【インタビュー】現代美術家・宮島達男さん、MCAで特別展開催中

観る者を圧倒するスケールの「Mega Death」(1999)
観る者を圧倒するスケールの「Mega Death」(1999)

日本人現代アーティスト宮島達男展「Connect with Everything」が、シドニーのオーストラリア現代美術館(MCA)で3月5日まで開催中だ。LEDライトやデジタル・カウンターを使った彫刻やインスタレーション作品で東洋的な死生観などを表現することで知られ、同展ではそのキャリアの中から特徴的な作品が展示されている。9から1までの数字の循環や光の点滅、そして闇を通して彼が語りかけるものとは。南半球初の単独展となる今回の展示の見どころなどを宮島さんご本人に伺った。(インタビュー・構成=関和マリエ)

東洋思想を軸にオリジナルな表現を

――仏教概念「輪廻転生」を表現した作品を多く発表されていますが、ご自身と仏教思想との関わり、そして宮島さんにとって仏教思想とはどのような存在かをお聞かせください。

私は昔、病気がちな子どもだったんです。二度ほど大きな病気をして入院した際、同じ病室の子どもが同じ病気で亡くなったこともあり、それが大きなショックで「死」というものを本当に身近に感じていました。そのため退院した時に自分が生きている時間をできるだけ大切にしたいと強く思い、哲学的なことを考えたり本をたくさん読むようになったことが、現在のアーティストとしての「生と死」という考え方に影響しています。

また23歳の頃、アーティストになりたくてもなかなか自分に自信がなかったり、非常に迷っていた時期がありました。その時に仏教の話を聞き、自信を持てるというか、自分の中にある可能性を信じるという観点から信仰するようになり、今に至ります。


――宮島さんの創作活動は3つのキー・コンセプトである「それは、変化し続ける」「それは、あらゆるものと関係を結ぶ」「それは、永遠に続く」をテーマにされています。これらを掲げ活動するに至った経緯とは。

アート・スクールに入りアーティストを目指して積極的に展覧会をやったりしていた頃、なかなか評価されず、「本当にオリジナルな表現をしないといけない」と痛切に感じていました。自分のオリジナリティーを表現するために、まずコンセプトをきちんと設け、それに基づいて作品を作ろうと考えたんです。そこで3つのコンセプトを掲げてそれを表現する作品を発表したのが1987年でした。

世界的なアーティストとして

――当時の日本のアート・シーンはどのようなものでしたか。

80年代の日本ですから結構バブルな雰囲気があり、割とにぎやかでファッショナブルでしたね。例えばアーティストがディスコに壁画を描いたり、アートを取り巻く環境も華やかだった印象があります。有名なゴッホの絵画「ひまわり」が日本に買われたりしたのもこの時代です。今とは全然違っていましたが、ただ若いアーティストにとってはあまりそれは関係なく、作品を発表する場所が無いなどそれなりに苦しい感じはありました。

――その頃から、日本だけではなく世界を舞台とする活動を意識されていたのでしょうか。

コンテンポラリー・アートを好み理解してくれる人というのは、世界の美術ファンの10パーセントもいないくらいだと思っています。日本の人口約1億2,000万人のうち美術ファンが1,000万人として、そのうちコンテンポラリー・アートのファンは数パーセントでしょうから、数十万人ということになります。その中で勝負するより、世界へ出て行けばもう少し受け入れてくれる人がいることになるので、最初から世界を目指すことになります。その上で、オリジナルなテーマと表現を獲得できれば世界で勝負ができるのだと思います。

――現在、宮島さんの作品は日本だけでなく世界で受け入れられ高い評価を得ていますが、その理由をご自身ではどのようにお考えになりますか。

アートを鑑賞する時、人は「見た目」から入ります。作品のバックグラウンド云々というよりまず表現言語としてインパクトがあるか、そして美しさという点を導入とした上で、バックグラウンドに哲学的なコンセプトがあればより良いわけですよね。僕が世界で受け入れられているとしたら、それはまず作品のインパクトとビジュアルの美しさによるのではないかと思います。そこを入口として、そのバックグラウンドに東洋的な哲学が横たわっているということで評価を受けているのではないかなと。もしアート作品に見た目のインパクトも美しさも無かったら、誰も振り向いてくれないと思います。

「Pile Up Life」(2009)は有機物のような存在感
「Pile Up Life」(2009)は有機物のような存在感
照射された光の中に数字が浮かぶ「Floating Time」(2000)
照射された光の中に数字が浮かぶ「Floating Time」(2000)

コンセプチュアル・アートと美しさ

――実際の制作はどのような手順で進めていくのでしょうか。

作品を構想する際はまずコンセプトを立てるところから始まり、どんな素材やモチーフを使うか考え、美しさやインパクトといった美意識を加味していきます。基本的には、自分が表現したいコンセプトがそれで十全に表現されるかどうかが最終ジャッジですね。

今回の展示作品の1つ「Time Train to the Holocaust」(2008)は、第2次世界大戦中にユダヤ人が列車でヨーロッパ中から集められアウシュビッツの強制収容所へ送られたというホロコーストの歴史がテーマです。元々、ドイツの炭鉱から石炭を運ぶためにヨーロッパ中に張り巡らされた線路が、戦時中は逆にドイツやポーランドへヨーロッパ中のユダヤ人を運ぶために使われたんです。そういった事実に対する批評・批判を表現したくて本物の石炭とおもちゃの列車にデジタル・カウンターを組み合わせた作品にしました。重いテーマですが、最初に可愛らしいおもちゃの列車が走っているところから入ってもらい、よく見るとちょっと不気味な感じ、という風になっています。

――今回展示中の「Mega Death」(1999)も宮島さんの代表作の1つといわれ、広い部屋の中で9~1までの無数の青白い数字が点滅しては消え、それが繰り返されるという作品です。実際にその中に立つと、人間個人だけでなく、社会や文明、戦争などといったものもまた繰り返すという比喩にも感じられました。

アートは「鑑賞者がそれを見てどう考えたか」が重要ですので、どの解釈が正解ということはなく、全て正しい見方だと思います。見た人がたくさんのことを考えてくれるということが一番重要で、アーティストとして非常にうれしいことですね。

――どの作品でもデジタル・カウンターで9~1の数字が使われていますが、ゼロは使用されないのですね。

それは重要なポイントです。ゼロは暗闇で表しており、9~1までのカウントを「生きている時間」、暗闇を「死の時間」として表現しています。それが繰り返されていくことが仏教的な生命観で、1つひとつのガジェットは生も死も合わせ持つ「生命」そのものであるということを表現しています。

数字が鏡に反射し合う「Diamond in You」(2010)
数字が鏡に反射し合う「Diamond in You」(2010)
カラフルな数字が点滅し続ける「Life (rhizome)」(2012)
カラフルな数字が点滅し続ける「Life (rhizome)」(2012)

日本で、そして世界で

――今後取り組みたい作品や興味をお持ちのテーマなどを伺えますか。

現在取り組んでいる一番大きなものとして、2011年の東日本大震災と津波で被災された方々の鎮魂をテーマにした「Sea of Time in Tohoku」という作品があります。被災地の1つである宮城県石巻市の海沿いに大型プールを造り、そこに数字のカウンター・ガジェットを沈めて光らせるというもの。そのカウンターのタイム設定を被災された地域の方々にしてもらい、家族への思いや知人への鎮魂などの意味を込めた大きな作品にしたいと考えています。

死は1回限りではなく繰り返されていく、また生きている間の生き方によって次の生が決定していく、というのが東洋的な考え方です。その思想は、死が終わりでその後には何も無いという死生観ではなく、今生きているこの時間を大切にしてほしいという願いが込められているものですので、そういった考えを東洋だけでなくこれからは世界中の人びととシェアできたらうれしいなと思っています。

――今回の展覧会は宮島さんにとって南半球では初めての単独展ですね。以前にもオーストラリアを訪れたことはありますか。オーストラリアのアートの印象についてもお聞かせください。

過去にシドニー・ビエンナーレなどのグループ展で3回ほど来ており、今回は長く滞在しましたが、オーストラリアは治安も良く居心地も良いですね。食べ物もおいしいですし、牡蠣は1年中食べられるし大好きです。

アートについてはなかなか難しいですが、まだオーストラリアからアーティストが目立って出てきている印象はあまり無いので、そういう意味ではアート的にはこれからますます発展する国かなと感じます。

――2018年のシドニー・ビエンナーレはキュレーターの片岡真実さんが総合ディレクターに就任するなど、アジア人の活躍も話題になっています。今後、アーティストが世界で作品を発表していくためにどんなことが重要と思われますか。

オリジナリティーがあるか、そしてメッセージを携えているか、この2点だと思います。言いたいことがないと表現そのものができないのでメッセージは重要ですし、自分の表現としてのオリジナリティーが無いと通用しないですね。

――最後に、今回MCAで初めて宮島さんの作品を観る方に向けてメッセージをお願いします。

現代アートは最初はとっつきにくいものですが、実際に観ればとても自由で、どんな風に解釈して頂いても良いので、想像を膨らませることができます。どうか、何か1つでも自分が気になったもの、好きになったものを見付けてもらい、なぜそれが好きなのか考えてみてください。きっと、ご自身の中の知らない自分を発見できるかもしれません。ぜひ足を運んでみてください。(2016年11月2日、MCAで)

シドニー・インターナショナル・アート・シリーズ
宮島達男展「コネクト・ウィズ・エブリシング」

■会場:Museum of Contemporary Art Australia(MCA/140 George St., The Rocks)
■日時:開催中~3月5日(日)10AM~5PM(木曜のみ9PMまで)
■料金:大人$22、コンセッション$17、12~18歳$12、家族(大人2人+子ども3人)$56、11歳以下・MCAメンバー無料(全て発券手数料別途)
■Tel: (02)9245-2400
■Web: www.mca.com.au/exhibition/tatsuo-miyajima


宮島達男Profile
♦1957年東京生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科絵画専攻修了。1980年代半ばより、発光ダイオード(LED)を用いて1~9までの数字を使ったデジタル・カウンターの作品を世界30カ国250カ所以上で発表。ロンドンのテート・ギャラリー、ミュンヘン州立近代美術館、東京都現代美術館などに作品が所蔵されている他、六本木ヒルズ内のテレビ朝日外壁やベネッセ・アートサイト直島、東京オペラシティ、リウム美術館(韓国・ソウル)などパブリック・アート作品も多数。

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