀作法が身につくこともあって人数も徐々に増えて」とは自身も剣道で育った妻の育世さん。「豪州では蹴りなどアクションの派手な空手の人気が高いんですが、見た目が地味な柔道はなかなか広まらない」と夫の苦労をそばで見守ってきた。それでも、ダグラスさんが毎年主催している柔道のオープン大会「KICカップ」は有名になり、州内の柔道家が毎回150人規模で集まってくる。

「欧州だったら車で30分も行けば外国。国際試合にも参加しやすい。でも豪州は海外はもちろん他州の大会に出るにもお金も時間もかかる」とダグラスさんは州内に誰でも参加できる機会を作ってきた。州内から2人の五輪代表選手を輩出できたことにも大きく寄与している。

今回、惜しくもリオ五輪代表選考には漏れたが、ダグラスさんと育世さんの3人の子どもたちも、父親の指導の下、優秀な柔道家として成長した。長女の愛理(あいり)さん(18)と長男の平(たいら)君(17)は、ともにナショナル・チームのメンバーとして活躍。次女の桜さん(14)も15歳からのメンバー入りを狙っている。将来を聞くと、愛理さんは「もっと柔道がうまくなること」と謙虚だが、平くんと桜さんは「夢は東京五輪」と頼もしい。

「日本人五輪メダリストをコーチに招くなど力を入れてきたので、豪州柔道のレベルは最近は上がってきました。しかし、まだまだ国内の柔道競技人口が少なく、礼儀作法を重んじる武道への理解度も低いのが現状です。そのために(裾野をもっと広げられるよう、次の)五輪で豪州初となる銀メダル以上がぜひ欲しい」。ダグラスさんは豪柔道界を想い、鍛え上げた胸を更に大きく膨らませていた。

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