日豪間のさざ波いつまで…

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日豪間のさざ波いつまで…

クジラで日豪シンポジウム

文=青木公

これといった国際摩擦のない日本とオーストラリアだが、クジラの調査捕鯨をめぐる文化ギャップは深い。6月初め東京・八王子で開催された恒例の第31回日豪シンポジウムのテーマは、「クジラと日豪関係のさざ波」だった。6月24日、国際捕鯨委員会(IWC)総会は、決議を見送り、さざ波は続く。

反捕鯨派の豪・ラッド首相は2010年5月末、国際司法裁判所(オランダ・ハーグ)に、日本は調査捕鯨を止めよと提訴した。動物愛護に熱心なオーストラリア社会にある反捕鯨感情をやわらげるためとみられる。IWCでは、反対は49カ国、賛成国は39カ国だ。

シンポジウム基調報告者の1人、オーストラリア学の第一人者、関根政美・慶応大教授は、「渋谷の街角で女子大生にオーストラリアのイメージを聞いたら、コアラ、カンガルー、オペラ・ハウス、サンゴ礁で、クジラは出なかった」と、オーストラリアのメディア上だけの騒ぎではないかと指摘した。

また、オーストラリア人で日本語達者のヒュー・クラーク早大客員教授(言語学)は、「若いころ日本留学中、パチンコの景品でクジラ缶詰をもらって食べたが、おいしくなかった。伊豆半島でちょっとイルカも食べた。まあ蓼(たで)食う虫で、好き好きでしょう」「豪北端のケープヨークでは地元民がジュゴンを食べていた』と述べ、和歌山・太地町で、イルカ漁を隠し撮りしたアメリカ映画『ザ・コーブ(入江)』も一地域での地元食習慣ではないか、と解説した。

シンポジウムでは6つの分科会があり、参加者160人のうち20人ほどが『クジラ問題を考える』という分科会に参加した。講師は、国際捕鯨委員会(IWC)の交渉で最前線に立ってきた小松正之さん(56)。約2時間、ミスター・クジラは、その信念を語りかけた。

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分科会「くじら問題を考える」で小松正之・政策研究大学院教授(写真提供=シンポ事務局)

感情論には科学データで反論

小松さんは、日本の水産庁課長として、1991年から2004年までIWC日本代表団の一員で、タフ・ネゴシエーター(手ごわい交渉者)として知られた。今は政策研究大学院で海洋環境の教授だ。

南極海で日本政府系の漁業団体がクジラを捕るのは、「調査捕鯨」に限られ、オーストラリアなど反捕鯨国によって、自由に捕る商業捕鯨は禁じられている。

先述のヒュー教授は、歴史的に見ると豪日の最初の出会いは、1831年3月31日、シドニー登録の捕鯨船レディ・ロウエナ号の船員が補給を求めて北海道に上陸。その後も、ホバートの捕鯨船が厚岸(あっけし)で座礁している−−など白人の捕鯨国例を挙げた。米ペリー提督も捕鯨船への水や薪の補給を求め、日本開国を迫ったのが黒船騒動。

捕鯨先進国が、いまや日本非難の側にある。米国の反捕鯨団体シー・シェパード(SS)は、毎シーズン日本調査船団と激突。欧米メディアは、反捕鯨の立場を取っている。SSのニュージーランド乗組員は、傷害罪で日本の法廷に立っている。「黙っていちゃ負ける。クジラ資源は、むしろ増えている。科学的なデータで、商業捕鯨の再開へ」というのが、ミスター・クジラ、小松氏の持論だ。

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南極海で日本の調査捕鯨船の活動を体当たりで妨害するシー・シェパード船舶(写真提供=日本鯨類研究所)

調査捕鯨は、科学的なデータ、性別、年齢、集団の分布を調べるためで、販売目的ではない。商業捕鯨を再開するために国際条約で認められている権利で、調査捕鯨で捕った鯨肉を売るのも認められている。

日本の消費者は、実のところ、そこまで細かくは知らない。関西地方を中心に市販されている鯨肉は、必ずしも美味しくない。在庫が4,000トンもある。小松さんによれば、マグロのように船内で急速冷凍すれば、細胞膜が破れ、旨み成分が流れ出、血がにじみうまくない鯨肉はなくなる。完ぺきな処理をすれば、スシネタにもなる、という。また日本は肉だけではなく、食料油など総合的に活用している。

ホエール・ウォッチングは好き

ひと括りにクジラ、というが、小松講師によると、クジラ観光、つまりホエール・ウォッチングのスターは、ザトウクジラで最も頭数が多い。巨体だ。ミンククジラは小型で減っていない。シロナガスは極めて少ない。ザトウ、ナガスの頭数は近年、増加傾向にあり、全体で見ると4%増えているという。

IWCの議長提案では、南極海では事実上、捕鯨中止。日本近海など北太平洋も大幅減。アイスランドやノルウェーも30〜50%減となる。日本としては調査捕鯨も立ち行かなくなる。今年のIWC総会で決着が先送りされたのも、双方の歩み寄りができなかったためだ。

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基調講演をしたヒュー・クラーク・シドニー大名誉教授/早大客員教授(著者撮影)

オーストラリアによる国際司法裁判所への提訴で、日本は苦しい立場にあるが、アメリカ、ニュージーランドは消極的だ。オーストラリアはノルウェー、アイスランドを訴えてはいない。また、北半球の調査捕鯨も訴えていない。

南極へ執着強いオーストラリア

なぜ南極海の日本調査捕鯨だけを訴えているのか。

オーストラリアは身近な南極に、自国権益を守る上で執着する。氷の下にある南極大陸で、オーストラリアは領有権を主張している。日本は、南極大陸は国際的な共有物として科学調査はしているが、領有権を求めていない。資源大国オーストラリアは、南極大陸の地下資源への権益を確保したいのだろう。

海洋国日本と、大陸国オーストラリアの摩擦の焦点が、食料資源クジラに象徴されている。

漁民は、どこの海へも出かけて行く。日豪の出会い、北海道の厚岸の海では、捕鯨船も住民も、豪捕鯨船への補給で儲けたかもしれない。お互いさま、といかないものか。

 

■お断り
6月号掲載の「USA再訪�」の続編は8月号に掲載します。


筆者紹介・青木公(あおき・ひろし)朝日新聞社友。日豪プレス創刊時に朝日新聞シドニー支局長。定年後、東南アジア、中南米、アフリカ大陸などの途上国を毎年、訪問・取材。現在、国際協力機構(JICA)サポーター。著書に『ODA最前線』『中高年、はつらつと海を渡る』『ブラジル大豆攻防史』ほか。海外日系紙に寄稿

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