新・豪リークス/「貿易戦争?冷戦?米中対立の狭間で……」

現在TBSのシドニー通信員を務める筆者が、オーストラリアの“ホット”な話題を独自の視点で分析する。あっと驚く“裏情報”や“暴露(リーク)情報”も!?

第26回 「貿易戦争?冷戦?米中対立の狭間で……」

先月、安倍晋三首相が豪北部ダーウィンを訪問し、米中対立が鮮明となったAPEC首脳会議前に日豪首脳会談を行った。米中両国とさまざまな面でつながりをもつ日本とオーストラリアは今、対立を深める2つの大国の狭間で揺れている。

◇安倍首相が“もう1つの真珠湾攻撃”の地に歴史的訪問

日本の首相によるダーウィンの歴史的訪問を大きく伝えるオーストラリアの新聞各紙
日本の首相によるダーウィンの歴史的訪問を大きく伝えるオーストラリアの新聞各紙

11月16日午後4時、日中の最高気温が34度に達し、立っているだけで汗が滴り落ちる亜熱帯気候の北部準州の州都ダーウィンの豪空軍基地に、安倍晋三首相が昭恵夫人を伴って政府専用機から降り立った。ロシアのプーチン大統領との首脳会談なども行ったASEAN=東南アジア諸国連合首脳会談と東アジア・サミットを終え、開催地のシンガポールから直接オーストラリア入りした安倍首相。連日のハード・スケジュールのためか、表情に少し疲れの色も見て取れた。

日本政府専用機に横付けされた迎えの車に乗り込み、30分もしないうちにダーウィン市内中心部にある戦没者慰霊碑に現れた安倍首相。今年8月に就任したばかりの豪モリソン首相と共に献花を行い、戦没者に黙祷を捧げた。第2次世界大戦中の1942年2月19日、旧日本軍がこの地を空襲した。“もう1つのパール・ハーバー”とも呼ばれるこの攻撃では、チモール海洋上の航空母艦から飛び立った188機の零式艦上戦闘機などが、ダーウィン港に停泊していた船舶や空軍基地、市街地などを空爆。民間人を含む240人以上が死亡した。

このダーウィンを戦後日本の首相として初めて訪れた安倍首相は、戦没者慰霊碑に隣接する北部準州の議会内で、モリソン首相と初の首脳会談に臨んだ。「自由で開かれたインド太平洋」構想の実現に向けての緊密な連携を確認し、「日豪は今や和解を実現し、地域の平和と繁栄を主導する特別な戦略的パートナーとなった」と会談後の共同記者発表で安倍首相は述べた。

ダーウィン港の港湾施設入り口にそびえるゲート。中国・嵐橋グループの文字が中国語で大きく表示されている(筆者撮影)
ダーウィン港の港湾施設入り口にそびえるゲート。中国・嵐橋グループの文字が中国語で大きく表示されている(筆者撮影)

オーストラリアの都市の中で最もアジアに近く、通商と軍事の「要衝」と位置付けられるダーウィンには、現在1,600人規模の米海兵隊も駐留している。しかし、玄関口であるダーウィン港は、中国政府と関係が深い中国企業の嵐橋グループが2015年に99年のリース契約を結んだ。港湾施設の入り口には巨大なゲートがそびえ、中国語で大きく企業名が表示されている。現地在住の日本人は、ダーウィン市内にも至る所で中国の影響力が高まっていることを感じると話す。今回の安倍首相のダーウィン訪問の狙いは、日豪両国の「和解の象徴」のアピールだということだが、背景に中国の海洋進出があることは間違いない。

◇APEC首脳宣言採択できず、米中対立が激化

安倍首相は日豪首脳会談の翌日、第2次大戦中ダーウィン沖で沈没、乗員80人が死亡した旧日本軍潜水艦「伊124」の慰霊碑を訪れ、APEC=アジア太平洋経済協力会議出席のためにパプアニューギニアに向かった。現地で中国政府が大きなインフラ投資を続ける首都ポート・モレスビーの中心部では、経済圏構想「一帯一路」の標語が掲げられるなど、ダーウィン以上に中国がその影響力を誇示している。

各国の首脳より1日早く現地入りした中国の周近平国家主席は、APEC首脳会議のスピーチで「多国間貿易を守り、保護主義や一国主義に反対しなければならない」と、アメリカを念頭に批判。一方、アメリカのトランプ大統領の名代として会議に出席したペンス副大統領は、「我々は『帯』で締め付けたり、一方通行の『路』を押し付けない」と応酬した。

米国メディアの報道などによると、中国が首脳宣言に「一国主義」の文言を含むように主張したが、これをアメリカが頑なに拒否。結局両大国の板挟みとなったパプアニューギニアのオニール首相が、APEC首脳会議史上初めて首脳宣言の採択を断念したという。

また、APECに先立ち日本を訪問したペンス副大統領が「冷戦を回避するための責任は中国にある」と述べたのに対し、習近平国家主席は「冷戦も貿易戦争も勝者はいないと」して、さまざまな思惑があるにせよ「冷戦」という物騒な言葉が、米中両国のリーダーの口から発せられる状況となってきている。

◇「新冷戦時代」の始まり?米中対立の狭間で

豪・南太平洋外国人特派員協会でスピーチするケビン・ラッド元首相(写真左、10月25日シドニー市内)
豪・南太平洋外国人特派員協会でスピーチするケビン・ラッド元首相(写真左、10月25日シドニー市内)

APEC首脳会議の少し前、筆者が会長を務めるFCA=オーストラリア・南太平洋外国人特派員協会で、中国語を流暢に話し、世界情勢や中国事情に詳しいケビン・ラッド元豪首相を迎え、話を聞く機会に恵まれた。現在米アジア・ソサイエティ政策研究所所長で、その後所用で日本に向かうというラッド氏に、現在の米中対立について聞いた。

現在の米中関係は、イデオロギー戦争や第三国で代理戦争が行われた米国と旧ソ連の間の冷戦時とは全く状況が異なっていると前置きしたラッド氏、「早計に『冷戦』という言葉を使うのには注意すべきだが、将来、既存のルール(国際秩序)が通用しない状況に突入し、国際社会が次の段階、過渡期へと移行する中で危険な状況に陥るかもしれない」と語り、今後米中が軍事対立する可能性も示唆した。

またラッド氏は、「日本の安倍首相は、トランプ政権との関係を緊密に保つ一方で、中国との間に非常に現実的な2カ国間関係を築こうとしている。日本は米政権の不確実要素を鑑み、非常にバランスを取りながら外交を行っているように見える」と、今後の日本の方向性について語った。

政治や軍事面ではアメリカに歩調を合わせる日本だが、TPP=環太平洋経済的連携協定やRCEP=東アジア地域包括的経済連携の妥結を目指すなど、経済や貿易面では1国主義や保護主義に反対の立場を取る。中国が最大の貿易国であるオーストラリアにとっても同じで、米中対立の狭間で今後日豪両国が難しい舵取りを迫られることになりそうだ。


飯島浩樹(いいじま・ひろき)
日本の民放キー局でニュース番組のディレクターなどを経て来豪。ウーロンゴン大学院でジャーナリズム修士号を取得後、TBSのシドニー五輪支局現地代表となる。現在、TBSのシドニー通信員として多くのニュース・リポートを日本に送っている。2017年8月より、FCAオーストラリア・南太平洋海外特派員協会会長を務める。

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