AUSメディア・ウォッチ「ドイツへ」

オーストラリア・メディア・ウォッチ

オーストラリアの新聞を始め、テレビ、ラジオ、オンライン・メディア、映画、書籍などで今話題のもの、または面白い記事やエピソードを取り上げ、そこから見えるオーストラリア社会を在豪日本人の視点で紹介する。

最終回:ドイツへ

突然ですが、最近ドイツ語を習い始めました。

新しい言語を学習するのは、台湾で中国語を学んで以来十数年ぶり。英語に似た言語だからか、思い起こすのは直近の中国語学習ではなく、はるか昔の中学校での英語の授業です。

動詞の活用を覚えて、前置詞の穴埋め問題をして、関係代名詞を使った文を作る練習をする。日本とオーストラリアでは言語教育のスタイルが違うとはいえ、「こういうの昔よくやったなあ」と思うことばかり。よくぞここまで英語が使えるようになったと思う反面、この先のドイツ語学習の長い道のりを考えると気が遠くなります。

今回は3年以上続いた連載の最終回です。来年6月からベルリンへ引っ越すことになったので、連載は年内で終わりにさせて頂くことにしました。最後なので、今回は少し個人的なことを書こうと思います。

本当は知らなかったポート・アーサー

だいぶ前の話ですが、オーストラリアの大学院でジャーナリズムを勉強していた時、ポート・アーサー事件をめぐる報道についての授業がありました。

オーストラリア人なら誰でも知っているこの事件。1996年、タスマニア州のポート・アーサーで35人が死亡した銃乱射事件です。

当時の私はその事件について聞いたことはあっても、それがオーストラリア人にとってどれだけ大きな出来事だったかということを理解していませんでした。講義を聞いてもいまいちピンとこず、無知による無関心のため、チュートリアルでまともに議論に参加できなかったのを覚えています。

振り返れば何も分かっていなかったなと。今なら当時の報道についてはもちろんのこと、その後の銃規制や今の動きなどについて言いたいことがたくさんあるのに。

連載を始める時にメディアについて書こうと思ったのは、私自身が昔は見えなかったオーストラリア社会が、メディアに触れることで見えてきたという経験があったからです。

語学力プラスの力

新しい国へ行って、そこの社会に入るというのは結構難しいことです。

語学学校では現地の人との接触が意外と少ないかもしれませんし、大学でも外国人留学生は固りがち。日本から引っ越して来たばかりの人は、子どもは間もなく友達ができても、自分は子どもの学校でオーストラリア人の親たちに交じるのも難しいと感じるかもしれません。

地域ごとの特徴もあります。例えば私が住むキャンベラは、永田町と霞ヶ関を合わせたような所。政治や行政に関わる人が多いので、人が集まれば政治が話題になることもしばしば。国内政治を知らないと、バーベキューでの会話にも付いていけません。

逆に考えれば、政治に興味があれば、またはメディアを通して話題のトピックに触れていれば、社会やコミュニティーにもう1歩深く入れるということです。

報道系に限らなくてもエンターテインメント系のメディアでも良いと思います。

日本から来た人から、「オーストラリアの番組は面白くない」という声をよく聞きます。市場規模が小さいため番組の種類と数は限られているかもしれませんが、例えばオーストラリアのドラマには、ハリウッド的な派手さはなくても地味に良い作品がたくさんあります。

それからコメディーも良い。社会風刺的なものや、オーストラリア独自の自虐的で皮肉っぽいユーモアを織り込んだものなど、「くすっ」と笑えるタイプの面白いシリーズが幾つもあります。

特にコメディーはその国の文化や社会を如実に表します。文化的背景や社会情勢を知らないと笑う所さえ分かりませんが、笑いのツボが分かるようになればその国の新しい一面が見えます。

社会を深く知るには語学力は必須です。それに加えて必要なのがこういう背景の理解。メディアに触れることは、そのための一番簡単で手っ取り早い手段なのかなと思います。

最後に

今回こういうことを書いたのは、私自身がどこまでドイツを知ることができるのだろうと思うからです。

ドイツに住むのは3年間だけ。3年で言語をマスターすることはほぼないし、文化を深く理解するのも難しい。政治や社会を表面的に知ることはできても、長い歴史の文脈の中でそれをきちんと理解するようになるのも時間が掛かることです。それでもまずはドイツ語学習からと思いました。

市民権や選挙権がなくても、住んでいるからには言葉を学んでその国の情勢を知ろうとすることはある意味マナーだと思いますし、また知れば知るほど面白いのも本当です。

読者の方々に、メディアを通して見えるオーストラリア社会の面白さが少しでも伝われば、と思い書いてきました。コラムを読んで、オーストラリアの政治や社会、国内の話題などに興味を持った方がいらっしゃったら幸いです。

好きなように書かせてくださった馬場一哉編集長を始め、元編集者の小副川晴香さん、そして丁寧な編集をしてくださっただけでなくいつも興味を持って原稿を読んでくださった山内亮治さん、感謝の気持ちでいっぱいです。

そしてコラムを読んでくださった皆様、本当にどうもありがとうございました。数年後に戻ってきた時、オーストラリアのどこかでまた皆様とつながることができればと願っています。


クレイトン川崎舎裕子
Hiroko Kawasakiya Clayton

米系通信社の東京特派員(経済・日銀担当記者)を経て、2001年よりオーストラリア在住。クイーンズランド大学院にてジャーナリズム修士号を取得後、03年からライター。キャンベラを拠点に社会事情などについての記事を雑誌や新聞に執筆する
Web: twitter.com/HirokoKClayton

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