日豪サッカー新時代(QLD)第82回「サヨナラ」

日豪サッカー新時代

第82回 サヨナラ
文・植松久隆 Text: Taka Uematsu

ファンとの別れを終え、引き上げるトーマス・ブロイシュの目に涙?(筆者撮影)
ファンとの別れを終え、引き上げるトーマス・ブロイシュの目に涙?(筆者撮影)

別れはいつだって寂しい。

ブリスベン・ロアの今季公式戦の最終戦、ACLの蔚山現代戦。本来であれば、この試合はロアの至宝トーマス・ブロイシュの最後の試合のはずだった。しかし、ピッチにファンお目当ての本人の姿は無い。その週の早い段階で足首痛が癒えず欠場が決まったことで、レジェンドへの餞(はなむ)けと感謝の拍手を直接届けるべくスタジアムに運んだであろう多くのファンの足は、平日夜8時キック・オフの消化試合には向かなかった。

更には、公式戦23得点のエースFWジェイミー・マクラーレン、今季本格ブレイクを見せドイツへと勇躍するブレンダン・ボレロにとっても、オレンジを身に纏(まと)う最後の試合だった。それにもかかわらず、3,000人に辛うじて届いたガラガラのスタンドには、何とも空しい気持ちに襲われる。粉骨砕身でクラブを支え続けたレジェンドやエースの旅立ちに相応しい舞台では決してない。

おまけに試合には負ける。プレー・オフから這い上がった今季ACLは、最下位で予選グループ敗退。佳境に入るAリーグとの試合日程や戦力のやり繰りで苦戦した事実は否めないが、今年と同じレギュレーションになれば、今季同様プレー・オフからのACL参戦となる来季はもう少し存在感を発揮して欲しい。

試合終了後、ピッチ上で選手たちが健闘をたたえ合う中にグレーのスーツ姿の一団があった。けがなどでこの試合の登録を外れた選手たちだ。その中に去りゆくレジェンドの姿を見付けたゴール裏の熱心なサポーターから歓声が湧く。その声に導かれて、彼らに向かって歩を進めるトーマス。彼とファンは、どんな声をお互いに掛けるのか。そのドラマを目撃すべく、5階メディア席からゴール裏へと走った。1人ひとりに声を掛け、記念撮影に応じるいつもの笑顔越しにはすっきりした表情があった。ファンの惜別の辞に耳を傾ける彼の心には何が去来したのか。

全てのファンに対応して引き揚げてくるのを通用口の脇で待ち伏せた。

「トーマス、サヨナラは言わない」
「必ず戻ってくるよ。その時にまた会おう」

見送られる36歳のスーツ姿のレジェンドの背中には見慣れた22番はない。次に会う時は、スーツ姿でベンチ前に立つのだろうと夢想する。いや、必ずそうなると信じよう。

Rather than say goodbye, let’s just say “See you soon!” to Thomas, a true legend.


【うえまつの独り言】
Aリーグが落ち着いた。ACLも豪州勢は虚しく散った。となると、しばらくはローカル・サッカーがメインだ。今季も多くの日本人が活躍するQLD州ローカル・リーグ。自薦他薦問わない頑張るサムライ/ナデシコ・フットボーラーの情報があれば編集部まで。面白いと思えば、取り上げることもあるかもしれない。

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