映画『真実』公開記念、是枝裕和監督 インタビュー

ⓒPalace Films©
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映画『真実』公開記念インタビュー
是枝裕和監督

昨年、『万引き家族』がカンヌ国際映画祭の最高賞にあたるパルムドールに輝いた是枝裕和監督。待望の新作は、フランスの大物女優であるカトリーヌ・ドヌーヴとジュリエット・ビノシュを主演に迎え、全編フランスでの撮影を行った『真実』だ。この度、同作のオーストラリア・プレミア上映に参加するため来豪した是枝監督に、同作の意図や製作背景などについて伺った。(インタビュー・文=石神恵美子)

是枝裕和(これえだひろかず)◎1962年6月6日、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、番組制作会社・テレビマンユニオンに入社。1995年に映画監督デビューを果たした『幻の光』がベネチア国際映画祭で金のオゼッラ賞を受賞。2004年の『誰も知らない』で、主演の柳楽優弥がカンヌ国際映画祭最優秀男優賞を受賞し、話題を呼ぶ。『そして父になる』(2013)が第66回カンヌ国際映画祭審査員賞を始め、国内外で多数の賞を受賞。『万引き家族』(2018)では第71回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞するという快挙を成し遂げた。

――ドヌーヴさん、ビノシュさんと一緒に仕事をしてみていかがでしたか。

© Palace Films / Jim Lee
© Palace Films / Jim Lee

2人とも、とにかく映画が大好きで、演じることに真摯です。そして、お互いがお互いをリスペクトしているので、そういう意味ではやりやすい現場でした。後は、2人に長いインタビューを何度もさせていただきました。弁護士の映画を作る時に、弁護士に取材するのは当たり前のことで、今回は女優が主人公なので、女優という生き物についての取材をしました。それを直接的に脚本に反映させるというよりは、子ども時代に初めて演じた時のことや、2人とも娘さんが女優だったり、女優になろうとしていたりで、そういった娘さんとの関係など、いろいろな話を聞きながら、日本の母娘とどのくらい違うのか、あるいは同じなのか、それを探る作業をやらせてもらいましたね。それが良かったと思っています。

――お2人から、本作をご覧になっての感想はありましたか。

ドヌーヴさんは最初に1人で観て、鑑賞後すぐにメールをプロデューサーに送ってくださいました。「この作品は、監督が最初に考えていたよりも遠くへ届くものになっていると伝えてください」と、とてもうれしい感想を頂きました。ビノシュさんとは、まだちゃんと話せていないのですが、(ワールド・プレミア上映となった)ベネチア映画祭で一緒に観た時に「1度目より、2度目の方がずっと良かったわ。最初はやっぱり自分のお芝居ばかりを観てしまうから」と言っていました。そのベネチアでの上映後、ドヌーヴさんとビノシュさんの2人がすごく満足そうに会場を後にして、車を待つ間、2人でたばこを吸い始めたのですが、「とても良い上映だったわ」とお互いに笑顔で称え合っていたので、その光景を見て良い上映だったんだなと感じました。

――今回、全編フランスでの撮影を行ってみて、意外にも大変だったことはそれほどなく、挙げるとすれば1日あたりの撮影時間の短さとおっしゃっていましたね。

ちゃんと休むことが大事だなというのは思いました。1日8時間だけの撮影で、夕食前には撮影が終わるので、スタッフはみんな家に帰って家族とご飯を食べることができます。なので、シングル・マザーも現場で働ける。撮影が終わってから子どもを迎えに行くというのは、日本の環境ではまず不可能です。日本の場合は、子どもが生まれたら完全に現場から離れる人がほとんどになってしまうので、そういうところは日本も変えなきゃいけないのではないかと思いました。ただ、良くも悪くも、日本の場合は、クランクイン前にみんなで神社へ行ってお祓いをしたり、その後は文化祭が1カ月続くみたいな、非日常感があるんです。今回はそういうのが全くなく、フランスではとにかく日常の地続きで映画を作ったり観たりするので、それが良いところでもあるし、僕としてはちょっと物足りないところでもあるかもしれませんね。

――フランス人はぶつかり合うのが好きだなと感じたので、それを脚本に反映させたと伺いましたが、そんな現場を仕切るのは大変でしたか?

普段から結構、正面衝突しますよね(笑)。それは仲の良い友人同士でもそうだし、現場でも私はこう思うっていうのをぶつけ合って、でもそれってフランス人だけではないですよね? 日本人がそれをしないだけの話だと思います。日本人の僕からすると、そこまで言い合ったら、明日気まずくなるじゃんって思ったりしますけど、翌日には何事もなかったかのようにハグして撮影がスタートしたりするので、なんだこれは、って最初は戸惑いましたけど、そういうものなんだと慣れていきましたね。なので、何か特別に大きな衝突があったわけではないですよ。逆に、自分自身を振り返りました。自分も含めて、異常なくらいのぶつからなさは日本人が特殊なんだなと思って、そこには良さと悪さの両面がありますよね。

――登場人物たちの過去の記憶、こうであったら良かったのになという想像、そして言動から相手の思いを汲み取ろうとする意識が、映像を通して伝わる構造になっているのがすばらしかったです。この脚本を執筆する上で意識していたことは何でしょうか。

基本的には回想を使わないようにしています。なので、シャルロット(娘)とピエールが仲良く話しているのが、リュミール(母)とピエールにも見えたり、今見ているものと、その先に別のものが常に見えてくるという構造にしています。そこに、母娘を題材にした劇中劇も重ねているので、劇中劇でのある瞬間がリュミールの子ども時代にも見えたり、イメージが3層くらいにわたって連想され、最後にはそれらがすっと重なっていくのを意識しました。

――観客も常に一緒に考えていかざるを得ない構造ですよね。

そうです、映画を観ながら一緒に2層3層と重ねられているものを考えていく作業をしてもらいたかったんです。なので、ところどころにヒントがあります。例えば、「ピエール!」とシャルロットが呼ぶ声を聞いて、目を覚ましたファビエンヌが、それをリュミールの声だと錯覚するシーンがあります。それが一番分かりやすい例で、そういった入口を作っておいて、難しいことはその先でやるというような、階段を作っていく感覚です。表面的な錯覚のレベルと、後は劇中劇を反転させたり、いろいろやりながら、リュミールの記憶にも見えればファビエンヌの記憶にも見えるということをやっていくわけです。

――映画をコンスタントに発表されていますが、常にアイデアが沸くのでしょうか。

逆に言うと、デビューしてから最初の10年は3年に1本ぐらいしか作れなかったので、ストックがたまっちゃって、それを消化するのに大変なんですよ。それで、この5年で5本の映画を撮って、今ちょうど区切りが付いた感じです。このまま突き進んで60歳になるよりは、意識的にエンジンを切ってみようかなと思って、次を決めずに過ごしています。映画を作りたくないわけではないんですが、今はそういう時期。いろんなことに興味があるんです。その中で残らないものもあるし、繰り返し考えていくものもあるし、それがなんとなく自分の中で積み重なっていき、水をやってみると芽が出てくるものと、出てこないものがあって。それで芽が出てきたものを育てていく感じですね。

――色々な案を温めておいて、タイミングが来たなと思ったら映画化するわけですね。

そのタイミングを自分で決められなかったりするわけです。でも、逆にそこが面白いところだったりもします。自分で全部決められるわけではなく、むしろそのことによって自分のコントロールと違う方向に進むこともありますから。制約の中に自由があると言いますか、例えば、仏像の造り方に一木造というものがあります。仏像を作るために木を集めるのではなく、今手元にある木で仏像を作るとしたら、このこぶを生かして、この木目をこういう風に見せたいというように、その木が元々求めている形を見つけ出していく作業を、僕の場合は撮影現場でやっているんだと思います。もちろんアイデアは既に書いてありますが、この空間において、このスタッフとこのキャストでどう作るか、どういうシーンをこの空間とこの人たちが求めているかを現場で察知していきます。なので、脚本もキャストの声を聞いて、書き直したりします。

――今回、オーストラリアでのプレミア上映はいかがでしたか。初めての来豪でしょうか?

観客のリアクションは良かったですね、笑ってくれますし。オーストラリアに来るのは恐らく2度目だと思うんですけど、でもほぼ初めてみたいなものです。街を歩いていて驚くのが、アジア人が多いことですね。こんなに多民族国家なんだって驚いています。後は、ジャカランダの花が良いですね、撮りたいです。不思議な色ですし、日本ではなかなか見ない色。ラベンダーとも、藤とも違うし、でも桜のようでもあり、さるすべりのようでもあり、印象に残りますね。ジャカランダを巡る話はできそうな気がします(笑)。

――この映画を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。

「何が家族を家族たらしめるのか?」「真実か嘘か?」「残酷な真実とやさしい嘘をどう選ぶのか?」――この映画を制作している間、ずっと自問してきた質問です。本作をご覧になった皆さんに、これらの問いに対する自分なりの答えを見出していただけたらと思っています。

© R.Kawauchi
© R.Kawauchi

ー映画『真実』は12月26日(木)豪州公開ー

<『真実』あらすじ>
フランスの大女優・ファビエンヌが自伝本『真実』を出版。それを祝福するため、アメリカで脚本家として活躍する娘のリュミールが、彼女の夫と娘と一緒にフランスへやってくる。再会の喜びもつかの間、自伝本につづられた“嘘”とつづられなかった“真実”が、母と娘のやりとりを通して次第に明らかになっていく。

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