オーストラリア税制に対するコンプライアンス

税務&会計 REVIEW

オーストラリア税制に対するコンプライアンス

EYジャパン・ビジネス・サービス
雇用関連税務・個人所得税申告
新井泰弘

プロフィル◎EYシドニーのピープル・アドバイザリー・チームでシニア・コンサルタントを務め、日系企業の窓口を担当。豪州の税務全般と法人会計管理業務の経験があり、特に個人所得税申告や雇用関連税務の知識、経験が豊富

オーストラリアの連邦選挙が2019年5月18日に実施され、与党保守連合が政権を維持することになりました。その結果、4月に提案されていた税制改定法案が順次法律として成立しており、19年税務年度から適用されることとなります。税制改定により恩恵を得るのは主に中間所得層ですが、これは低・中所得者税額控除の導入により納税者の所得税債務が低減されるためです。この点を考慮しつつ、オーストラリアで働く日本人駐在員及び雇用者向けのオーストラリア所得税制の概要を以下に取りまとめました。

1. オーストラリアにおける個人の税務申告

日本では雇用主が従業員の所得税年末調整を行い、地代収入などの付随的な投資所得がある場合のみ、確定申告を提出することが求められているため、確定申告になじみがない方も多いのではないでしょうか。それに対してオーストラリア国税局(ATO)は、オーストラリアで働く日本人駐在員を含む個人に対して、収入が課税対象額である1万8,200ドルを超えている場合や、もしくはそれ以下でも源泉徴収票(PAYG Payment Summary)が発行されている場合は、税務申告書を毎年提出するよう義務付けています。

オーストラリアの税務年度は毎年7月1日に開始し、翌年6月30日に終了し、税務申告書の提出期限は税務年度終了直後の10月31日とされています。したがって、2019年6月30日に終了する税務年度に関する税務申告書提出期限は19年10月31日となります。ただし、この提出期限は、登録税理士が納税者本人に代わって申告書の作成及び提出を行い、前年度までの確定申告が期限までに提出されている場合など、一定の条件を満たした場合には延長されることがあります。

給与計算手続きに関する注記

雇用者は給与、賃金に対する所得税の源泉徴収(PAYG Tax Withholding)及びその報告を正確に行う責任を負っており、その責任は近年高まる傾向にあります。また、ATOによるデータ・マッチング・システムといったデータ分析手法及び技術を積極的に取り入れることにより、ATOへ報告された源泉徴収額と実際の支払金額が一致しているか、スーパーアニュエ―ション(Superannuation)が所得に応じてきちんと支払われているか、もし支払われていない場合には、その理由となる書類がきちんと保管されているか、など各種の不整合を簡単に見つけ、照合作業を適宜最小化できるようになりました。

給与が複数の国、地域で支払われているオーストラリア在住の日本人駐在員を有する雇用者は、源泉徴収の正確性を期すことが一段と複雑となります。また、海外で支払われた給与に関してグロス・アップ計算を行わず、源泉徴収の報告及び支払いを行っていない場合には、ATOによる追徴課税が行われる可能性があり、その際にはフリンジ・ベネフィット税並びに関連の金利及び罰金といった追加的な費用が生じることから、雇用者は高いリスクに直面することになります。更に、未払金額に関して取締役が個人的責任を負うことになる可能性もあります。

2019年7月1日より、ATOの新しい電子給与情報報告制度であるシングル・タッチ・ペイロール(Single Touch Payroll:STP)の導入が全ての雇用者に適用されています。雇用者はSTPにより、給与及び賃金、諸手当、PAYG源泉徴収税、スーパーアニュエーション保証拠出金などの主な給与情報を統合ソフトウェアを使用してリアルタイムにATOに提出することが義務付けられています。19年7月1日以降にSTP下で在外の給与支払部門から支払いを受ける従業員の詳細については、報告を行うことが現在は必須となっています。

2. オーストラリア納税者番号(Tax File Number:TFN)

個人が各年の税務申告を行うためには納税者番号(TFN)が必要です。個人納税者は、雇用者が給与からのPAYG源泉徴収を正確に行えるように、各自のTFNに関する詳細情報を雇用者に提出する必要があります。TFNが提出されない場合、雇用者は給与及び賃金から最高税率47%の源泉徴収(メディケア税徴収額2%を含む)を行う必要があります。

駐在員向け注記

個人がオーストラリアで銀行口座を開設する場合は、オーストラリアの銀行にもTFNを提出する必要があり、提出がない場合には最高税率により利子所得からの税額控除が行われます。また、赴任期間の終了により日本に帰国する場合など、駐在員がオーストラリアから恒久的に退去する場合には、今後は非居住者となることをオーストラリアの銀行に通知し、利子所得に対して10%の非居住者税率の適用を受けることが重要です。これは最終的な税額であり、この利子所得についてそれ以上の税額をオーストラリアで支払う義務は生じません。

3. 税務上の居住者区分及び税率

オーストラリアにおける税務上の居住者区分については居住者、一時居住者及び非居住者の区分があります。個人の居住者区分は、個別の居住実態及び状況に応じて決定されます。納税者を取り巻く状況が変化した場合には居住者区分も変更されることがあります。

税務上の居住者区分

居住者区分 オーストラリア所得税の課税対象所得 税率
豪州在住のオーストラリア国民及び永住者 全世界所得 居住者税率
一時居住者(*) 全世界給与所得及びオーストラリア国内源泉投資所得 居住者税率
非居住者 オーストラリア国内源泉所得のみ 非居住者税率

(*)短期滞在ビザ(TSSビザや学生ビザなど)の種別となる駐在員はほぼ全てがこの区分に該当しますが、本人または配偶者が1991年社会保障法上のオーストラリア居住者(永住ビザまたは保護対象特別カテゴリー・ビザの保有者)に該当する場合は税務上、オーストラリアの永住者とみなされるため、一時居住者には区分されません。

駐在員向け注記

駐在員がオーストラリアにおける永住権を申請する場合、税制面での影響についても慎重な検討が必要となります。

税務上の居住者区分

課税所得 限界税率 この所得に対する税率
0~18,200ドル なし なし
18,201~37,000ドル 19% 18,200ドル超の部分につき1ドル当たり19セント
37,001~90,000ドル 32.5% 3,572ドルに加えて37,000ドル超の部分につき1ドル当たり32.5セント
90,001ドル~180,000ドル 37% 20,797ドルに加えて90,000ドル超の部分につき1ドル当たり37セント
180,001ドル及びそれ以上 45% 54,097ドルに加えて180,000ドル超の部分につき1ドル当たり45セント

税務上の居住者にはメディケア税徴収(2%)が適用されますが、メディケア税徴収は上記税率に含まれていません。民間健康保険に加入していない個人に対してはメディケア税徴収サーチャージが適用されますが、メディケア税徴収サーチャージは上記税率に含まれていません。

駐在員で豪州皆保険に加入する権利のない方( 豪州の市民及び永住者でない方)は、メディケア・レビー免除申請書(Medicare Levy Exemption)をメディケア・オフィス(Medicare Office)から取得することにより、メディケア税徴収(2%)及びメディケア税徴収サーチャージの支払いが免除されます。

非居住者の税率(2018/19年度)

課税所得 限界税率 この所得に対する税率
0~90,000ドル 32.5% 1ドル当たり32.5セント
90,001ドル~180,000ドル 37% 29,250ドルに加えて90,000ドル超の部分につき1ドル当たり37セント
180,001ドル及びそれ以上 45% 62,550ドルに加えて180,000ドル超の部分につき1ドル当たり45セント

給与計算手続きに関する注記

駐在員が1年の途中でオーストラリアに入出国した場合には同一課税年度において複数の居住者区分が当該駐在員に適用されることがあります。したがって、PAYG源泉徴収税額については、当該駐在員に支払う賃金及び賞与に対して居住者税率と非居住者税率の両方が適用されます。

税額控除に関する改定

オーストラリア連邦政府は2019年4月に提案されていた税制改定法案において、個人所得税プランの改定及び構築の予定を公表しました。

そして7月、この改定案は法律として成立しました。改定内容は下表のとおりです。

低・中所得者税額控除(Low and Middle Income Tax Offset: LMITO)

所得 低所得者税額控除
(新規)
追加控除額 最小控除額 最大控除額
18,200ドル未満 該当なし 該当なし - -
37,000ドル未満 255ドル - 255ドル 255ドル
48,000ドル未満 255ドル 37,001ドル以上の金額1ドルごとに7.5%を追加 255ドル 1,080ドル
90,000ドル未満 1,080ドル - 1,080ドル 1,080ドル
126,000ドル未満 1,080ドル 90,001ドル以上の金額1ドル追加ごとに3%を減額 - 1,079.97ドル

この低・中所得者税額控除の導入により納税者の所得税債務が軽減されるため、前年度までと比べ、主に中間所得層の所得税が減額となります。

※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。

コンタクト

新井泰弘
Tel: (02)9694-5882
Email: hiro.arai@au.ey.com

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