自由であり続けるために「変わっていくこと」が大事
アーティスト・Hiroyasu Tsuri / TWOONE、インタビュー

1_IMG_9134

シドニー市内南西部にあるジャパンファウンデーションで、現在アート・イベント「SURFACE TENSION」が開催中だ。メルボルンにあるストリート・アートやグラフィック・アートを推進させるバックウッズ・ギャラリー(Backwoods Gallery)がパートナーとなり、同ギャラリーが抱える日本人アーティスト4人の作品を鑑賞することができる。今回はその中の1人、Hiroyasu Tsuri / TWOONE(トゥーワン)さんに展示されている作品のことから、現在の活動や自身のアートに対する考え方などの話を伺った。
(聞き手=高坂信也)

世界中に広がる仕事と作品の幅

――「Hiroyasu Tsuri」と「TWOONE」の名前をどのように使い分けているのですか。

Hiroyasu Tsuri(以下、Hiro):自分でもよく分からなくなっているのですが、元々壁画やストリート・アート、グラフィティで使用していた名前が「TWOONE」なので、壁画にはそれでサインをしています。ギャラリーで個展を開く時には、よく知られているため「TWOONE」も使いますが、基本的に「Hiroyasu Tsuri」を使っていますね。

―― HiroさんのSNSのプロフィル欄に「Twoone is a hungry animal.」とあります。これはどういった意味ですか。

Hiro:アーティストの友人が名付けてくれたものです。もちろん僕自身が動物をよく描くことにも由来があるのですが、「人として興味のあるものをどんどん吸収していきたい」「いろいろな所に行く」「ハングリー精神を持って活動していく」という僕のアート・スタイルを示しています。それに、何だか面白いでしょ、そのひと言が(笑)。

―― 現在の活動内容について教えてください。

Hiro:かなり大きいサイズの壁画を世界各国で描かせてもらっています。また個展を開いたり、コマーシャル・アートの作品を手掛けたりもします。依頼の話を頂いて、それが面白そうであれば引き受けています。日本では2017年末、バカルディ主催の「Over The Border」というアート・イベントでライブ・ペインティグをしましたし、15年には名古屋で壁画を幾つか描きました。少しずつですが、日本での仕事も増えています。
窶儺-HOEKJE
‘T Hoekje’ (2018) at the Fries Museum in Leeuwarden, Netherlands ©Hiroyasu Tsuri / TWOONE

―― 個展ではどういった作品を展示されるのですか。

Hiro:今回(SURFACE TENSION)の展示作品のような「ライト・ボックス」のピースを描いたり、キャンバスに絵を描いたり、彫刻を作ったりするなど壁画以外の作品を展示しています。他にも映像や音も作りますね。

―― 今回の作品について教えてください。

Hiro:アクリル板の裏側にスプレーで絵を描いています。(スプレーは)乾くのが早いので、その前に指やパレットで削ることで、独特の質感を作り出しています。このアート・シリーズの作品はデザインやアイデアさえ頭にあれば、仕上げるのは早いですね。

―― アイデアが思い付くまでの時間を含めると、どのくらい時間が掛かっているのですか。

Hiro:今回の作品のタイトルは「Botanical Self Portrait」で、植物を使って自画像を描いた作品です。日本で生まれて、オーストラリアで10年過ごして、現在ベルリンに住んでいるという背景から、その3カ所の植物を組み合わせて作りました。アイデア自体が既に頭の中で構築できていたので、今回はスケッチを5分でしました。他の作業と同時並行でしたが、2枚のライト・ボックスを半日~1日で描きました。
窶儺-HOEKJE

―― バック・ライトはどのような意図なのですか。

Hiro:一番最初にやり始めたころは「見た目が面白い」と思い、その後今回の作品のようなボタニカルの作品をライト・ボックスで描くようになってきました。その手法が純粋に植物を描くことに適していると気付いて、ライトを使用しています。

また、植物にハイライトを当てることが「合っている」と感じています。植物はやはり「パワー」であり「ライフ」なので、いろいろな側面から見た時に新しく明るい印象を与えられると思っています。

1つのものに縛られず、変わり続けていくこと

―― オーストラリアとの出合いについて教えてください。

Hiro:高校卒業後すぐに、語学留学のため来豪しました。高校での進路相談で「何をしたいか」と問われて、大学は高校の延長で行くような気がして嫌だったので、専門学校を検討しましたが、その当時僕がやりたいと思っていたことが多すぎて、1つに絞ることができませんでした。それで語学留学をしてみようということでオーストラリアに来ました。

―― 多すぎるやりたいことの中にはどのようなものがあったのですか。

Hiro:アーティストもそのうちの1つでしたね。ただ、その当時僕が想像していたアーティスト像は高いレベルの場所で、手の届かないところにありました。自分の周りにアーティストとして生計を立てている人がいなかったので、あまり現実的じゃない夢の1つとして持っていました。

けれど、小さいころから物を作ったり絵を描いたりするのが好きだったので、グラフィック・デザインや工業デザイン、ファッション・デザインなど、「デザイン」と名の付く学科のある所は全て見に行きましたね。どれも面白そうだったのですが、1つには決めきれませんでした。

語学留学と言えばロンドンやニューヨークが主流でしたが、当時の僕は皆が行っていない所に行きたかったんです。今でこそオーストラリアは人気留学先の1つですが、当時はそれほどメジャーではなく、シドニーとゴールドコーストは知っていましたが、メルボルンという名前は聞いたことがなかったです。更に、その当時スケートボード(スケボー)がメルボルンで流行っているとスケーター仲間から聞き、メルボルン行きを決めました。

メルボルンでは、スケボーをしたり、グラフィティをしていたスケボー仲間たちと一緒にグラフィティを描いたりしていました。10カ月だけの滞在予定でしたが、とても面白く刺激的な生活を送れたので一度日本に帰国してからいろいろと整理をして、再び来豪して気付いたら10年間住んでいましたね。


©Hiroyasu Tsuri / TWOONE

―― 仕事はどのように決まっていくのでしょうか。

Hiro:いろいろですね(笑)。最近はギャラリーから声を掛けてもらえるようになりました。人づてや知り合いのアーティストが紹介してくれる場合もあります。昨年6月にパリで個展を開催したのですが、これはベルリン在住のアーティストを集めて行う「Made in Berlin」という展示会で以前から交流のあったアーティストが推薦してくれたのがきっかけでした。今はオンラインで、メールやインスタグラムから仕事の依頼が来たりもします。

壁画に関しては、オーストラリアでは企業や市や街のカウンシルなどのいろいろな組織・機関からの依頼があります。市や街のカウンシルは、壁画など公共のアート・プロジェクトとして作品制作に予算を持っていますが、特定のアーティストだけを選ぶことができないので、公募でアーティストを5~6人選出します。更に、その人たちがコンセプト・スケッチを描き、そこで選ばれた人が実際の壁面に描くことができるシステムになっているんです。そうした仕事には自ら応募していますね。

―― 日本では考えられないのではないでしょうか。

Hiro:そうですね。日本でも助成金のようなものがあるみたいですが、壁画に関してはないですね。おそらく、費用がないというより「スペースがないのではないか」と思っています。この点が一番の要因だと思います。オーストラリアの建物はブリック(れんが造り)だったり、コンクリートの壁もいっぱいあるじゃないですか。反対に日本の、特に民家だと描く所がないんです、垣根に描くわけにもいかない。結局のところ、そういう問題なのかなと。

僕がオーストラリアで壁画を始めた15年ほど前は、今よりもまだストリート・アートというものが浸透していなかったので、違法で描いたり、個人間で「この壁に描いても良い?」という交渉から始めていました。グラフィティを描くのに個人の家はやりやすい対象だと思うのですが、日本にはそれがないので違法にやるしかないんだと思います。オーストラリアでは小さいものから、個人単位で描けるかどうかを尋ねることができる環境があって、たくさん描くことで練習できたり、スキルを上げることができた感じはありますね。

―― 日本の社会性や倫理観の関係からグラフィティが広まらないと考えているのですが、その点についてはどう思われますか。

Hiro:う~ん、どうでしょうね。グラフィティと言っても大型のものは「ミューラル」という壁画のことなんです。グラフィティは違法に描いているものを指していて、ミューラルもそこから派生してきているんですけどね。

ただ、日本でも壁画はありますよね。渋谷駅には岡本太郎さんが描いたタイル画が大きく飾られているじゃないですか(※1)。それと同じようなものだと考えて良いと思うんです。

(※1)岡本太郎作『明日の神話』:京王井の頭線渋谷駅とJR渋谷駅を結ぶ連絡通路に設置されている縦5.5メートル、横30メートルの壁画
'Sumac Golden Gater Snake' (2018)Toronto, Canada ©Hiroyasu Tsuri / TWOONE
‘Sumac Golden Gater Snake’ (2018)Toronto, Canada ©Hiroyasu Tsuri / TWOONE

―― なるほど。そうするとHiroさんの作品は全てミューラルに当たるのですか。

Hiro:全てではないですね。いまだにグラフィティもやってしまうのですが(笑)。実際に「活動しています」と言って、インターネットなどに挙げているものはミューラルとして依頼をされて描いているものですね。

―― 作品を拝見する限り、動物を多く描かれていますが、その点についてこだわりなどはありますか。

Hiro:最近はもっとさまざまなものを描くようになっています。動物を描くことが面白いというのが根本にはありますね。(動物は)描いていてさまざまなフォルムや、いろいろなテクスチャーがあるので楽しいです。ただ先日開催したメルボルンでの個展では、オブジェクトや風景といったものも展示しました。

―― 作品を描く時に注意していることや気を配っていることを教えてください。

Hiro:1つのものに縛られないで変わっていこうと自分の中で意識しています。「変わっていくこと」がスタイルだと考えて、創作活動を続けていますね。アーティストによっては“このやり方でないといけない”という考え方を持っている人もいますが、僕の場合はそうではなくて、毎回の個展で前回とは全然違うものを制作して展示したいなと常に考えています。

歴史や政治を間近で感じる

―― Hiroさんが表現したいもの(こと)とは何でしょう。

Hiro:それはものによります。1つのものだけを表現しようと思って活動しているわけではありません。同じことをずっと考えているわけではなくて、いろいろなことを考えながら生活・活動しているので、さまざまななものが題材になります。

あえて何か1つあるとすれば、ベルリンに移住してからは作品に少し“政治的な要素”が入ってきたように思います。それまではもっと内観的なことが多く、もちろん今も個人的なストーリーに沿って作品を制作していますが、気に掛かるものに政治的なものが含まれるようになってきました。

―― ベルリンはどのような影響を与えましたか

Hiro:オーストラリアは日本からやって来て見てみると大きい国ですが、ベルリンやその他のヨーロッパ諸国などと比べると隣に他国が存在しない1つの国なので、政治的なことを目にしづらいと思います。

ベルリンに移住して4年半ですが、例えば家の近くに「テンペルホーフ」という、昔、空港で現在は公園になっているエリアがあるのですが、空港が閉鎖する時にディベロッパーがその土地を購入しビルを建てる予定だったのが、近隣住民の反対で公園になったのです。ディベロッパーに住民が勝つという構図そのものが、日本やオーストラリアでは見かけないシーンだと思っています。そういうことを見聞きすると、政治的に面白いなと。

更に、今その公園の中に難民キャンプができていて、2メートルほどしかない柵だけで囲われています。そうした難民キャンプなどを見かけると、政治に興味がなかったとしても実際に目に入ってくるので、「なぜこの場所がそうなったのか」などを調べたりするようにもなりました。

―― 近隣諸国と国境を接しているということが関係しているのでしょうね。

Hiro:そうですね。なぜベルリンに移ったかというと、もっといろいろな場所を見てみたかったということがあり、そのお陰で移住してから何カ国も行くことができています。それほど遠く離れた国ではないけれど、全く違うカルチャーがそれぞれの国にはある一方、同じようなところもあるんですよね。そうした点は歴史的・政治的な部分を知らないと、その違いやどうしてそのような差異が生まれるに至ったのか分からないと思うんです。そうした調べ方や歴史的・政治的なところに興味が出始めたのは、ベルリンに移住してから変わったことですね。
©Hiroyasu Tsuri / TWOONE
©Hiroyasu Tsuri / TWOONE

―― 現在、取り組んでいるプロジェクトを教えてください。

Hiro:今年、アントワープ(ベルギー)でギャラリーをスタジオとして使用させてもらい、作品を制作していく滞在制作が決まっています。インドでも滞在制作の企画が進行中ですが、何をするのか決まっていません。何かをしなければいけないわけではなくて、もしかしたら壁画を描くかもしれないし、スタジオの中で作品を制作することだけに注力するかもしれないし、ただチャンスがあれば両方共チャンレンジしたいと思っていますね。

―― 本日はありがとうございました。


Hiroyasu Tsuri/Twooneプロフィル◎1985年生まれ、神奈川県出身。アーティスト。高校卒業後、10年間メルボルンに居住。その間「Visual Art and Multimedia」のディプロマを取得し、多くのストリート・アートを手掛けながら、数多く個展を開催。現在は、壁画の制作や個展の開催を世界各地で展開している。2014年からベルリンに移住し活動している


ジャパンファウンデーションで開催中のアート⊡イベント「SURFACE TENSION」の会場の様子

Surface Tension
■会場:The Japan Foundation, Sydney(Level 4, Central Park, 28 Broadway, Chippendale NSW)
■日時:開催中~1月25日(金)
■料金:無料
★Web: www.jpf.org.au/events/surface-tension

新着記事

新着記事をもっと見る

NICHIGO CHANNEL

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る