新・豪リークス/「東日本大震災7年。オーストラリアで続く被災地復興支援」

現在TBSのシドニー通信員を務める筆者が、オーストラリアの“ホット”な話題を独自の視点で分析する。あっと驚く“裏情報”や“暴露(リーク)情報”も!?

第21回 東日本大震災7年。オーストラリアで続く被災地復興支援

東日本大震災から7年。シドニーでも被災地復興支援のためのイベントが行われ、地元市民ら500人以上が参加した。また、同じ時期に来豪していた有名陶芸家の辻村史郎氏に原発事故などについてその思いを聞いた。

◇3.11震災復興イベントに500人参加

3月11日、シドニー北部クロウズ・ネストのコミュニティー・センターで東日本大震災からの復興を支援するチャリティー・イベントが開催された。東北の被災者とオーストラリアの支援者の心をつなぎたいとの願いから、「TSUNAGU(つなぐ)」と名付けられたこのイベント。日系人ボランティア・グループ、JCSレインボープロジェクトなどが中心となり、震災が発生した2011年から毎年行われている。

来場者で埋め尽くされた震災復興イベント会場(クロウズ・ネスト・コミュニティー・センター、3月11日、筆者撮影)
来場者で埋め尽くされた震災復興イベント会場(クロウズ・ネスト・コミュニティー・センター、3月11日、筆者撮影)

会場には、延べ500人以上が詰めかけ、和太鼓の演奏に空手のデモンストレーション、沖縄伝統のエイサーなどが、地元在住の日本人グループなどにより披露された他、シドニーにホームステイで滞在していた東北大学の学生が、被災地の現状を伝えた。

また、2000年のシドニー五輪で金メダルを獲得した日本男子柔道の井上康生監督がビデオ・メッセージを寄せ、「自分自身も多くの人とのつながりとサポートにより困難を克服してきた。7年前に起きたことをつないでいき、さまざまな人たちが被災地をサポートすることによって多くの力を捧げることができる」と語った。

井上康生・柔道全日本男子監督からのビデオ・メッセージ(3月11日、筆者撮影)
井上康生・柔道全日本男子監督からのビデオ・メッセージ(3月11日、筆者撮影)

地震発生時刻の日本時間午後2時46分(シドニー時間4時46分)には、1分間の黙祷も行われ、その間照明を落とした会場に、浄土真宗本願寺派の渡部重信住職による読経と鐘の音が響いた。イベントに参加していた地元在住のオーストラリア人女性は「この日、ここに来ることがとても大切だ。日本を第二の故郷のように感じている」と述べ、先日福島県を旅行で訪れたばかりだという男性は「福島ですばらしい人びとに出会った。告知を見てこのイベントを知り、来るべきだと思った」と語った。

プレゼンテーションで東北の被災地には、いまだ多くの人が避難生活を送っていると訴えた東北大学2年の昆野友城さん(20)は、「被災地がしっかり進んでいるとか、ここは足りていないというところを、1年に1回でも良いと思うので、こうしたイベントを通じて知ってもらい、できれば忘れて欲しくない」と話した。

◇自然と共に生きる陶芸家・辻村史郎氏の思い

東北大学生の昆野さんが指摘するように、東日本大震災と福島原発事故による仮設住宅などで暮らす避難生活者避難者数は、震災発生直後の14万人からは大幅に減少したものの、18年2月時点で約7万3,000人となっている(復興庁調べ)。

特に原発事故の影響が残る福島県では、いまだ5万人以上が県内外で避難生活を送っており、仮設住宅に入居している人も3,865人に上っている(18年1月末現在)。原発事故を要因とする震災関連死も増え続けていて、福島県内だけでこれまでに、被災三県(福島、宮城、岩手)の中で最も多い99人が自殺したという。

福島第一原発事故の放射線物質の放出・拡散による避難指示区域は徐々に減少してきているが、いまだに福島県内各所には除染廃棄物の仮置場が1,300カ所もあり、廃棄物が入れられた黒いビニール袋が山のように積まれている。

筆を振るう陶芸家の辻村史郎氏を見つめる「Tetsuya’s」和久田哲也氏と料亭「和久傳」女将、桑村祐子さん(3月9日、筆者撮影)
筆を振るう陶芸家の辻村史郎氏を見つめる「Tetsuya’s」和久田哲也氏と料亭「和久傳」女将、桑村祐子さん(3月9日、筆者撮影)

震災復興イベントの直前の3月9日、シドニー市内にある超有名レストラン「Tetsuya’s」に、細川護熙元首相が師事するなどして知られる有名陶芸家の辻村史郎氏が、京都の老舗料亭「高台寺・和久傳」の若手料理人5人らと共に招かれた。シドニー工科大学(UTS)の窯で自らが焼いた陶器で、「Tetsuya’s」のオーナーシェフ・和久田哲也氏の招待客をもてなした。

普段は奈良県の山奥で、井戸を自分で掘るなど、まさに自然と一体となった生活をしながら創作活動を続けている辻村氏。光栄にも直接インタビューする機会を得た筆者は、書家としても有名な辻村氏が、宴席の前に「土」と書でしたためたのを見て、オーストラリア北部で採掘されたウランが事故を起こした福島第一原発で使われていたことを話した。そして、そのウラン鉱山周辺に住む先住民・アボリジニーの人たちが、自分たちの土地から出たウランが災いを起こしてしまったとして、原発事故で被害を受けた福島の人たちに済まない気持ちでいることを伝えた。「僕にはよー分からんが……」と前置きした辻村氏、「確かに昔も大災害はあったが、昔の人はそれでも立ち直ってやってきた。でも原発を今さらどうするねんっていうのをすごく感じる。止める止めると言ってもできないし、原子力ってやつは、続けていくにはおかし過ぎる代物だと思う」と、穏やかな口調ではあったが、真剣な眼差しで語った。

一方で、母親が宮城県気仙沼市の出身だという「Tetsuya’s」の和久田哲也さんは、被災地で獲れた牡蠣から作ったオイスター・ソースをこれから自分の店などで取り入れる予定で、「気仙沼の周りは、今も本当に何もないが、水がとても奇麗で、そこで獲れた牡蠣もとてもおいしい。被災地へ小さなお手伝いをしたい」と話した。

◇豪で被災地の若者育成プログラム始動

オーストラリアでは、震災発生の2011年から、被災地支援のための草の根活動が各方面で続いている。3月9、10、11日の3日間、シドニー郊外の日本食料品店では、東北関連商品のセールが行われるなどした。

震災復興支援を行なっているJCSレインボープロジェクトは、今年から「被災地復興を担うグローバル若者育成」プログラムを新たにスタートさせる。これまで、夏休みを利用した被災地の学生の保養を目的としたホームステイ・プログラムを行ってきたが、今後は被災地の若者に国際的な視野を持ってもらうための活動を支援する。具体的には、被災地を担う若い地域リーダーに、シドニーなどで2カ月から3カ月滞在してもらい、インターシップやボランティア、国際的なチャリティー・イベントを自ら立ち上げる機会などを設けるのだという。

「日本ではできないことを経験してもらい、グローバルな視点を持つリーダーを育成できればと思います」(平野由紀子JCSレインボープロジェクト代表)

福島などの被災地では、いまだ根強い風評被害の影響もあり、前述の和久田哲也氏のように、被災地の生産品を積極的に受け入れようという業者はまだまだ少なく、避難指示区域が解除された故郷に戻る人も思うように増えないのが現状だ。大地震に原発事故が重なるという人類がこれまで経験しなかったまさに未曾有の大災害からの復興は、発生から7年が経ち、新たなステージへと向かおうとしている。日本から遠く離れたオーストラリアからの支援は、大規模なものではないが、被災地を未来へとつなぐ重要なサポートの1つになることは間違いない。


飯島浩樹(いいじま・ひろき)
日本の民放キー局でニュース番組のディレクターなどを経て来豪。ウーロンゴン大学院でジャーナリズム修士号を取得後、TBSのシドニー五輪支局現地代表となる。現在、TBSのシドニー通信員として多くのニュース・リポートを日本に送っている。2017年8月より、FCAオーストラリア・南太平洋海外特派員協会会長を務める。

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