新・豪リークス/「“WAGYU”の国に“和牛”を売り込め!」

現在TBSのシドニー通信員を務める筆者が、オーストラリアの“ホット”な話題を独自の視点で分析する。あっと驚く“裏情報”や“暴露(リーク)情報”も!?

第27回 「“WAGYU”の国に“和牛”を売り込め!」

2018年、17年ぶりにオーストラリアは日本産和牛の輸入を解禁した。既に国内産の和牛種が“WAGYU”として浸透している同国市場で、価格がはるかに高い日本産和牛に勝ち目はあるのか? 今ホットな“戦い”が始まっている。

JETRO主催の日本産農水産物・食品輸出商談会で展示された「和牛」(シドニー市内2018年8月20日筆者撮影)
JETRO主催の日本産農水産物・食品輸出商談会で展示された「和牛」(シドニー市内2018年8月20日筆者撮影)

2018年8月20日、JETRO=日本貿易振興機構が、「和牛」をメインに日本産の農水産物・食品を売り込む商談会を開いた。会場となったシドニー市内のホテルには300人以上が集まり、日本から20の企業や団体が参加した。オーストラリア政府は、01年の牛海綿状脳症(BSE)発生以降、17年間停止してきた日本産牛肉の輸入を、18年5月に再開した。商談会に参加した日本の食肉輸出業者は、鹿児島、滋賀(近江牛)、岐阜(飛騨牛)などの高級和牛をその場で焼いて試食してもらい、訪れた地元バイヤーらに売り込んだ。

商談会には、上月良祐農林水産大臣政務官も駆け付け、精力的に会場を見て回った。

「味の違いが分かってもらえれば、十分に日本産和牛の魅力が伝わると手応えを感じました」(上月政務官)

肉質が柔らかく、豊かで濃いリッチな味わいの高級牛肉として世界的にも評価が高い「和牛」。しかし、1970年代から90年代にかけて「和牛」の遺伝子が海外に流出。特にオーストラリアでは、アメリカから持ち込まれた和牛の遺伝子を別の牛と掛け合わせ「WAGYU」として世界に輸出するようになった。「和牛」として認められるのは、「黒毛和種」「褐毛(あかげ)和種」「日本短角種」「無角和種」の4品種と、それらの品種間の交配種だという。ところがオーストラリアでは、別の牛と掛け合わせた場合でも、その交配率が50%以上であれば、「WAGYU」として認めている。

オーストラリアは、この「WAGYU」をアジア諸国やヨーロッパなどに年間2万トン以上輸出し、価格も日本産和牛に比べはるかに安いため人気も高い。

オーストラリア国内でも、レストランのメニューに「WAGYU」ステーキや「WAGYU」ハンバーグの文字が並び、一般の食肉販売店の店頭にも「WAGYU」が当たり前のように陳列されている。

商談会に参加した地元バイヤーの女性は「日本産和牛は、オーストラリア産WAGYUの倍の値段がする。でも、この2つは“違う商品”だと思っています」と話した。

◇和牛の精液が中国に流出?

2018年7月、輸出が禁止されている和牛の精液が日本から海外に不正に持ち出されていたことが発覚した。大阪府在住の男性が、和牛精液を冷凍してストロー数百本に入れて中国へと持ち出したが、入国の際に見つかり流出は未然に防がれた。

現在中国は「和牛」の輸入を禁止しているが、近隣のカンボジアやタイなどを通し冷凍和牛が日本から大量に輸入され、1キロ当たり400米ドル以上の高値で取引されているという。欧米諸国に比べ所得水準の低いこれらの国で「和牛」の人気がなぜこれほど高いのか? 中国がこれらの国を経由し「和牛」を“闇取引”しているとの指摘もある。

また、今回発覚した和牛の精液がもし中国国内に流出していたなら、まさしく中国産「WAGYU」が大量生産されてしまった可能性もある。

ある関係者は、「和牛の精液が、既に違法に海外に持ち出されたという話もある。海外でオーストラリア産WAGYUが日本の和牛と競合している現状もあり、今後更なる法整備が必要」と語った。

◇「和牛」は「WAGYU」に勝てるのか?

日本産牛肉の輸入再開から半年ほど経った昨年12月、メルボルン郊外の食肉小売店を訪れる機会があった。

ここでは、高級飛騨牛が、何と1キロ当たり490豪ドルで売られていた。陳列ケース内の「和牛」の隣に置かれたタスマニア州産の「WAGYU」が1キロ260豪ドル、豪州産アンガス牛のフィレ肉は76豪ドルだった。

もちろん、高級飛騨牛は、霜の入り具合を含めた見た目が明らかにオーストラリア産とは違うのだが、「WAGYU」と比べて約2倍の値段に驚いた。果たしてこの値段で本当に売れているのだろうか? 半信半疑で食肉店のオーナー、ギャリーさんに聞いてみた。

「日本産和牛の品質はすばらしく、オーストラリア産WAGYUとは大きな違いがあります。半年前に入荷してからもう5回も再注文しており、多い時は1週間で20キロほど売れます」(食肉販売店「Gary’s Meats」オーナー、ギャリー・マクビーンさん)

岐阜県から来た職員に説明する食肉販売店オーナー、ギャリー・マクビーンさん(メルボルン郊外18年12月筆者撮影)
岐阜県から来た職員に説明する食肉販売店オーナー、ギャリー・マクビーンさん(メルボルン郊外18年12月筆者撮影)
日本産「和牛」の価格に驚く有名フラワー・アーティストの假屋崎省吾さん(メルボルン郊外筆者撮影)
日本産「和牛」の価格に驚く有名フラワー・アーティストの假屋崎省吾さん(メルボルン郊外筆者撮影)

ギャリーさんの店が入っているマーケット内で行われたフラワー・アレンジメントのイベントに、たまたま日本から招かれていた有名フラワー・アーティストの假屋崎省吾さんも来店。その値段の違いに驚いていた。

「お値段は高いけど、日本の和牛がオーストラリアの方たちに召し上がって頂けるのはとてもうれしいことです」と假屋崎さんはギャリーさんの手を両手でしっかり握って感謝の気持ちを告げた。

このように、オーストラリアで輸入が再開された「和牛」の売れ行きが好調とはいえ、やはりこの価格での購買層は、日本の食材に興味がある富裕層や高級レストランなどに限られる。

しかし、需要があることは確かで、単価の高い高級品として「WAGYU」を差別化して生き残っていくことは十分可能だ。また、オーストラリアではまだまだなじみのない、すき焼きやしゃぶしゃぶ、薄切り焼き肉などの比較的安価に設定できる食べ方を提案していくことで、新たな需要を作り出すこともできるだろう。

日本食がブームで、日本酒や高価な日本のウイスキーなども人気があるオーストラリア。いわば「WAGYU」の本場の国で「和牛」がどこまで“善戦”できるのか? 今後日本産の農水産物や食品が世界進出する上で、この「和牛」のオーストラリア市場での挑戦は、非常に興味深いものであることに間違いない。


飯島浩樹(いいじま・ひろき)
日本の民放キー局でニュース番組のディレクターなどを経て来豪。ウーロンゴン大学院でジャーナリズム修士号を取得後、TBSのシドニー五輪支局現地代表となる。現在、TBSのシドニー通信員として多くのニュース・リポートを日本に送っている。2017年8月より、FCAオーストラリア・南太平洋海外特派員協会会長を務める。

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