【今さら聞けない経済学】消費税と軽減税率の関係

今さら聞けない経済学

日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。解説・文=岡地勝二(龍谷大学名誉教授)

第54回:消費税と軽減税率の関係

はじめに:日韓問題の報道について

今、日本で新聞を読んだり、テレビを見たりすると必ず目に触れるのが、日本と韓国の問題です。大げさな表現をすれば、テレビをつければ朝から晩までどこかのチャンネルで韓国の政治・経済の異常な混乱状態を見ることができます。日本の社会は安全で何も問題がないのか、と思わず考え込んでしまうほど連日連夜韓国の問題が報じられています。でも私の周りの人びとは案外、冷めた目でこの問題に接しています。とりわけ日本では、この10月に消費税が10パーセントに上がるという大変な時期に、この期に及んで隣の国の政治家のスキャンダルにそうそう気を向けるわけにはいかないようにも思われます。つまり、日本経済自体が大変な時に、例え「縁が深い」とはいえ、隣の韓国の政治・経済について延々と報じていて良いのか、という声が人びとの間で出回っているのです。と言っても、私が講演や講義に出掛けると出席者から必ず質問が出るのが、「ホワイト国って何ですか」「ジーソミア(GSOMIA)って、いったい何ですか」という質問です。講師として、それらの質問にきちんと答えないといけません。そこで私は次のように答えるのです。

「ホワイト国」と「GSOMIA」について

「ホワイト国」という言葉をこれまでにほとんど耳にしたことがない人も多いでしょう。これは、ひと言で言えば、「この国は、貿易をしても何の問題はないですよ」つまり、「この国は“ シロ=ホワイト” ですよ」ということです。しかし、一種の輸出規制でもあります。財を取引した際、もしこの財が危険な大量破壊兵器に使われるような可能性がある場合、この取引に関してしっかりと経済産業大臣への届けをし、許可を得ることを義務付けた制度なのです。この優遇措置を保有している国が「ホワイト国」または、輸出管理優遇措置対象国とも呼ばれます。現在(2019年8月)「ホワイト国」は、世界に26カ国あります。これまで、韓国は日本にとって友好国でしたので、2004年からホワイト国でしたが、韓国との軋轢(あつれき)生し、韓国をそのホワイト国から外しました。当然、韓国は「おかんむり」です。そこで、韓国は更なる大切な条約である、“GSOMIAの破棄”を通告してきたのです。つまり徐々に両国間の関係が悪化したのです。

さて、このGSOMIAとはなんでしょうか。これも人びとにとって耳慣れない言葉になるでしょう。発音は「ジーソミア」で、なんだかイタリア語みたいな、格好良い響きをもっています。このジーソミアを英語で表すと「General Security of Military Information Agreement」となり、その頭文字を取ってGSOMIAと呼びます。日本語訳は「軍事情報包括保護協定」となり、なんだか恐そうな名前が付けられています。これは日本と韓国との間で、軍事機密情報の漏えい(流出)を防ぎ、更に軍事機密情報をお互いに保護をすることを義務付けるために結んだ協定です。この協定は16年11月に結ばれました。そしてその有効期間は1年のみになります。しかし、期限が切れる90日前に当たる毎年8月24日までにいずれかの国が破棄を通告しない限り毎年自動的に延長される、という約束でこの条約は成り立っているのです。つまり、朝鮮半島で、突如として緊急事態が発生した際、お互いに即座に情報を共有し、緊急事態に対処しよう、という目的の下、条約は成り立っているのです。しかし、韓国の首脳陣は、今の日本政府とは信頼関係を築けないという理由から、この条約を破棄したのです。つまり、貿易的にも軍事的にも日本と韓国はとても深刻な状態に陥ったということになります。

そもそも、なぜ日本と韓国間で、こうも関係がこじれてしまったのでしょうか。韓国の人びとは、植民地時代の従軍慰安婦への保障の問題、強制労働に対する支払い問題が未決として放置されていると主張しています。けれど、日本側は、1965年に日韓両政府によって補償問題は正式に解決済みだ、と主張しているのです。この見解の相違が未だに日本と韓国の間で「軋轢」として残っているのです。私は、長い間、韓国の人びとと、友情を育んできましたし、それがご縁でこれまで韓国の総合政策大学院大学(KDI)と、漢陽大学で客員教授として講義をする機会を与えられたこともあるので、韓国と現在のような絶縁状態になることはとても悲しいことです。1日も早く正常状態に戻ることをひたすら願っております。

消費税率の引き上げ軽減税率のこと

まず、「消費税とは何か」について考えてみましょう。消費税とは、「間接税」で消費一般に広く課税する税金です。課税対象は国内取引に従事する事業者が納税義務者となり、輸入取引については物品を輸入した人が納税義務者となります。ただし、原則として売り上げが1,000万円以下の小規模事業者は納税義務を免除されます。つまり、消費税は、広く薄く課税される、ということになっています。

次に、日本における「消費税の推移」を見てみましょう。

消費税の推移
3% 1989年4月 1985年9月:プラザ合意の後
5% 1997年4月 バブルの崩壊、日本の金融崩壊の後
8% 2014年4月 2008年:リーマン・ショック
2010年:ギリシャ・ショックの後
10% 2019年10月 2017年4月に導入予定だったものを延期

表からも分かるように、消費税率は年々引き上げられていますが、「税金が上がってうれしい」という人はいないので、容易に導入されにくい政策だと言えます。かつて、清貧に甘んじた国民からとても親しまれた大平正芳さんという首相がいました。この人は四国の香川県の出身で、いつも「私は、四国のどん百姓のせがれだ」と言ってにこやかに話し掛け、国民からとても親しまれていました。しかし消費税について口にしただけで国民から総反発に遭い、やむなく消費税の導入を中止し、更に気の毒なことに、そのことを大変気に掛けたのが原因なのか、その後に亡くなった、という悲しい出来事がありました。消費税率を上げる政策の遂行は時の首相にとってとても勇気のいる政策なのです。事実、現の安倍内閣でも、当初は17年に14パーセント引き上げようとしましたが、もしそれを実行すると、内閣が持たないと判断したのか、消費税率の上昇を今年の10月に延ばしました。しかもすべての消費に一気に10パーセントと高い消費税は内閣の命取りになると思ったのか、「軽減税率」も同時に導入するという政策と採るのです。この軽減税率、というものが「曲者(くせもの)」です。一般に税体系を複雑にすると研究者からは見られています。まず、世界の主な国の消費税の税率を見てみましょう。

■消費税の各国比較

ハンガリー 27%
デンマーク 25%
スウェーデン 25%
オランダ 21%
イタリア 21%
イギリス 20%
中国 17%
オーストラリア 10%
韓国 10%
シンガポール 7%
タイ 7%

上の表は、日本の財務省の資料から引用したものですが、消費税といっても各国で随分、率に差があると改めて感心させられます。「ゆりかごから墓場まで」という高福祉体制を取っている、北欧においては一般に消費税は高いという共通の認識が世界にはありますが、経済は資本主義で政治は社会主義という世界でもまれに見る「変則的な体制」をとっている中国においても、立派に17パーセントという高い消費税となっています。このような現実を見ると、日本が消費税を10パーセントに引き上げるという政治システムに何か違和感があるようにも見受けられます。

さて、軽減税率についてですが、この制度は、消費税率引き上げに対する国民の反感対策として重要視されています。と言っても、この軽減税率の導入は一般に「税の複雑さ」を生み出す元凶だと経済学者は主張しています。

課税当局(政府)は消費税率引き上げに際して、経済的に弱い立場にある人への対策として「税負担を軽く」する方法としてこの税制度を用います。税を高くすることによって低所得の人びとが、たとえ数パーセントと言えど経済的に苦しく感じる限り、国民の福祉向上が政府の大きな経済政策だとすると、消費税率を高めることによって国民の福祉が減少するようでは政府の対策として必ずしも正しい在り方とは言えません。経済学者の多くが今回の消費税率の上昇に際して、軽減税率の導入に賛成していないのは、この軽減税率を導入することによって得られる利益が、低所得者よりもむしろ高所得者に発生することが予想されるからです。更にこの軽減税率によって人びとの間で「格差」が発生することになり、そこで経済体制をより複雑化させることになります。

例えば、コンビニや百貨店といった店の規模、店内で飲食をするか持ち帰りかによって税率が変わるなど、消費税率適用の複雑さが指摘されています。

現在、日本社会において、上で見たような商業施設は人びとの日々の生活においてなくてはならない施設だと考えられます。そこで、税率が場所や物により異なっているという現実に直面すると経済を一層混乱に陥れると考えられます。そのような現実を考えて経済学を学んでいる人びとは、この“「軽減税率の導入」に賛成しない”と主張しているのです。税を導入するに当たって極めて大切なことは「簡素であること、平等であること、明瞭であること」といった条件が求められるのです。今回の軽減税率の導入に際して果たしてこのような条件がどれだけ満たされているのか、税を担当する当局、そして国民は等しく考えなければならないと思います。


岡地勝二
関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了後退学。フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業分析研究所主宰

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