2015年3月 ニュース/総合


2月12日、シドニーで開かれた準天頂衛星システム関連の報告会で登壇した日立オーストラリアの石原均社長

準天頂衛星システムとは?
 日本が独自開発を進めている複数の人工衛星を組み合わせた測位システム。カーナビなどに幅広く利用されている米国の全地球測位網(GPS)よりも格段に高い測位制度が可能になる。日本のほぼ真上から南半球のオーストラリア上空に至る八の字の「準天頂軌道」を周回する。日本の上空にとどまる時間は1機当たり8時間となっているため、24時間運用するには最低3機の衛星が必要。初号機「みちびき」を2010年に打ち上げて実証実験を行っており、18年をめどに合計4機体制によるサービス開始を計画。23年ごろには7機の運用を目指している。

日豪の通信協力で成果
準天頂衛星でトラクター自動制御

日本とオーストラリアの通信分野での協力が実を結び、日本の準天頂衛星「みちびき」をオーストラリアの農業に役立てるための実証実験で成果が出ている。日本の総務省、実証実験に参加している日立製作所、日立造船、ミャンマーなどが2月12日、シドニー市内で開いた会議でプロジェクトの成果を報告した。

日豪両政府は昨年4月、人工衛星や情報通信技術(ICT)分野での協力推進で合意した。オーストラリアの農地で行われた実証実験はその一環で、みちびきを利用して無人のトラクターを誤差がわずか5センチ以内ときわめて高い精度で制御できることが確かめられた。会議では、日豪協力の概要や実証実験の結果の詳細、農業でのICT活用の可能性などについて発表があった。

準天頂衛星の本格運用が始まれば、特にオーストラリアの大規模農業では生産性の大幅な向上につながるとの期待がある。トラクターの遠隔制御だけではなく、山火事などの防災、広大な放牧地での家畜の位置把握など幅広い応用も想定している。準天頂衛星の軌道下にあるアジア諸国の農場でも利用が広がる可能性もある。

一方、日本の総務省と連邦通信省は13日、シドニーで「スマート社会構築のための日豪ICT政策対話」の第1回会合を開いた。会合は、日豪双方で携帯電話やスマートフォンの国際ローミング料金の引き下げを検討することを決めた。携帯機器を本国の契約プランのまま海外で使用した場合、特にパソコンやスマートフォンなどのデータ通信ではきわめて高額な通信料金が請求される場合があり、問題となっている。

このほか、両国は、準天頂衛星の実証実験を元に実用化やビジネス・モデルの構築に向けて引き続き協力すること、インターネットの統治に関する国際協力、医療や介護、防災など様々な社会的課題の解決に向けてICT分野の協力を強化すること、などでも一致した。


カフェ立てこもり事件で報告書
容疑者への過去の対応は「妥当」

昨年12月15日にシドニー市内のカフェで銃を持った男が人質を取って立てこもり、3人が死亡した事件に関する報告書が2月22日、発表された。複数の事件で公判中だったマン・ハロン・モニス容疑者(警官突入時に射殺)に対する事件前の当局の対応に関して、連邦首相府とNSW州首相府が警察による事件捜査とは別に検証した。報告書は、容疑者がイランから亡命してから事件を起こすまでの当局の対応や法規制などを幅広く検証した上で、「入手が可能な情報に基いて、複数の政府機関が下した判断は妥当なものだった」と結論付けた。

報告書によると、モニス容疑者は2008〜09年に諜報機関の豪保安情報機構(ASIO)の内偵下にあったが、テロを起こす意思や危険な個人やグループとの接触は認められなかった。イランから1996年に入国して翌年亡命ビザを申請、04年に市民権を取得するまでASIOが複数回面談したが、国の安全保障にとって脅威だとは判断されなかった。また、元交際相手の殺人を教唆した容疑、複数の性犯罪の疑いなどで起訴されていたにもかかわらず保釈されていたが、当時の法律では保釈を差し止める十分な根拠がなかったとされた。

その上で、入国管理当局による危険情報へのアクセス拡大、連邦政府と州政府の違法銃器に対する規制の統一と強化、連邦政府と州政府によるテロ情報の共有・連携強化、将来予想されるテロ事件を想定した政府による報道関係者の訓練など17項目を提言した。


1年半ぶりに利下げ

政策金利2.25%に−景気刺激と通貨安狙う

オーストラリア準備銀行(RBA)は2月3日、今年最初の金融政策決定会合を開き、現行制度下で既に過去最低の政策金利をさらに0.25ポイント引き下げて2.25%にすると発表した。翌4日、実施した。前回利下げした2013年8月以来据え置いていた。1年6カ月ぶりの再利下げで、鉄鉱石などの資源価格下落を背景に足踏みする景気のテコ入れを図る。

RBAの利下げに追従して、国内の4大銀全行が5日までに住宅ローン金利の引き下げを発表した。引き下げ幅は、いずれも標準的な金利変動型住宅ローンで、ANZ銀とナショナル・オーストラリア銀、コモンウェルス銀がそれぞれ0.25ポイント、ウェストパック銀が0.28ポイントとなっている。

オーストラリアの住宅ローンは金利変動型が主流であることから、利下げは景気のカンフル剤として即効性が高い。5日付のメディア大手ニューズの電子版によると、0.25ポイントの金利引き下げによって、平均的な総額50万ドルの住宅ローンの支払い額は1カ月当たり73ドル減るという。

加えて足元ではガソリン価格も大幅に下落している。ローンを支払いながら郊外の一軒家に住み、通勤に毎日数十キロ運転している平均的な勤労者世帯にとっては、1カ月当たりおおむね100〜200ドルの「減税効果」となっている可能性がある。

 

世界的な通貨安競争が加速

今回の利下げによって、3日の外国為替市場では豪ドル安が加速し、一時1豪ドル=0.7650米ドルと約6年ぶりの安値を記録した。年央にも利上げに踏み切ると見られている米国との金利差縮小を見据え、今年前半に1豪ドル=0.70米ドルを割り込むとの観測もある。豪ドルは13年上期まで3年近くほぼ1豪ドル=1米ドル以上の歴史的な高値圏にあったため、製造業や観光業などの輸出産業を疲弊させてきた。

利下げによって消費や住宅建設が刺激されるとともに、通貨安で輸出産業も息を吹き返せば、内需と輸出が車の両輪となって成長をけん引する。そうした回復シナリオは、資源ブーム後に長期トレンドを下回る成長が続く豪州経済にとって最善と言える。

もっとも、このところの低金利を背景にシドニーとメルボルンの2大都市では既に不動産市場が加熱気味。「ファースト・ホーム・バイヤー」(初めての住宅購入者)と呼ばれる若い世代には、マイホームはますます手が届かなくなっている。利下げはさらに一段の不動産価格上昇を招く可能性があり、格差の拡大につながるとの懸念も出ている。

世界的に見れば、今回の利下げは「通貨安競争」に飛び乗った格好だ。1月下旬以降、オーストラリアと同じ資源輸出国のカナダをはじめ、欧州中央銀行、シンガポール、デンマーク、ニュージーランド、ロシアなどが相次いで金融緩和に踏み切った。資源安やデフレ懸念を背景に、輸出競争力を高めるため自国通貨を競って引き下げている。



海外展開に強みを持つトール(Photo: Toll Holdings)

日本郵政の買収提案受け入れ

豪物流大手トール−豪の日系企業M&Aで最大

豪物流大手トール(本社メルボルン、ブライアン・クルーガー社長)は2月18日、日本郵政グループの買収提案を受け入れると発表した。買収総額64億8,600万ドルは、日本企業による豪州企業の吸収・合併(M&A)としては「過去最大」(経済紙オーストラリアン・フィナンシャル・レビュー)となる。2社の売上高を合計すると約247億米ドル(同紙)となり、世界第5位の巨大物流企業が誕生する。

日本郵政はアジア太平洋地域に広く展開するトールのネットワークを取り込むことでグローバル化を加速させるとともに、今年後半の上場に向けて収益性の強化を図る。1株当たり9.04ドルで100%取得して完全子会社化する。これは豪証券取引所(ASX)のトール株の17日の終値6.08ドルと比べ約49%高い水準。買収受け入れの発表を受けて、同社株は18日、8.95ドルまで急騰した。トールの株主総会と外資審議委員会(FIRB)の承認を待って6月上旬の取引完了を目指している。

トールはNSW州東部ニューキャッスルで1888年にアルバート・トール氏が創業した、馬車で石炭を運ぶ会社が源流。1986年に買収した前社長のポール・リトル氏の下で小規模な運送業者のM&Aを繰り返して急成長し、93年にASXに上場した。2014年6月期の売上高は88億1,100万ドル、純利益は2億9,300万ドル。従業員数は約4万人。50カ国以上の約1,200カ所に拠点を持つ。

豪州では近年、日本の飲料大手各社による豪企業の買収が相次いでいるほか、第一生命も豪保険大手を買収するなど、かつて主流だった資源部門からサービス産業へと日系企業によるM&Aの幅が広がっている。住宅や小売関連企業の直接進出も拡大している豪経済界には、今後も金融緩和であふれたジャパン・マネーが豪州に押し寄せてくるとの観測もある。人口が縮小していく日本と比較して市場の成長余力があり、金利も比較的高い豪州への投資は日本企業にとって魅力が増している。



シドニーの売店で販売されている西洋風の「スシ・ロール」

日本食品の対豪輸出、過去最高
2014年は94億円−背景に日本食人気

日本の農水省が2月10日に発表した2014年の農林水産物・食品輸出に関する統計によると、オーストラリア向け輸出額は94億円と前年比で17.5%増え、2年連続で過去最高を更新した。国・地域別では9番目だが、1人当たりの需要で見ると、食文化が似ている英語圏の主要国ではトップ・クラスとなっている。

日本産農林水産物・食品の対オーストラリア輸出額は、10年までの数年間50億円台で推移していたが、寿司など日本食人気を背景に11年以降右肩上がりに拡大。日本酒や米など近年急増している商品もあり、販路拡大を図る日本の政府系機関や地方自治体、民間企業がPRに力を入れている。

ただ、ほかの主要輸出先と比較してオーストラリアの食品検疫規定が非常に厳しいことから、畜産品や乳製品、卵製品、青果などの生鮮食料品を持ち込むのは難しい。このため、オーストラリア向け輸出品目の大半は、加工食品や冷凍食品に限られる。14年の上位3品目も、1位「清涼飲料水」(19億円、93.1%増)、2位「ソース混合調味料」(14億円、13.5%)、3位「しょうゆ」(5億円、22.8%増)が占める。

なお、世界全体の輸出額も6,117億円と11.1%増え、過去最高だった。国・地域別では、1位香港(1,343億円、7.5%増)、2位米国(932億円、13.9%増)、3位台湾(837億円、13.8%増)などが多い。日本政府は、いわゆるアベノミクス「第3の矢」の成長戦略の一環で、農林水産物・食品の輸出拡大策を強化している。20年までに輸出額を1兆円に拡大するとの目標を掲げている。



州首相に就任した労働党のアナスタシア・バラスクザック党首

QLD州で3年ぶり政権交代

バラスクザック州首相の新内閣発足

QLD州で労働党が3年ぶりに州政権を奪回した。1月31日投票のQLD州議会選挙の開票結果が2月13日、ようやく確定した。大胆な財政再建策に対する有権者の強い不満を背景に、与党自由国民党は大幅に議席を減らして野党に転落。キャンベル・ニューマン州首相も自身の選挙区で落選した。一方、追い風を受けた野党労働党は無所属1人の協力を得て過半数の勢力を確保した。

アナスタシア・バラスクザック州労働党党首は14日、第39代州首相に就任した。バラスクザック氏は1969年ブリスベン生まれで、労働党の元州議員ヘンリー氏を父に持つ2世議員。06年に引退した父の地盤を継いで初当選した。アナ・ブライ州首相の労働党政権で多文化相、交通相などを歴任し、12年に野党党首に就任した。女性のQLD州首相はブライ氏に次いで2人目。

新しい州内閣は16日に発足した。バラスクザック氏は芸術相を兼任。同じく女性のジャッキー・トラッド氏が副首相・交通・通商・インフラ相、カーティス・ピット氏が財務・雇用・産業関係・先住民相に就任した。そのほかの主な州閣僚の顔ぶれは、キャメロン・ディック保健相、ケート・ジョーンズ教育・観光・中小企業・英連邦大会担当相、アンソニー・リンハム開発・資源相、イベット・ダース法務・訓練・技能相、ジョアン・ミラー警察・消防・災害担当相、ビル・バーン農水産・スポーツ・競馬相など。

 

VIC州に続き保守陣営に逆風

州議会(1院制)の定数は89。自由国民党は改選前から31議席を減らして42議席と過半数を割り込んだ。労働党は35議席増やして44議席を獲得し、無所属議員1人の支持を得て僅差ながら過半数の45議席を制した。「カッターのオーストラリアン党」(KAP)は1議席減の2議席だった。

公共放送ABC電子版によると、前回選挙と比較してどれだけ得票率が増減したかを示す「スウィング」は、自由国民党がマイナス8.3%、労働党がプラス10.8%と与党に強い逆風が吹いた。

2012年の前回選挙では、11年の洪水対応で支持を集めた元ブリスベン市長のニューマン氏が自由国民党を率いて労働党から政権を奪った。しかし、ニューマン氏は州職員の大量解雇など大胆な財政再建策を進めたことが労組を中心に強い反発を受け、1期3年の短命政権に終わった。

11月のVIC州選挙、今回のQLD州選挙と保守政権が豪州では異例の1期目で敗退するケースが相次いでいる。各州の事情だけではなく、トニー・アボット連邦首相の人気低迷が州の保守政権の足を引っ張っているとも見方もある。

QLD州議会の議席数(カッコ内は改選前)
 自由国民党 42(73)
 労働党 44(9)
 カッターのオーストラリアン党 2 (3)
 無所属 1 (4)

出典:QLD州選挙管理委員会

なお、今回の選挙結果をめぐっては、ブリスベンのファーニー・グローブ選挙区に立候補した「パーマー・ユナイテッド党」(PUP)の候補が、規定で立候補資格がない「債務を返済していない破産者」だったことが選挙後に発覚したことから、裁判所の判断によってやり直し選挙が行われれば、その結果によっては自由国民党が過半数を奪回する可能性がわずかに残っていた。しかし、州選挙管理委員会は13日、同選挙区の選挙結果の有効性を裁判所の判断に委ねるとしていた方針を撤回したため、再選挙実施の可能性が消え、労働党候補の当選が確定した。



保守連合のマイク・ベアード州首相(自由党党首)

NSW州選挙、3月28日投票

ベアード保守連合政権、続投目指す

経済・金融の中心都市シドニーがあるNSW州の州議会選挙が3月28日、実施される。マイク・ベアード州首相の保守連合(自由党、国民党)は交通インフラ整備や警官増員などの実績を強調し、2期目の政権続投を目指す。ルーク・フォーリー党首の野党労働党は州営資産の売却や民営化の阻止、シドニー西部パラマッタへのライト・レール(低コストの簡易鉄道)建設などを公約に掲げ、4年ぶりの政権奪回を狙う。

2011年の前回州選挙では、自由党のバリー・オファレル前党首が率いた保守連合が地すべり的勝利を収め、16年ぶりに労働党から州政権を奪った。オファレル氏は高い人気を誇ったものの、不正なロビー活動の疑いを持たれた会社経営者から過去に高額なワインを受け取っていたことが明るみになり、昨年4月に州首相を辞任。投資銀行行員を経て07年に政界入りした2世議員のベアード氏が後任の州首相に選出された。

フォーリー氏も今年1月5日に労働党の新党首に就いたばかり。同氏は就任直後、過去に2回飲酒運転で有罪判決を受けたこと、若い時に大麻を吸った経験があることを自ら告白した。前党首のジョン・ロバートソン氏は、シドニーのカフェ立てこもり事件の容疑者(射殺)に便宜を図る手紙を過去に送っていたことが判明したため、昨年12月に辞任に追い込まれた。

 

政権維持も議席大幅減の公算

改選前の州下院(定数93)で2大政党の議席差は38と大きく、労働党が政権を奪回するには現在の23議席に24議席以上上乗せする必要がある。世論調査を見る限り、現状では続投の可能性が高いと言える。

調査会社「ギャラクシー・ポール」が1月21・22日に実施した世論調査によると、主な政党の支持率は、保守連合45%(自由党39%、国民党6%)、労働党36%、環境保護政党グリーンズ(緑の党)11%。2大政党別支持率は、保守連合54%、労働党46%だった。この調査結果を元に、選挙の専門家として知られる公共放送ABCのアントニー・グリーン氏が算出した予想議席数によると、保守連合が前回選挙比(現有議席とは異なる)17減の52、労働党が同17増の37、そのほかが4となる見通し。


NSW州下院の改選前議席数
 保守連合  自由党 42
 国民党 19
 労働党 23
 グリーンズ 1
 無所属 8

労働党陣営には全国的に追い風が吹いている。先のVIC州とQLD州の州選挙では、いずれも野党労働党が保守政権の2期目の続投を阻止して政権を奪回した。オーストラリアでは連邦・州ともに与党が1期で政権を失うケースはきわめて異例。NSW州選挙の結果によっては、内紛の火種を抱える連邦のアボット保守連合政権にさらに打撃を与えかねない。

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