家賃の支払いは本当に捨て金? 持ち家派、それとも賃貸派?【前編】

税務&会計 REVIEW

EYジャパン・ビジネス・サービス・ディレクター
篠崎純也

プロフィル◎オーストラリア勅許会計士。2002年EYシドニー事務所入所。日系企業や現地の企業の豊富な監査・税務経験を経て、現在NSW州ジャパン・ビジネス・サービス代表として日系企業へのサービスを全般的にサポート。さまざまなチームと連携しサービスを提供すると共に、セミナーや広報活動なども幅広く行っている

家賃の支払いは本当に捨て金? 持ち家派、それとも賃貸派?【前編】

オーストラリアは昔から持ち家志向が高く、不動産所有を優遇する法律や不動産市場の活況による急速なキャピタル・ゲインといったことを受け、オーストラリア国内では場所を問わず、居住用不動産は非常に人気のある投資クラスです。一方、そのブームのマイナス面としては住宅価格の上昇により、住宅取得の購買力の危機が挙げられます。国内で最も物価の高い都市であるシドニーの居住用不動産の中間値が2017年に100万ドルに達しました。今月号では、「家賃の支払いは本当に捨て金なのか」の問いに関するEYの調査結果の概要を説明します。

ここ数年の価格修正でオーストラリアの不動産市場は低迷していますが、消費者の購買力は歴史的に見て低く、シドニーの住宅の平均価格は依然としてNSW州の平均年収の10.9倍にも及びます。

ほとんどの銀行では住宅購入時に20パーセントの頭金を要求されるため、シドニーの平均的な一軒家を購入する場合は貯蓄を9年間、アパートを購入する場合は貯蓄を7年間する必要があります。名目上住宅価格が1990年代中ごろ以来全国的に5倍に上昇したにもかかわらず、住宅ローンの実質的な返済額は歴史的な平均支払額から変化していません。そのため、頭金の貯蓄が難しいということが、新規購入者の多くを締め出す結果になっています。

また、将来的にローンの利率が上昇した場合は更にハードルが高くなると予想されます。

EYは「Sydney Housing Conversations: Moving from Affordability to Accessibility(シドニー住宅事情:買いやすさから入居しやすさへの移行)」というシリーズの最初の調査で、シドニーの空き家を調査しました。そこで判明したのが、シドニーに入居可能な空き家は19万戸もあり、居住者が居たとしても、現在使われていない2番目、3番目、あるいは4番目の寝室は何と60万部屋もあったのです。これだけ余った住居スペースが存在するのに、住宅の売却やダウンサイジングによってもっと有効活用されないのは、現在の税制や政策が背景にあると見られます。

なぜ人は生活の質を落としてまで家を買うのでしょうか。多くの家族が新たに多額の住宅ローンを抱えて、そのローンの返済が家計を圧迫するリスクを冒すことを選択する一方で、シドニー街中から遠く離れてマイ・ホーム願望を達成することを選択する人も多くいます。

今回のレポートでは、「マイ・ホーム至上主義」というこれまでの価値観を問い直し、永遠のテーマである「賃貸か持ち家か」の見方を少し変えてみると、意外な結論に達することが分かりました。

家賃の支払いは本当に捨て金なのか

「EY Sweeney」の調査によると、シドニーの住民の3人に2人は、家賃の支払いは無駄金だと考えています。しかし、私たちの経済モデルからは異なる事実が明らかになったのです。

その経済モデルでは、住宅を探している2人の人物に対して、当時の住宅平均価格の20パーセントに相当する元手を与えると仮定し、1人はその資金と銀行からのローンでマイ・ホームを取得(80パーセントのローン・トゥ・バリュー・レシオ(loan to value ratio / LVR))、もう1人は、同じ場所で同様の住宅を賃借し、住宅の代わりにASX200インデックス・ファンドを通して株式市場に投資(※50パーセントのLVRのマージン・ローンで購入)。つまり後者は、元手と共に株式を担保に銀行からのローンを使って株式市場に投資するという仮定です。

賃借を選んだ人物は、住宅を購入した人物と比較して、掛かった費用が少なった分(すなわち、賃料と住宅購入者が支払う利子、元金、その他の住宅コストの合計との差)を継続的にASX200(配当金を含む)に投資すると仮定します。そして、その2人の投資選択について、長期的なパフォーマンスを比較しました。

この2人が1994年から2017年の間で、10年間賃貸または住宅を所有したと仮定し、その結果の正味資産ポジションを分析しました。それも、シドニーの43の行政区域でそれぞれ比較しました。その結果、62パーセントの割合で、賃借してASX200にレバレッジを掛けた投資を続ける方が、同じエリアで住宅を所有するよりも、金銭的に優位になることが分かったのです。

ただし、このモデルで賃借を選んだ人物は、おそらく普通よりも高いリスクを取っており、なおかつ大半の人よりも厳格な姿勢で貯蓄に取り組んでいる点に留意が必要です。更に前提条件を変え、賃借を選んだ人物がASX200にレバレッジを掛けた投資ができないとすれば、住宅所有者の方が有利になります。

上記のようなデータを考慮すると、ローンの利子の支払いがそうではないのと同様、家賃の支払いも「捨て金」ではないと言えます。

しかし、これまでの考え方を変えるのは簡単ではありません。住宅を投資ではなく商品として利用しつつ、住宅以外にも富を得るためのさまざまな選択肢があることを明確に示す必要があります。また、投資関連の金融知識を高める教育も欠かせません。依然として税制、銀行、不動産を取り巻く法律は住宅所有者に有利であるため、これを実現するのは容易ではありません。

※住宅所有者と同等またはそれ以下のリスクになると想定。対象期間の25年間でマージン・コールは1回のみのため、この分析にはマージン・コールの影響を含めず

シドニーの3つのエリアか

図. エリア別に分けたシドニー
図. エリア別に分けたシドニー

家族・コミュニティー・サービス省(The Department of Family and Community Services)はシドニーを3つのエリアに分けています。

私たちは、シドニーの43行政区域全てを分析しましたが、本コラムでは特に住宅需要が高い上記の地図のインナー・エリアとミドル・エリア(黄色と濃い灰色のエリア)に焦点を当てました(右記の図)。

賃貸を選んだ場合と持ち家を選んだ場合、より大きな利益を獲得した方を勝者とした時、シドニーのインナー・エリアにおいて賃借人が優位に立った郊外地域は、ノース・シドニー、モスマン、ライカートで、70パーセントの割合で住宅所有者に勝ちました。

一方、多くの郊外地域では住宅所有者の方が優位になり、67パーセントの割合で賃借人に勝っています(特にマリックビル、CBD、ボタニー湾での差が大きい)。

よく言われるように、「買うタイミングが全て」です。これは不動産購入にも当てはまります。2007年にウラーラで住宅を購入して17年に売却した人は、大きな利益を獲得し、賃借した場合との差は30万3,771ドルにも達しました。一方、1998年に購入し2008年に売却した人は、賃借した人に60万8,032ドルも負けています。

その他の郊外地域でも同様でモスマンの場合、07年に住宅を購入した人は、レバレッジを掛けて株式に投資した賃借人よりも27万5,924ドル得をしたでしょう。一方、1998年にアパートを購入した場合、2008年時点で賃借人に46万585ドル負けたと考えられます。

このような結果はマリックビルなどの街にも当てはまります。マリックビルは私たちの評価期間において住宅購入者が特に優勢だった地域で、とりわけ07年の購入者は賃借人より20万ドル以上得したと試算されます。ただし、04年に購入して14年に売却した場合では、株式市場にレバレッジド・ポジションを保持し続けている賃借人より11万5,396ドル劣勢でした。

賃借と購入の比較:10年後はどちらが優位?
  • マリックビル

    2004年に賃借した人の方が高い利益を得られたが、3年後の2007年は購入した人の方が高い利益を得られた

  • ライカート

    1998年に賃借した人の方が高い利益を得られたが、4年前の1994年は購入した人の方が高い利益を得られた

  • マンリー

    2003年に賃借した人の方が高い利益を得られたが、4年後の2007年は購入した人の方が高い利益を得られた

  • ボタニー湾

    2004年に賃借した人の方が高い利益を得られたが、9年前の1995年は購入した人の方が高い利益を得られた


コンタクト

篠崎純也(シドニー)
Tel: (02)9248-5739
Email: junya.shinozaki@au.ey.com
Web: www.ey.com/au/en/JapanBusinessServices

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