【特集】2018/19連邦政府予算案

2018/19連邦政府予算案
松本直樹
政局展望

来年度連邦予算案の特徴

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー
松本直樹

ターンブル保守政府は今次予算案に所得税減税や法人税減税策を盛り込み、他の分野での増税策もなく、また個人所得税のいわゆる「ブラケット・クリープ」効果に依存することもなく、更に歳出の大きな削減策も採用することなしに、予測よりも1年間早く、しかもわずか1~2年後に、極めて重要な財政再建を達成できると喧けんでん伝している。ここにきて政府は、「収入に見合った国家運営」云うんぬん々のスローガンに加えて、経済運営能力を誇示する明確な「ナラティブ」を獲得したと言える。ただし問題は、せっかく「良い商品」があるとはいえ、辣らつ腕の「セールスマン」がいない政府に、果たしてをそれを国民に売り込めるかであろう。この点で保守連合政府は甚はなはだ頼りないと言える。来年度連邦予算案の特徴、ポイントとしては、主として以下の2点が挙げられよう。

選挙対策予算案

昨年の5月に公表された2017年連邦予算案は、かなり異例の予算案であった。というのも、同予算案が16年7月に実施された両院解散選挙以降では初の予算案、従って次の選挙までに通常3回公表される予算案の中では、最も厳しいものであって然るべきにもかかわらず、実際には選挙直前の予算案と見間違うほどに、有権者への「バラマキ」策や、懐柔策を盛り込んだものであったからだ。

この特徴は、通常は「退屈」予算案となる選挙後第2回目の18年予算案でも同様で、今回も何よりも次期選挙を意識した予算案となっている。

選挙後第1回目及び第2回目の予算案が、そろって選挙直前予算案のようになった理由は、まず今期には通常の3回の予算案サイクルはなく、次期連邦選挙までに予算案が公表されるのは、今次予算案が最後になる公算が高いという点が指摘できる。そのように予想するのは、次期連邦選挙の形態が、通常の下院解散プラス上院半数改選の同時選挙となるのはほぼ確実であるからだ。

その場合、次期選挙は今年の8月4日から、遅くとも19年の5月18日までに実施されることとなる。そのため政府としても、通常は5月の第2火曜日である予算案の公表日を大きく前倒しにしない限りは、次期選挙前に3回目の予算案を公表することは不可能であるのだ(注:ただし、ターンブルが来年に入ってからの選挙を選択した場合は、来年の初頭に「ミニ予算案」が公表されることとなろう)。

他方で、ターンブル政府は、早くも16年7月の選挙直後から、支持率、評価の低迷に喘(あえ)いできた。そのためターンブル政府としては、2回しかない「次期選挙前」予算案を、支持率回復のため十分に活用する必要があったのだ。

さて、18年予算案に盛り込まれた有権者懐柔のための施策が、今次予算案全体の中でも最大の「目玉」で、典型的な有権者懐柔策である包括的個人所得税減税策と、17年予算案の中でも重視された運輸インフラの整備政策である。

自由党のマルコム・ターンブル連邦首相
自由党のマルコム・ターンブル連邦首相

まず所得税減税策だが、そもそも財政的に余裕がある場合、労働党が教育や医療サービスといった、社会資本への支出増加を通じて国民に還元する傾向があるのに対して、個人主義を標榜する自由党の場合は、所得税の減税を通じて還元する傾向が強い。実際にターンブルは、同政権としては初の16年予算案の中にも、個人所得税の減税策を盛り込んでいる。ただ16年予算案は、前回選挙の直前に公表されたものだが、それは選挙対策としては穏当(おんとう)過ぎるものであった。

むしろ16年減税策は、当時モリソン財務大臣が繰り返し強調していたように、「ブラケット・クリープ」効果対策に過ぎないものであった。これは、インフレに伴う賃上げによって名目賃金が上昇し、その結果、多くの就労者の個人所得に一段高い税率が適用され、税収入が増加する現象を指す。実質賃金/給与が上昇しない一方で、納税額だけが増加する「ブラケット・クリープ」の存在は、国民の勤労意欲を削ぐものであることから、政府としては「敷居」の上昇等を通じて、頻繁に同現象を回避することが必要となる。16年予算案の減税策は、そういった「ルーチン的」なものであった。

これに対して、今次予算案の個人所得税減税策は、多くの納税者がほぼ永続的に「ブラケット・クリープ」効果自体から免れることを狙った、構造的な変更である。減税策は3段階から構成されており、第3段階目の開始は約6年後という、相当に長期的な減税計画となっている。減税のコストは向こう4カ年度では134億ドルであるが、向こう10カ年度の総コストは1,400億ドルにも上る。

最も重要な税制の変更は、24年7月1日からスタートする減税策の第3段階で、まず32.5%の税率適用の所得範囲が、「4万1,001ドル~12万ドル」から「~20万ドル」へと一挙に拡大され、しかも限界税率の37%は廃棄される。減税第3段階の実施後には、94%の納税者に適用される限界税率は、最高でも32.5%となり(注:現行制度のままでは納税者の63%のみ)、多くの納税者が「ブラケット・クリープ」の頸木(くびき)から逃れることとなる。

一方、選挙対策のもう1つの柱がインフラの整備政策である。インフラ整備はハワード保守連合政権も一貫して熱心であったが、それまでの整備の主目的は資源・エネルギー・ブームへの対応、具体的には「生産の隘路(あいろ)」への対応であった。

これに対して、ラッド/ギラード労働党政権以降に重視されてきたのは、むしろ国民生活の改善を念頭に置いた、都市部の運輸・交通インフラ、とりわけ通勤/通学鉄道や道路を最優先にした整備策であった。その理由は、資源・エネルギー・ブームも沈静化しつつあった一方で、連邦選挙で重要な都市郊外在住の有権者の不満、あるいは重大関心事の1つが、交通問題であったからだ。

実は運輸インフラの整備策は、昨年の17年予算案でも重視されたものであった。17年予算案では、全国的に意義深い運輸インフラ整備プロジェクトに対して、向こう10カ年度で総額750億ドルもの整備計画が明らかにされていた。その背景には、ターンブル政府が16年予算案以降、成長戦略の中核に据えてきた方策、すなわち、中・長期法人税減税策の行方が相当に不透明との政府の判断、そして政府が同じく経済成長路線の「ビークル」と位置付けてきた、生産性向上のためのイノベーション促進策が、期待していた政治的効果も、経済的効果も上げてこなかったとの事情があった。

このように、17年予算案における運輸インフラ整備策は、主として経済成長の「ビークル」として期待されていたものだが、245億ドルを拠出した18年予算案におけるインフラ政策では、労働党前政権と同様に、選挙前の有権者懐柔策として、とりわけ道路や鉄道インフラの整備といった、運輸・交通インフラ・プロジェクトへの投資が重視されている。

経済運営能力の誇示

18年予算案の第2の特徴は、それが保守連合の経済運営能力を強く誇示したもの、同能力を喧伝することを前面に掲げたものである点だ。伝統的に経済は自由党、社会保障や教育、医療等は労働党が得意とする分野とされるが、この内の経済運営能力とは、つまるところ健全な国家財政の維持能力と、経済成長の実現能力であると考えられる。

選挙の帰趨(きすう)を決定する、あらゆる選挙において恒常的な非政策争点とは、与野党リーダーシップへの好悪や評価と、与野党の経済運営能力に対する評価である。換言すれば、与野党リーダーシップと並び、与野党の経済運営能力に関する有権者の評価は、有権者の投票行動を決定する上での重要要因と言える。ただし、経済政策の詳細比較を通じた与野党の評価ではなく、有権者の経済への見方や印象、そして経済分野における与野党の能力に対する有権者の「漠然とした」印象が重要となる。更に経済運営能力に関する与野党の「漠然とした」評価、イメージを決定する上で重要なのが、国民にとっても分かりやすい国家財政の状況である。

そして2大政党の財政運営能力に対する評価については、過去の財政面での「実績」によって、ほぼ恒常的に労働党が保守連合の後塵を拝している。ところが13年9月に保守連合政権が誕生し、それ以降5年近くにわたって保守政権が続いているものの、相変わらず不健全財政の状況が続いている。

もちろん、労働党前政権からの「つけ」が大きなものであったこと、また財政再建を目指した保守政府の大規模な歳出削減策が、野党労働党やグリーンズ党の反対によって、ことごとく拒否されてきたとの事情はある。しかしながら、継続的な財政赤字、むしろ増大傾向にあった政府純債務残高、加えて歳入サイドからの財政再建を唱えつつ、各種増税策を提示してきた野党の政治的攻勢もあり、保守連合の財政再建能力にも疑義が呈(てい)されつつあった。

そういった中、ターンブル保守政府は今次予算案の中で、つい最近までの予測が1年早まって、FY2019/20にはわずか22億ドルではあるものの、ついに黒字に転じ、その後も黒字幅は拡大すると宣言している。FY2008/09に赤字に転落して以降、実に11カ年ぶりに黒字に転ずるわけである。しかも、国民の強い反発を惹起(じゃっき)する大きな削減策はないし、他の分野での増税策による黒字転換でもない。要するに、「負け組」の犠牲によって達成される財政の健全化ではない。

もちろん、これは僥倖(ぎょうこう)、すなわち、最近の予測を大幅に上回る税収入の増加のお蔭ではある。例えば、FY2016/17からFY2018/19の間に、歳入は当初の予測よりも15.6%も大きい、639億ドルの増加となる見込みである。

ただ留意すべきは、ターンブル政府がこういった「棚ぼた」の追加歳入の大部分を、選挙前の「バラマキ」に回さずに、財政赤字の削減のために活用したという事実だ。実際に、政府は639億ドルの内の187億ドルを、財政赤字の削減のために充当している。これは次期選挙を控えて、政府が改めて財政再建問題の重要さを認識した結果であり、そしてその背景には、最近の各種世論調査でも、有権者の多くが財政再建問題に高い優先度を置いていることが示されている、との事情がある。

さて周知の通り、ターンブル政府としては初回の16年予算案では、法人減税政策を経済成長実現の主要「ビークル」と位置付けていた。この減税計画とは、計画最終年度のFY2026/27の時点で、あらゆる法人事業体の税率を25%にまで低下させるというものである。ところが、「階級闘争カード」を繰り出す野党労働党やグリーンズ党は、大企業を潤し、外国企業の株主を喜ばすだけと述べつつ、減税の大部分に反対してきたという経緯がある。また「その他」上院議員の多くも、政府案には冷ややかな姿勢を見せてきた。

そこで17年予算案では、歳入サイドからの財政再建の重視、加えてインフラ整備を中心とする生産性向上を通じた、経済成長路線に転換したという経緯がある。具体的には、いわゆる「ゾンビ節減」策を放棄したばかりか、新たな大きな節減策も放棄し、それどころか、選挙対策のために各種政策分野で支出を増加させ、しかもその財源を新税や増税を通じた税収入の増加で手当てしようとしたのだ。とりわけ重要なのは、メディケア・レビィー税の増税策と(注:最近になって廃棄)銀行レビィーの導入策であった。

ところが、この路線転換によって政府は、かなりの政治的ダメージを蒙(こうむ)ることとなった。というのも、それが必ずしも積極的なものではなかったにせよ、転換した路線が伝統的な自由党の経済路線から遊離するもので、これまで「重税かつ大浪費政党」と批判してきた労働党の路線に接近するものであったからだ。しかも頻繁な変節もあって、経済通、ビジネス通を任じてきたターンブルの立ち位置、信条がますます不明瞭なものとなったからだ。とりわけ伝統的な自由党支持層は、新路線に大きく反発したと言える。

そういった反省からターンブル政府は、今次18年予算案では、改めて経済政策や財政政策問題で労働党と「差別化」することを狙っている。具体的には、何よりも増税等を通じた歳入サイドからの財政再建は放棄し、しかも経済成長については、あらゆる手段をもって実現しようとしている。

周知の通り、経済成長実現の「3つの鍵」としては、①「人口成長」、②「労働力化率」、そして③「生産性」の向上の3つがあるが、今次予算案で政府は、「3つの鍵」の全てを活用、行使し、しかも労働党と「差別化」するため、伝統的な自由党の経済路線に則って、自由党が「十八番」と自負してきた経済成長を実現し、もって有権者の投票行動を決定する上で極めて重要な、経済運営能力の高さを誇示しようとしている。

予算案の行方

最後に18年予算案関連政策法案の行方だが、上院で可決されるためには少なくとも39票を確保する必要がある。ところが、与党保守連合の議席数は30に過ぎない。

他方で、17年予算案ではかなり労働党と類似する予算案を編成した保守政府も、次期連邦選挙前の最後の予算案となることが確実な今次予算案では、何よりも労働党との「差別化」、すなわち従来からの2大政党の政策上の差異をより強調する方向で予算案を編成している。そのため、17年予算案よりも多くの政策で野党労働党の反対に遭遇する公算が高い。これは環境保護政党のグリーンズ党にも当てはまる。

その代表格が政府の法人税減税政策である。グリーンズ党と共に、依然として野党は、「富裕者や強者だけを潤す」法人減税に強く反対しており、それどころか、仮に近い将来に政府減税法案が成立したとしても、将来のショーテン労働党政権は同減税策を廃棄すると宣言している。従って法案の行方は、引き続き合計11人の「その他」議員の意向次第となる。

一方、今次予算案の「目玉」である個人所得税の減税政策については、政府は既に3段階からなる全パッケージの減税施行法案を上程しているが、野党労働党は減税の第1段階だけは支持するとしている。グリーンズ党も同様な立場であり、結局、同政策の行方も「その他」上院議員次第となる。要するに「その他」をいかに説得して、11人中の少なくとも9人からの支持を獲得できるかに掛かっている。

そこで重要な存在となるのが、議員3人を擁するワンネーション党である。理由は単純で、仮に同党がこれまで通りに「一枚岩的」に行動し、そして政府法案に反対した場合、他の「その他」8人全員が支持に回っても、政府法案は否決されることになるからだ。換言すれば、ワンネーション党はしばしば「バランス・オブ・パワー」の地位を占めることとなる。

キャンベラの国会議事堂(Photo: Tourism Australia)
キャンベラの国会議事堂(Photo: Tourism Australia)

2018/19連邦政府予算案
菊井隆正

ターンブル政権の第3次予算案

Ernst & Young
パートナー/ジャパン・ビジネス・サービス
オセアニア・アジア太平洋地域統括
菊井隆正

オーストラリア政府は2018年5月8日、2018/19年度(2018年7月1日~2019年6月30日)の連邦予算案を発表した。毎年5月に予算案を発表することが慣例となっており、予算年度の計画を含めた向こう4年間の見通しを発表する。今回で3度目となるターンブル政権の予算案は、税収・支出とも抑えた堅実な財政運営をアピールしており、総選挙を控えた予算案にしては比較的控え目と言える。順調な経済を背景に昨年の見通しよりも1年早い2019/20年度には黒字化を達成すると見込んでおり、また黒字は税収対GDP比に一定の上限を設けることで財政規模を抑えていく方針を明確化した。

経済

高めの経済成長率が前提

今回の連邦予算案を支える経済成長予測は楽観的な傾向にある。事業投資の継続的な回復、堅調な個人消費、公共インフラに対する継続的な支出を背景として3%のトレンド成長率に戻ると予測されている。

世界経済の回復は、成長の原動力がより広範囲にわたることで継続し、オーストラリアの交易条件は、2011年度のピーク時より約20%低いものの、最近の水準を維持する見通しだ。

また、名目GDPの成長率は4.75%に達すると予測され、その後は5年平均の成長率である3.3%を上回るが、過去20年間に記録された平均成長率6%をはるかに下回る約4.5%程度の成長率に落ち着くと予想されている。

失業率は低下傾向だが、賃金の上昇は不透明感なお漂う

将来見通しの鍵となるのは、賃金上昇の回復のペースである。将来の雇用の増加と失業率の低下による労働需給の引き締まりが、比較的堅調な賃金上昇を導くと予測されている(現行の2%から2020/21年度には3.5%に達すると予測)。

財務省は、賃金の上昇及び減税の組み合わせが家計所得を支え、結果として消費の持ち直しを支えると見ている。このシナリオが実現できることを期待するが、恒常的な賃金の伸び悩みはオーストラリアだけでなく世界でも共通の課題となっている。

予算案の見通しの最大のリスクは、想定していたよりも賃金の回復が遅れ、個人消費を停滞させてしまうことであろう。消費者支出が増えなければ、3%の成長軌道に乗せるのは容易ではない。

消費者マインドへの影響は?

予算案の実効性は今後の消費者マインドへの影響で明らかになる。家計支援を重視した一貫した施策が快く受け入れられると消費喚起につながるが、アボット前政権下の2014/15年度予算案で打ち出した緊縮策が国民から「不公平」と反感を買い、結局発表された多くの施策が議会を通過しなかったことは記憶に新しい。

今回の経済・財政見通しが実現できれば、既に始まっているさまざまな社会的、経済的変化に対応できると予想されるが、先行き不透明感やこれまでの秩序を壊すディスラプションが起きている中、予想通りには展開しない可能性も高い。そうした環境変化に対応でき、持続的な成長軌道に乗せるには税制改革を中心とした踏み込んだ改革を避けて通れない。

財政

税収――予期しない追い風

予算案は、財政再建による堅固なバランス・シートを目標とするメッセージを明確化した。昨年度の予算や中間期の経済・財政見通しと比較すると、財政状況は、税収の増加に加え支出が抑制されたことで著しく改善された。

まず2018/19年度は145億ドル(GDPの0.8%)の財政赤字を見込んでいるが、予算は急速に回復すると見込み、翌年度で財政均衡に達し、2020/21年度は110億ドル及び2021/22年度についても166億ドルの財政黒字を見込んでいる。

純債務は2017/18年度にGDPの18.6%で最大に達し、その後2021/22年度までにGDPの14.7%までに減少すると予測している(図1)。

図1
図1

税収対GDP比上限の真の意味

連邦政府は、税収対GDP比に23.9%の上限を定めることに重点を置いているが、これは予算の黒字化を約束すると共に、将来的に政府支出を抑え財政規模を小さくすることを意図している。ふさわしい財政規模を確保することが重要であるが、そのためにはまず政府は今後どのようなサービスを提供するかを決定した上で、その支出の財源をどのように確保すべきか検討することが必要である。より高い支出は、より高い税収が必要となるが、最終的に高い税負担は景気の減速を招きかねない。

税収の対GDP比上限を設ける一方で、財政黒字を達成するということは、必然的に支出額を抑制しなければならないことを意味し、財政戦略の信認を確保する重要性を訴える形となり、経済ショックや景気悪化要因が発生しない限りこれは適切な施策と言える。

税収対GDP比は、予算年度及び向こう3年会計年度の間上昇する見込みで、2016/17年度の21.6%から2021/22年度には23.9%に達すると予測している(図2)。

図2
図2

しかし、税収対GDP比の上限にだけ焦点をあてるべきではなく、そこに行き着くまで長い道のりであるという認識が必要だ。ここ数年見てきたように、経済成長の足取りが鈍かったため堅実な税収を確保するのが難しい状況が続いた。直近では収入が回復しているが、今後、自動的に税収対GDPの上限に到達できる保証はない。

税務

個人所得税の減税

今回の予算案の目玉となったのは三段階で導入される予定の個人所得税減税だ。

第1段階では、向こう4年間にわたりタックス・オフセットとして年間最高530ドルの税額控除が新たに低・中所得者に支給される。第2段階では中間所得者層の所得税率区分を2018/19年度と2022/23年度で調整。第3段階では、2024/25年度からは37%税率区分が廃止され最高税率を年間所得20万1ドル以上から適用することで、個人所得課税の簡素化・均等化を計画する(表1)。

表1

現在 減税案(第二段階) 減税案(第三段階)
税率 2017/18年度 2018/19年度~
2021/22年度
2022/23年度及び
2023/24年度
2024/25年度以降
非課税 0~18,200 0~18,200 0~18,200 0~18,200
19% 18,201~37,000 18,201~37,000 18,201~41,000 18,201~41,000
32.5% 37,001~87,000 37,001~90,000 41,001~120,000 41,001~200,000
37% 87,001~180,000 90,001~180,000 120,001~180,000 該当なし
45% 180,001以上 180,001以上 180,001以上 200,001以上

(豪ドル表示)

モリソン財務相は、今回の減税の恩恵が主に家計が厳しい低・中所得層に振り向けられており、貯蓄率の低い同所得層は減税によって増えた手取りを直接支出に回す傾向があるため、消費喚起による経済への波及効果が期待されるとテレビのインタビューに答えた。だが課税率の引下げによる給与手取り額の増加とは違い、第1段階の「減税」ではタックス・オフセットという形で納税者個人が年度末のタックス・リターン申告後に一括で支給されることから、想定しているほどその恩恵がすぐに行き渡らない。

ただ、長い目で見れば今回の個人所得税に対する見直しはインパクトがあるといえる。7年後の2024/25年度からは4万1,001ドル~20万ドルという、きわめて幅をきかせた所得枠に対し一律32.5%の税率が適用され、最高税率は45%の据え置きとなる。同年度からは94%の納税者が累進税率が32.5%以下になるという。所得が上がるにつれ税率が高くなる累進課税制度はオーストラリアにおいて重要な位置を占めているため、7年かけて見直しされるとはいえ、現段階では今回の減税策に対する幅広いコミュニティーのサポートを得ることができないかもしれない。

大規模グローバル企業

大規模グローバル企業(Significant Global Entity、以下SGE)の定義が2018年7月1日以降に開始する課税年度から拡大される予定である。改定後は、現在対象となっている連結財務諸表の提出が義務付けられている企業で形成されるグループに加え、非公開株式会社、信託(Trust)、パートナーシップ、及び投資企業(プライベート・エクイティー・ファンドなど)により形成される大規模グループのメンバーがSGEの定義に含められる予定である。今後、広範囲にわたる企業がSGEに課せられる厳格なペナルティーや一般目的財務諸表に関する義務並びに国別報告の対象となる予定で、法令遵守や報告プロセスの見直しが必要となるだろう。

研究開発費

研究開発(R&D)費に対する税務上の優遇措置も大幅に引き締められ、研究開発費用が占める割合によるスケーリング(incremental intensity)によって税額控除率が変動する措置を公表した。この措置により予算年度及び向こう3年会計年度の間において20億ドルの増収要因となる。

透明性、地下経済及びATOビッグ・データ

地下経済タスク・フォースによる報告書の内容に政府が全面的に応えたことにより、今後4年間にわたり53億ドルの税収漏れを防ぐと予想される。2019年7月1日以降の主な措置は以下の通りである。

事業に関する控除

  • 事業主はPAYG源泉徴収していない従業員支払について控除ができなくなる。
  • PAYG源泉徴収を適用しない請負業者への支払についても請負業者がABNを提出しない場合には控除が認められなくなる。
  • 現金での事業取引の上限が1万ドルに制限される。

透明性に関する政策

  • 400万ドルを超える(GST込み)オーストラリア政府との調達契約に入札を希望する事業主は「全般的に納税義務を遵守している」ことを示す宣誓書をATOに提出しなければならない。

課税対象支払報告(Taxable Payments Reporting)

  • セキュリティー業及び調査サービス業、陸上貨物配送業、及びコンピューター・システム設計サービス業について、下請業者への支払をATOに報告することを義務付ける課税対象支払報告システム(TPRS)が支払人を対象として適用となる。

ビザ

ビザに関連する発表は下記の通りです。

トレーニング・レビーの払戻し

Skilling Australians Fund Levy(トレーニング・レビー)の払戻し要件が以下のように明らかになりました。

  • 雇用主のスポンサーシップは承認されているが、健康上や人格上の理由でビザ申請が却下された場合
  • ビザが発給されたのにもかかわらず雇用が開始されなかった場合
  • 発給されたTSSビザの有効期限が12カ月以上でなおかつビザ保有者の雇用が12カ月以内に終了した場合(払戻し額は滞在日数などを基に按分して計算される)

ビザ審査時間の長期化

内務省の移民・市民サービスに割り当てられる予算が削減されるため、今後も引き続きビザの申請における審査時間の長期化が続くと予想される。一方、オーストラリアの主要空港における国境警備や入国審査の強化に向けた支出の拡大を計画しており、入国審査ではビザのチェックがより厳しくなると見込まれる。

ビザ申請手数料

18年7月1日からビザ申請手数料が値上げされることが予想され、同措置により2017/18年度見通しより3億9,000万ドルの税収増となる。

インフラ

州や特別地域をまたぐ29ほどのインフラ・プロジェクトに245億ドルを投じることが盛り込まれており、これは歓迎する。都市における道路渋滞を緩和するためのファンド(Urban Congestion Fund)に10億ドルが投じられると共に、戦略的重要道路イニシアティブに35億ドルが投じられる。

連邦政府は、主要なプロジェクトに対して活発なスポンサーとなることを明らかにしており、プロジェクト事業体への直接的資本投資に対する姿勢を鮮明にした。個々のプロジェクトに適した多様な取組み方を検討し、連邦・州政府や民間セクターが費用に見合う価値のあるインフラ・プロジェクト実現に向けて協力していくことを期待している。

高齢者への支援

ベビー・ブーマー世代が本格的に退職時期を迎え、人口高齢化に伴う対策が含まれた。1万4,000の在宅介護パッケージの追加や、高齢者が働き続けられ、自立して生活ができるよう年金ワーク・ボーナス(Pension Work Bonus)及び年金ローン制度(Pension Loans Scheme)を拡充する政策を盛り込んだ。

デジタル化

今回の予算案にはブロック・チェーンを含む公共サービスのデジタル化、消費者データ権利(Consumer Data Right)、人口知能の開発など幾つかの小規模な取り組みも含まれる。また、デジタル・ビジネスに対するオーストラリアの課税制度についてのコンサルテーション・ペーパーをまもなく発表することも示した。

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