【今さら聞けない経済学】国の経済成長を決める「要因」とは?

日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。
ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。
解説・文=岡地勝二(龍谷大学名誉教授)

第18回:国の経済成長を決める「要因」とは?

歴史的背景を踏まえて

ある国が限りない経済成長を遂げるためには、「不可欠な要因」があります。それは国の物理的な大きさには関係なく、どこの国にとっても必要なことです。国ができた時からその要素を十分に備えている国もありますが、努力してそれらの要因を備えようとしている国もあります。

どんなに努力をしても国が経済規模を拡大できない時、昔は政治的に他国や他地域を植民地化して経済的なメリットを手に入れようとした時代もありました。皆さんもご存知のようにかつてのイギリスやフランスがそうでしたし、この点において日本も他の国を非難することはできないでしょう。日本が「満州」という地域を事実上「植民地化」したという歴史があるからです。

しかし、21世紀の現代ではそのような「乱暴な政策」をあからさまに採る国は皆無といって良いでしょう。平和な世界に近付いていることは本当に喜ばしく、私も心の底から「世界の平和」を望んでいます。例え経済的発展のためであっても国が武力をもって別の国を侵略するようなことなく、ただひたすら平和を維持していくことが必要だと思うのです。さて、そうした歴史的背景を踏まえて、経済的に一国が限りなく成長を続けていくためにはどのような政策が必要なのでしょうか。今回は、国の「成長要因」を考えてみましょう。

経済成長要因

ある国が限りない経済成長を遂げるために必要な基本的要因は、「生産要素」といわれ、もう既にこのコラムの中で何度か述べてきました。

その生産要素とは、「資本・労働・土地」です。しかし、今ではこれらの3つに更に「技術」を加えるのがより一般的です。大きな国土を持っていても労働人口が少なければ、そして技術水準が低ければ、その国は高い経済成長を成し遂げることができません。一方、小さな国土でも豊富な労働量があり、能力的にも優秀であれば、ことさら「鬼に金棒」といえるでしょう。また、技術水準が高ければその国は高い経済成長を享受できます。日本もこの例に含まれるかもしれませんが、しかしこれは「かつての日本」の話であり、現代の日本、そしてこれからの日本にはもしかするとそのような言葉は当てはまらなくなるかもしれません。以下、その現実を数字で見てみましょう。

【表1】各国のGDP成長率の比較(%)

国名 1990年 1995年 2000年 2010年 2015年
日本 5.6 1.9 2.3 4.7 0.8
中国 3.8 10.9 8.4 9.3 7.1
韓国 9.3 8.9 8.8 6.5 4.0
オーストラリア 2.3 3.0 3.1 2.2 2.9
アメリカ 1.9 2.7 4.1 2.5 3.1
イギリス 1.8 3.5 4.4 1.7 2.7
ドイツ 5.7 1.8 3.3 3.9 1.5

出典:『世界統計白書』(木本書店、2015-2016年版/P48~49)

上の「各国のGDP成長率の比較(%)」の表が示す通り、1990年までの日本経済は先進国の中でトップ・グループにいました。その頃世界では、ヨーロッパはドイツを中心に、アジアは日本を中心にして世界経済は2極体制で構築されていくだろうと言われていたのです。そして技術と資金の面から、おそらく21世紀の世界は日本を基軸として構築される、つまり「21世紀は日本の時代だ」という評価を得ていました。

例えば、アメリカのハーバード大学の有名な社会学者で名誉教授のエズラ・ボーゲルは『Japan as Number One: Lessons for America』という有名な本の中で、アメリカは日本の在り方を見習うべきだ、とまで言い切りました。また『ロンドン・エコノミスト』も世界は日本をお手本にすべきだとして「ミラクル・ジャパン」と書いたのです。

事実、日本人の多くもその言葉を信じて疑わず、経済的にも豊かですばらしい人生を謳歌していました。人びとは老いも若きもどんどん海外旅行をしましたし、長年努力して蓄積した資産を惜しみなく使いました。また、若者は留学と称して海外の大学で「遊学」し、大して学問も身に付けずに、「外国暮らし」という優雅な名の下に人生を送っている人もいたようです。しかし21世紀に入りふと気が付いたら、日本経済は世界からずっと遅れを取ってしまっており、2000年代の日本は、かつての「輝ける国」から一転して「どん底の国」と言われるようになりました。

上の表1がこの事実を物語っています。日本は1990年代中頃より、長期デフレの状態に入りました。デフレとは、もう何度も繰り返していますが、物価が「異常」に下落し、それに伴って企業の収益が減少し、失業者が巷に溢れる状態を表します。つまりひと口で言えば、「大不況」ということです。

経済学の教科書をひも解くと、その国が安定的に経済成長をするための最低の成長率は「3パーセント」だということが分かります。そうしてみると、日本経済は事実上90年代の終わり頃から3パーセントの成長率を割り、「長期停滞」に突入したと言わなければなりません。つまり、日本の長期不況は30年以上に及んでいるのです。

日本経済をこのような長期停滞状態に陥れた原因はいったい何だったのでしょうか。更に、その長期停滞から抜け出す方法はあるのでしょうか。

経済再生の道

経済状態が首尾良く上向いていくためには、その基本的な条件として、資本・労働・土地・技術の4つが欠かせません。これらが順調に増大して初めて経済が成長していくことになります。これらの要因の中で、土地については増大を望むことができませんので、他の3つの条件の増大を図っていかなければいけない、ということです。まず、資本の面から見てみましょう。

【表2】資本の流入比較(単位=100万ドル)

国名 2011年 2012年
日本 1,755 1,731
韓国 10,247 9,904
中国 123,985 121,080
オーストラリア 65,297 56,959
アメリカ 226,937 167,620
ドイツ 48,937 6,565
イギリス 51,137 62,351

出典:『JAPAN 2015, An International Comparison, Keizai Koho Center』P17

右の表2「資本の流入比較」は、日本に流入する資本額を示した表です。これを見ると、「なるほど、どうりで日本経済が上向かないわけだ」と理解できるのではないでしょうか。これまで専門家の間では「経済が十分発達した国には資本は入ってこず、むしろ出て行くほうが多い」と言われてきました。しかしこの表を見ると、「本当にそうかな?」と思うことでしょう。

経済がこれからまだまだ拡大していくと思われる中国には、当然資本は外国より入ってきています。しかし経済が既に十分に発達したと考えられるアメリカやヨーロッパの国々にも十分に資本が入ってきているのです。資本が流出していく国は日本だけ。なぜそのような状態になるのかを解明しない限り日本の経済成長は望めそうにありません。

労働人口を考える

今、日本社会では人口の増加率が先進国の中で最低の割合となっており、このまま65歳以上の人びとが人口の約4割近くを占めるようになると、働く人が足りなくなるかもしれません。こうした日本の人口政策失敗の「ツケ」は、日本経済の行く手を遮ることになるのでしょうか。

【表3】外国人雇用比率(%)

国名 2000年 2009年 2012年
日本 0.8 0.9 1.0
韓国 0.1 2.1 1.8
アメリカ 12.9 16.2
イギリス 3.9 7.3 8
ドイツ 8.8 9.4

出典:『JAPAN 2015, An International Comparison, Keizai Koho Center』P62

表3「外国人雇用比率」は、その国の労働者1,000人に対して外国人労働者は何人を占めているか、を示したもので、非常に興味深い事実を物語っています。この表から、他の国に比べて日本の労働の場では外国からの労働者はほとんど雇用されていない、という事実が分かります。よく知られていることですが、日本における総人口は現在がピークで、これ以降は年々減少し今から30年後には総人口は9,000万人を切る、という予想が公表されています。それにしたがって労働者人口も急激に減少し、超高齢者社会を迎えるに当たって日本ではもはや働く人がいない、と比喩的に言われています。

つまり、日本の社会でいったい誰が働いて利益を上げ、それを基に再生産を実行していくのか、という問題に直面しているのです。このような長期停滞状態に突入するという予測は、当然専門家の間では周知の事実でした。しかし未だに確固たる政策が採られていないという現実に直面して、これはもはや私たち日本人だけの問題ではなく、日本と深い経済関係を結んでいる国々にとっても大きな問題だと言えるでしょう。

日本において今以上に求められているのは、より一層の開放政策を意味する「人・物・資本」の更なる自由化の進展だろうと思われます。私はこれまで経済学を学び、教えてきた人間の1人として、日本経済の進展を祈るような気持ちで見つめています。



岡地勝二 プロフィル
関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了、フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業析研究所主宰

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