【WH日記】世界で戦える酒米作りを目指して – 田尻倫生さん


世界で戦える酒米作りを目指して

第46回 今回登場のワーホリ・メーカーは?


田尻倫生さん


1986年生まれ・兵庫県出身
高校卒業後、調理師として地元・兵庫県で12年間勤務。その傍ら、家業の酒米「山田錦」の栽培に興味を持ち、農家へ転職することを決意。その後、海外での日本酒を取り巻く状況を研究するため2016年に来豪。現在は、家業を継ぎ酒米農家として活動する。


兵庫県加東市、酒米(酒造好適米)の代表と言われる「山田錦」の日本有数の生産地で酒米農家として活動する田尻倫生さん。家業として代々続く酒米の栽培に、現在体当たりで挑戦する日々を送る田尻さんだが、そのキャリアは高校卒業後、農家ではなく調理師としてスタートした。

12年間という長い期間にわたりそのキャリアは続いたが、「理不尽なことも多かった」と語る当時の田尻さんの目は、その中で次第に酒米の栽培をする自らの父親へと移っていったという。

「酒米の栽培をする父の姿を見ていると、その仕事に対する興味が自然と湧いてきました。そして、この先自分が携わる仕事として良いのではないかと考え、父の仕事の手伝いだけでなく、取り引きをしている酒蔵の方にお会いするなどして、酒米農家の仕事を理解していきました」

酒米農家の仕事への理解を着実に深め、農家に転職しようとする田尻さんの意思を、ある時、身近な人のひと言が決定的なものにした。

「実家は『特別栽培米』と呼ばれる有機栽培の山田錦を作っているのですが、代々取り引きさせて頂いている酒蔵さんがある時、父の作る酒米に『こだわって日本酒を造りたいから、これからもそのお米を作り続けて欲しい』と仰ったんです。それまで、農家の仕事はただ農作物を作るだけだと思っていましたが、作る物やその作り方によっては生産者の姿勢が高く評価されると知り、そこに農家の仕事の面白味を感じました」

一方で、酒米作りに携わり始めた当時に感じた思いを、田尻さんはこう振り返る。

「酒米作りを手伝う中で、日本は閉鎖的だと心のどこかで感じていました。『日本酒が世界でブームだ』と言われていますが、酒米農家を含め、日本酒の生産者はどうしても日本の国内市場を優先し、海外にはなかなか目を向けないというのが実感でした」

海外で日本酒はどのように飲まれているのか――。この答えを知ることで酒米栽培の仕事に就いた時、自らの仕事への向き合い方や感性は変わる、そう考えた田尻さんは、農業国であり日本酒とは切り離せない日本食が流行していると聞いたオーストラリアにワーキング・ホリデー制度を利用し渡ることを決意した。

海外で感じた日本の農業の可能性

海外での日本酒の消費動向を知る、自らに大きなテーマを課した田尻さんは、シドニーの日本食レストランでの仕事を通じその状況を研究するだけでなく、現地で日本酒の販売活動をする人に会いに行くなど精力的に活動したという。そして、その中で感じた発見は「来なければ分からないものだった」と納得の表情を見せる。

「例えば、路面店で日本食が売られているのを見ると、日本食がオーストラリアの社会で深く浸透していることが分かりました。それと併せて、飲食店では日本酒が“確実に”消費されていることが見て取れました」

「確実に」、その言葉の意味を田尻さんは自らの実感と共に力強く続けた。

「日本酒は飲まれていますが、その消費の伸びしろはまだまだあるはずなんです。日本酒がよりオーストラリアで受け入れられるために日本の生産者がするべきことは残されています。例を挙げると、「日本酒=和食」という固定化されたイメージを崩す、ピザやパスタなどの料理とのマッチングの提案や、飲みやすいカクテルにして日本酒を飲んでもらう方法など、日本酒へのとっかかりをより簡単なものにしてあげることも今後必要かもしれません」

そして、日本酒の原料を生産する立場からも、日本酒の持つ大きな可能性を感じ取っている。

「オーストラリアの人は、日本人以上にオーガニックの物に意識が高く、お金を使いますよね。実家が作る有機栽培の酒米も、海外という市場が評価してくれる可能性は大きいはずです。それを踏まえると今後、有機栽培の酒米を使った日本酒は特に海外の市場で勝機があると感じています」

1年間のシドニーでの生活で、海外における日本酒を取り巻く可能性と課題、それらを身をもって感じ取った田尻さんは、海外市場という限りない可能性を見据えるだけだなく、日本の農業の復興さえも自らのビジョンとして捉えている。

「酒米農家としてより海外で受け入れられる日本酒造りに取り組むことで、海外での日本酒の販路が今まで以上に広がり、日本の農業自体も活性化していくと思います。そう考えないと、やっぱり楽しくないですよね。日本の農業は、やり方次第ではまだまだ世界の中で戦っていけると思います」

酒米作りを通し、日本を変え世界と勝負する、そう思い描く1人の男の壮大な挑戦が今始まろうとしている。

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