安倍首相来豪、日豪「新時代」の幕開くか−首相訪問の成果は象徴的

【安倍首相来豪】

日豪「新時代」の幕開くか−首相訪問の成果は象徴的

【解説】 安倍晋三首相のオーストラリア訪問が、就任以来約1年半を経てようやく実現した。訪問の目玉は日豪経済連携協定(EPA)と日豪防衛装備品技術移転協定の署名だ。いずれも4月のトニー・アボット首相訪日時にほぼ決まっていて特にサプライズはなかったが、首相来豪の象徴的な意義は大きい。

首相は2013年1月の所信表明演説で「地球儀を眺めるように世界全体を俯瞰(ふかん)して、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった、基本的価値に立脚し、戦略的な外交を展開していくのが基本だ」と述べた。以来、関係が冷え込んでいる中国と韓国を除いて、首相は価値観を共有する主な国・地域を異例のハイペースで訪れてきた。

首相は就任当時からオーストラリアとの連携強化の必要性を指摘してきた。日豪間には停滞していたEPA交渉の妥結という大きな懸案があったが、4月に大筋合意に至ったことで首相訪問の機が熟した。西太平洋の南北軸である日本とオーストラリアが経済と安保の両面で関係を深めたことは、安倍首相が掲げる「地球儀外交」の1つの到達点と言える。

 

首脳相互訪問の定例化にも期待

安倍首相の訪問は、円熟した日豪関係をもう一段上のレベルに引き上げる可能性がある。

日本とオーストラリアは戦後、互いに足りないところを補う「相互補完的」な関係を築いてきた。日本はオーストラリアから資源・エネルギーを輸入して高度経済成長を実現する一方、オーストラリアは日本企業の投資が現在の資源立国としての繁栄の基礎を築いた。

経済面での強い結び付きを背景に人の交流も活発化した。オーストラリアに住む邦人(短期滞在者と永住者の合計)の数は現在、7万人以上と米国、中国に次いで3番目に多い。オーストラリアの日本語学習者数は約30万人と中国、インドネシア、韓国に次いで世界で4番目(2012年度=国際交流基金調べ)。スキー客を中心に訪日するオーストラリア人の数も増えている。

ただ、これまでの首脳外交はほとんどオーストラリアから日本への「一方通行」だった。1996年以降に日本の首相がオーストラリアを訪問したのは、橋本龍太郎氏、小泉純一郎氏、安倍氏(2回)の4回しかないが、その間にオーストラリアの首相は13回も日本を訪問している。一般的な日本人の関心も欧米やアジアに向いていて、オーストラリアへの関心は総じて低い。今回の首脳会談で合意した両首脳の相互訪問の定例化が進めば、日本のオーストラリアへの理解も高まるだろう。

一方、日本に代わって中国がオーストラリアにとって最大の輸出相手国となり、対日関係の重要性や日本への関心も以前より相対的に薄まったとも言われている。今回の首相訪問では、経済や安保の連携に加えて双方の留学生や学術研究者を支援することで合意した。若い世代を中心に、人の交流が活発になることも期待される。

 

経済界やメディアはおおむね評価

安倍首相来豪の成果については、左派の学者やメディアの一部から対中関係への影響を懸念する声が出ているものの、ビジネス界や主要紙は肯定的にとらえている。

「今日から豪州と日本の新しい時代が始まる。この素晴らしい関係を次の世代に引き渡していきたい」。安倍首相は8日、キャンベラの豪州国立美術館で開かれた日豪経済界の歓迎昼食会で行った演説の最後にこう述べた。安倍首相は会場を去る際にはスタンディング・オベーションで出席者らに見送られ、熱烈な歓迎を受けた。

全国紙「オーストラリアン」は9日付の社説で、安倍首相が議会演説で第2次世界大戦で戦死した豪州軍兵士に哀悼の意を示したことについて「この歴史的な瞬間は、20年間の経済的な低迷と戦後の平和主義憲法によって背負った戦略的な硬直性から抜け出そうとしているより強い自信を持った日本の証明だ」と指摘。日豪関係については「食糧や資源・エネルギーだけではなく、文化や教育、技術面での交流を含む大きな潜在性を持ったきわめて重要なパートナーシップだ。(日豪EPAの)貿易協定は、先見性のあった50年前の合意(日豪経済通商協定)と同様に、今後何十年にもわたって両国に繁栄と友好をもたらすだろう」と論じた。

また、経済紙「オーストラリアン・フィナンシャル・レビュー」は9日付の社説で、日豪EPAについて「オーストラリアにとって可能な限り最善の合意となった。オーストラリアはサービス輸出で最恵国待遇を受けて、(日豪の)経済関係はさらに発展し、深化する可能性がある」と評価した。アベノミクス「第3の矢」の成長戦略に関しては「安倍首相は莫大な企業の内部留保や個人資産を開放し、日本の投資家に海外への投資に目を向けさせようとしている。オーストラリアのインフラ民営化はそうした資金の有望な投資先となる可能性がある」と予想した。

オーストラリアはこれまで、毎年のように首相が交代する日本の政治に戸惑いを隠せなかった。安倍首相が打ち出した日豪の「新時代」。実現のカギは、国内で安定した政権運営を継続できるかどうかにかかっているとも言えそうだ。

 

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