【現代アート】現代アートにおける「キュレーター」の役割とはどのようなものですか?

現代アート塾

関心はあるものの、実はまったく理解できない! いったいどこから勉強していいのか分からない! そんな読者の心の声に答えるべく登場したこのコラム。奥深い現代アートの世界に対する素朴な疑問に、著者がずばり回答。優しく解説してくれます。これを読めば、芸術の世界がぐっと身近に感じられるはず。

第22回 “現代アートにおける「キュレーター」の役割とはどのようなものですか?”

Katherine S. Dreier in the Société Anonyme collection exhibition at the Yale University Art Gallery 1920
Katherine S. Dreier in the Société Anonyme collection exhibition at the Yale University Art Gallery 1920

現代アートは、近代、つまりモダンがやり尽くした後に出て来たものという解釈があります。モダン期(19世紀から戦前)においては、キューレーターの役割はさほど大きいものではなかったかもしれません。それよりも画廊主とその顧客、つまりコレクターの役割が大きかったと言えます。というのも、セザンヌを売り出したヴォラールという画商は、ピカソにも大きな影響を与えています(ピカソに版画に番号を振るように指導したのは彼です)。

ヨーロッパで19、20世紀に起こっていたことは、ヨーロッパのアート・コレクターにとってあまりに身近なために、まとまったモダン・アートのコレクションは案外少ないのです。むしろ、外国人、例えばロシア人の富豪(モロゾフやシチューキンは特に有名)やアメリカ人の新興資本家の子弟たちがお金に物を言わせてヨーロッパに滞在し、モダン・アートを買い漁っていきます。そこで、スタイン家や、グッゲンハイム、バーンズなどの個人的コレクションは、モダン・アート自体にも影響力を与えたと言えるかもしれません。ヨーロッパの一流作家たちのコレクションは、アメリカ人が帰国後自国のアート界を刺激するために重要な展覧会を形作っていきます。有名なところでは「ソシエテ・アノニム」のキャサリン・ドライヤー、「アート・オブ・ディス・センチュリー・ギャラリー」のペギー・グッゲンハイム、「ニューヨーク近代美術館」のアルフレッド・バーなどは、影響力を持つキューレーターの走りと言えるかもしれません。

「現代はアレンジメントの時代」とフランスの哲学者ジル・ドゥルーズは言います。現代アートにおけるキューレーターの役割は、いみじくもこの言葉に簡略に表現されています。モダニズムの「イズム」は出尽くしたので、モダン以降の我々ができることはアレンジだけなのだということです。つまり、アレンジメントそのものが創作活動になり得ることを示しています。また、『複製時代の芸術』で有名なヴァルター・ベンヤミンも「引用だけで文章を書きたい」と言っています。引用とは他人様の仕事を拝借することです。それでは一体、創作自体はどうなってしまうのでしょうか。

アレンジメントがアートである。この文脈で言うとキュレーター自身がアーティストであると言っても過言はありません。例えばドイツで5年に1回開かれる「ドクメンタ」は、毎回キュレーターを指名し、そのキュレーターにより大規模な国際展覧会の色合いは全く異なります。例えばアフリカ出身のオクウィ・エンヴェゾーのキューレーションによるドクメンタ11(2002年)は、アートと社会学、後期資本主義の政治化したアートが全面に打ち出されました。これに対し、ハンス・オーブリストは「キューレーターは単に空間に物体を配置する人ではない、違った文化同士の接触を担う人である」と言っています。つまり、現代アートのキューレーターは、アーティスティックなセンスだけでなく、文化、社会、政治の知見が必要であるということです。ヨーゼフ・ボイスが唱えるように「アーティストは社会的・政治的な役割を果たさなければならない」ということであれば、キューレーターと現代アーティストはどう違うのでしょう。

エレーナ・フリポビックは「アーティスト・キュレーターは疑いなく、彼ら(現代アーティスト)の素材を操作・仲介する作者としての経験をキューレーションにもたらしている」と言っています。アーティスト自身の主体が現れる、となると実験芸術のジャンルに属することになります。現代のキューレーターは美術館、画廊空間、展覧会サイトを使ってアレンジメントのさまざまな実験をしているということになります。哲学者自身がキューレーションを行う場合もあります。例えばフランスの哲学者ジャック・デリダは「盲者の記憶」という展覧会を1990年にルーブル美術館で行っています。

近年、キュレーターになるためのコースはいろいろあり、増加傾向にあります。しかし、大学でキューレーションの学位を取っても、就職できるとは限りません。日本では学芸員の資格を取るコースが大学であります。資格はあっても実際に美術館の学芸員になるのはまれです。日本の美術館は東は東大系、西は阪大・京大系がポストを押さえているように思えます。日本ではまだまだ、アーティストがキュレーションの役割を果たすといった図はありませんが(瀬戸内トライアニュアルの岡崎乾二郎氏は例外かもしれません)、オーストラリアではアーティストでありながらもキューレーションに興味を持つ人たちが意外に多く、大学のキュレーションのコースも盛況です。アーティスト自身の肩書も変わってきおり、例えばカナダのアーリン・マニングは、メルボルンで彼女の「センス・ラボ」というアート活動をレクチャーするのに、「アーティスト・哲学者・ダンサー・キューレーター」と自己紹介していました。

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<著者プロフィル>
登崎榮一(Ph.D)
◎メルボルン大学哲学/美術史並びにモナーシュ大学 アート&デザインでPhDを取得。現在は、アーティストとして活躍するほか、ディーキン大学でも講師を務める。
Web: bimanualdrawing.wordpress.com

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