オニアジサシ最年長記録

第57回
オニアジサシ最年長記録

秋も本番となり気温がぐんと下がり、動物たちがあまり活発に動き回らなくなると、保護され「Currumbin Wildlife Hospital」で治療を受ける野生動物の数も減ってきます。それにもかかわらず、病院の水鳥専用プールには、ペリカン2羽、黒鳥2羽、ヘラサギ2羽、カルガモ1羽、そしてミズナギドリ4羽がリハビリのため共生しています。異なる種の動物を同じケージや小屋に入れることはめったにありませんが、水鳥だけはいろいろな種の鳥を同じプールに入れ、食欲や鳥同士の諍(いさか)いなどに注意して、できるだけストレスが掛からないようにします。

水鳥が保護される一番の理由が、釣り針や釣り糸によるけがであることは何度もお伝えしてきました。今年2月にブリスベン南東の砂浜で保護されたオニアジサシ(Caspian Tern)も、釣り針が足に刺さった状態で発見されました。痩せ細り、脱水症状も見られ、足のけがからの感染症も心配されましたが、初めの数日を集中治療室で過ごした後に屋外の水鳥専用プールに移したところ、他の鳥と一緒に積極的に餌を食べるようになり、体力もみるみる回復していきました。

赤いクチバシのオニアジサシとヘラサギ
赤いクチバシのオニアジサシとヘラサギ

無事に野生に返すことができ、ひと月程経ったころ、オーストラリア野鳥コウモリ標識調査(Australian Bird and Bat Banding Scheme)という組織から連絡がありました。この鳥の足には金属の輪が付けられていたため、個体識別番号の照会を依頼していたのです。

報告によると、1989年にまだヒナだったこの鳥にVIC州の海岸で鳥類研究のために個体標識となる金属の輪が付けられたとのこと。つまり、この鳥は29歳で、約1,400キロメートルを旅してきたことになります。

アジサシ亜科の野鳥の平均寿命は15年前後と言われています。29歳という年齢は今までオーストラリアで報告されていたオニアジサシの最年長記録である26歳を3年上回る新記録です。この鳥がヒナだったころは、コンピュータが普及し始めたころですから、研究資料も紙に手書きで残された物が主であったため、照会にも時間が掛かったのです。

個体識別の金属の輪を付けた鳥が保護された場合は、必ず調査機関に報告をしています。毎回、その鳥がいつどこで発見されてどれくらいの距離を旅してきたのかを知るのが楽しみです。


床次史江(とこなみ ふみえ)
クイーンズランド大学獣医学部卒業。カランビン・ワイルドライフ病院で年間7,000以上の野生動物の診察、治療に携わっているほか、アニマル・ウェルフェア・リーグで小動物獣医として勤務。

新着記事

新着記事をもっと見る

NICHIGO CHANNEL

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る