日豪フットボール新時代(NAT)第114回「苦闘」

第114回 苦闘
文・植松久隆 Text: Taka Uematsu

スコット・マッキンタイアのツイッター・アカウント。それまで定期的に投稿していたツイートは、突然の逮捕の4日前に更新されたままだ
スコット・マッキンタイアのツイッター・アカウント。それまで定期的に投稿していたツイートは、突然の逮捕の4日前に更新されたままだ

スコット・マッキンタイア。豪州フットボール好きの読者には、もしかすると聞き覚えのある名前だろう。彼は準国営放送のSBS勤務時代から豪州フットボール界有数のアジア通として知られ、筆者も取材先で頻繁に顔を合わせたよく知る仲だ。

そんな彼が、ここ数年の活動のベースとしていた東京で、昨年11月28日、逮捕された。当地のメディアで記事になったのを読んで心底驚いた。人づてに、彼はフリーランスの活動の傍ら、日本人の妻との間の2人の子どもの養育に力を入れていると聞いていた。その罪状は「住居不法侵入」。彼は、同5月、妻が前触れもなくどこかへと連れ去った2人の子どもの安否を気遣い、東京郊外の義理の両親が住むマンションの共有スペースに入ったことをとがめられてから、およそ1カ月後に突然、逮捕拘束された。その勾留は、年越しを拘置所で過ごすことになるなど、実に45日に及んだ。

国際結婚カップルの婚姻関係の破綻後の子どもの庇護養育に関する諸問題は、史上まれに見るレベルで良いとされる日豪関係に刺さった数少ない棘だ。今回は、筆者にしてみれば、日豪ハーフの2人の子どもの父親、フットボール・ジャーナリスト、そして、ともにフットボールを愛して止まない人間であるなど共通項が多く、とても他人事と看過できなかった。いわゆる“ハーグ条約”絡みの案件では、男性側(その多数が外国籍)が「悪」として語られがちだが、その実はどうだ。多くの男性が不当に連れ去られた子どもを取り戻すべく、さまざまな苦闘を続けていることはもっと知られるべきだ。

1月15日、公判後に報道陣の前に姿を表したスコット。そのシャツの胸には「片親誘拐」と書かれていた。長期の勾留にやつれた様子も、その立ち姿に強い意志を感じた。8カ月以上会っていない愛する子どもを取り戻すだけでなく、同じ苦しみを持つ人びとのためにも俺は諦めない――そんな強い気持ちが。

シドニーに長く暮らしたスコットだけに、彼とその家族のことをよく知る人も多いだろう。それぞれの家庭には他人が預かり知らない事情もあるだけに、どちらかに肩入れするのが危険なことも理解している。それでも、筆者にはあのスコットが「禁固6カ月、執行猶予3年」の有罪判決を受けた「犯罪者」と扱われ、いまだに子どもを抱くことすら認められないことが許せない。彼の名誉回復と父親としての権利を取り戻す闘いの長い道のりは始まったばかりだ。


【うえまつのひとり言】
日豪の明暗が別れたU-23アジア選手権。日本は、まったくの体たらくで大会を去り、森保監督のフル代表との兼任の限界が露呈。一方、こちらも兼任のアーノルド監督の限界が囁かれていた豪州だが、準決勝進出で東京五輪の切符獲得の権利に王手をかけた。アーノルド本人も国民もほっと胸を撫で下ろした。

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