分からないけど感動する「空間現代」野口順哉さんインタビュー

分からないけど感動する「空間現代」野口順哉さんインタビュー

京都を拠点にジャンルや枠にとらわれない音楽活動を続けるエクスペリメンタル・バンド「空間現代」。10月に開催されるメルボルン国際芸術祭に日本を代表して出演するに当たり、ギター兼ボーカル担当の野口順哉さんに話を伺った。(聞き手=原田糾)

空間現代◎2006年に結成。野口順哉(ギター/ボーカル)、古谷野慶輔(ベース)、山田英晶(ドラム)の3人によるエクスペリメンタル(実験音楽的)バンド。編集・複製・反復・エラー的な発想で制作された楽曲を3ピース・バンドの形態で演奏。これによるねじれ、負荷がもたらすユーモラスかつストイックなライブ・パフォーマンスを特徴とする。16年9月、活動の場を東京から京都へ移す。劇団「地点」、Moe andg hosts、飴屋法水、吉増剛造、Contact gonzoなど、先鋭的なアーティストたちとのジャンルを超えた作品制作も積極的に行う。18年11月には、坂本龍一との初コラボレーションLP『ZURERU』をリリースした

ーー実際に「空間現代」の楽曲を聞かせて頂いて、言葉で表現するのが難しい新しい音楽だと感じましたが、あえて説明するとすれば、どんな音楽だと思いますか。

とりあえず「変な音楽」だと思います(笑)。よくあるロック・バンドと同様の楽器編成ですが、きっと多くの方が想像されるような音楽とは違うことをやっています。いわゆるロック・バンドではボーカルがいて、ギター、ベース、ドラムで演奏されます。主旋律がメインで他の音は伴奏というのがよくある音楽の構造です。しかし、我々はその構造を一度崩して、「どれがメインなのか」をチャラにしています。ギターもドラムもベースも、時どき入る私のボーカルも、全て対等な存在感で音楽を作るというのが僕らの根本にあります。伴奏者がいないという点で、音楽を思考する角度が違うのが特徴かなと思います。

そういった意味ではクラブ・ミュージックやテクノといった電子音楽からの影響は大きいと思います。ギタリストがいてギターのソロがあってという普通のバンドの考え方とは異なり、電子音楽のように全ての音が材料として均等に並べられた中からそれらを組み立てていくようにして曲を作っています。

ーー複雑なリズムが突如ループし始め、いつの間にか曲として完成されるようなイメージを持ちました。聴く人によっては雑音とも捉える人がいるかもしれませんが、前衛芸術のようにも感じました。どんなイメージで制作されているのでしょうか。

概ねその通りのイメージでいます。音楽における「前衛」の定義とは何かという込み入った話もありますが、少なくとも作曲における態度・姿勢としては「前衛」であることを意識して制作しています。自分にとって「前衛」とは、形式としては常に新しいものを求めているけれども、その道のりを経てたどり着くべきは原点にある魅力、根源的な音楽の力であるべきだと思っています。

この楽器編成で音楽をやる以上、どんなに変わったことをしたとしてもバンド音楽としての本質的な魅力が表れて欲しい。あるいはもっとさかのぼって、音楽そのものの力、そもそもの根源的な力にもハッとさせられたい。意識的にそこに立ち返ろうとしているわけではないけれど、新しさを目指す中で、そういったことを考えています。

ーーコンピューターで作り出せるものをあえて普通の楽器でやるというのも面白い試みですね。

「そんな複雑なことをよくやるね」と言われることがありますが、自分たちもそう思います(笑)。でもそれをやらなければバンド・サウンド、あるいは生演奏の音楽としての強みみたいなものが出ないのだから仕方がない。作っていく過程で「これ良いね」「すごい音楽になったな」という感動を自分たちでもしたいので、それを目指していくとだんだん複雑だったり変わった感じになってしまうのです。

ライブをやる時には、安心して聴けるとか、観客から暗黙の了解を得られるようなお約束事のようなものはたくさんあります。でも、そのお約束事をそのままやると、反対にそのお約束事をそもそもなぜやり始めることになったのかという原点には届かない。形骸化したものとして目に映ってしまうんじゃないかという考えを持っています。

例えば、ドラムの「ドンドンドンドン」という分かりやすいノリの4つ打ちのリズムは、いつでも楽曲に入れることができます。それが入った方がみんな踊れるし、安心するし、普通の音楽になるわけです。けれど、あまりにも「ここで入るよね」というところで入ると興ざめする場合もあります。それでは「4つ打ちの魅力が伝わった」ということにはならない。

観客も演奏者も、そういうセオリーがあることを感覚的に知っていて「なんでここで、こういう風にならないんだろう。つまらないな」って思う人ももちろんいます。けれど常にそういったセオリーがあることを頭の片隅に置きながら聴いて、演奏しているということがポイントだと思っているので、それをずらしたりあるいは堂々と使ったりと、ライブの時間の中でいろいろと試してみるんです。すると観客との無言の対話みたいな交流の瞬間が生まれる。それが面白いと思っているので、毎回ライブの構成はそうしたことを意識して練っています。

Photo: Katayama Tatsuki
Photo: Katayama Tatsuki

ーー過去のインタビューの中で「音楽を無理に分かろうとしなくても良い」と話していらっしゃいましたが、聴く人にはどう感じて欲しいですか。

「分からない」とライブを観た人によく言われてきたんです。「分からない」という言葉は多くの場合、ネガティブな意味で使われます。「分からない自分を恥じます」とか「僕にも分からないような音楽はちょっとどうなの?」とか。けれど、そもそも僕らが芸術に対して感動する瞬間というのは、「分かったから感動している」ということなのか、常に疑問でした。

例えば、感情移入できる映画は涙を流す理由が自分でもとても分かりやすいです。つまり自分の感情や立場をヒロインに投影したり、昔の自分の記憶と照らし合わせたりしてグッと来るわけです。そういう物語は構造がとても分かりやすくて、お約束事を観客と共有しながら進んでいくことができます。ただ、世の中にはだからこそ冷めてしまう瞬間があることも、もちろん皆、知っている。

本当に芸術で感動する瞬間、それを僕らは「分からないけど感動していること」だと定義しています。「さっぱり分からない。けど良かった」という、得体の知れない興奮みたいなものや理解不能だけどとにかくすごいものを見てしまったという感覚。そこまで到達しないと前衛である意味がない。言葉にできない理由で感動することは人生においてよくあることだと思います。「なぜだか泣いちゃった」「なんかすごくテンション上がった」とか。「分からない」という状態にまず皆で突入して、その後に突き抜けて「意味は分からないけど、なぜか感動する」という図式をとにかく目指したいと思っています。

ーー昨年は前衛的音楽家の代表とも言える坂本龍一さんとコラボレーションをしていますね。

坂本さんと実際にセッションをしたのは1曲だけですが、レコードを作らせてもらいました。自分たちだけの曲と、坂本さんとセッションした曲と、坂本さんが僕らの曲をリミックスした曲という3曲で『ZURERU』というタイトルのコラボレーション盤です。そのレコード作りのやり取りの中で坂本さんから一番勉強をさせてもらったのは、「空間現代はもっと海外に行かなきゃダメだ」「空間現代のような音楽を欧米の人は厳しい目で見ることができる」と言ってもらったことなんですね。

確かに日本で我々のように何かに当てはめられない音楽をやると、ある種のイロモノとして距離を置かれることもある。これは、こちらとしてはかえって楽というか、開き直れてしまう状況でもある。けれど海外ツアーに行くと、正面から堂々と向き合ってくれるからこその、厳しい視線を向けられるので、精度を上げなければと思う。

海外のライブではお約束事をちょっとでもずらした瞬間に歓声が上がる。逆に言うと、そのセオリーというものをものすごく熟知している。ちょっとした些細(ささい)な仕掛けでそのセオリーをずらした時、欧米の人は拍手とか歓声とか、態度で反応してくれる。反応速度がとても早い。反対に、変なことをしたら歓声は上がらない。だから真の評価が演奏者にも分かりやすい形で届く。そういう意味で、坂本さんは「厳しい目にさらされなきゃいけない」と言ってくれたのかなと解釈しています。

ーー初めてのメルボルンでのライブは、どんなライブになりそうですか。

根本的には「訳が分からないけど感動する」というところを目指します。ただ、メルボルンでやるのは『オルガン』という1時間で1つの作品という枠組みで作った長編楽曲です。演劇も参考にしていて、照明との絡みやライブ全体の流れをすごく意識して作りました。我々も普通のライブとは全然性質が違う『オルガン』という長編作品をいつか海外で演奏したいと思っていたので、お客さんからどういう反応が出てくるのかとても楽しみにしています。

 メルボルン・デビューとなる空間現代のライブ。この記事で興味を持った読者も、ネット上の動画などの予備知識なしでライブに行くことをお勧めしたい。「一体何が起こっているのか分からない」と混乱し、「次に何が起こるのか」という緊張感に身を委ねるーー。それが空間現代の正しい楽しみ方と思うからだ。変わったことに目がないメルボルンのライブ好きと共に「分からない感動」をぜひ共有して頂きたい。

■空間現代メルボルン・ライブ(主催:国際交流基金)
日時:10月16日(水)~18日(金)8PM~
会場:The Substation(1 Market St., Newport VIC)
料金:$39
Web: www.festival.melbourne/2019/events/kukangendai

■空間現代アデレード公演
日時:10月24日(木)~25日(金)7PM~
会場:Lucky Dumpling Market, Riverbank Lawns
料金:入場無料
Web: www.ozasiafestival.com.au/events/kukangendai/

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