豪州危険生物ファイル【番外編】ヒアリ

新・豪リークス

現在TBSのシドニー通信員を務める筆者が、オーストラリアの“ホット”な話題を独自の視点で分析する。あっと驚く“裏情報”や“暴露(リーク)情報”も!?

第18回「豪州危険生物ファイル【番外編】ヒアリ」

刺されると死に至ることもある猛毒を持つ“ヒアリ”が、今年日本で確認された。既に16年以上前から国内でヒアリが見つかっているオーストラリアでは、多額の費用を掛けた“ヒアリ根絶プログラム”が行われている。

◇“ヒアリ出現”で列島揺れる

8月17日、日本の環境省は、特定外来生物で強い毒を持つ南米原産のヒアリが、海のない内陸部の埼玉県内で初めて見つかったと発表した。今年5月、神戸港で、中国から貨物船で運ばれたコンテナの中から見つかって以来、大阪や東京、愛知、福岡などで相次いでヒアリが発見され、7月14日には横浜港のアスファルトの割れ目から700匹以上のヒアリが確認されるなどした。日本の新聞やテレビは、連日これを大きく報道、少し前にオーストラリア原産の毒グモ「セアカゴケグモ」が全国各地で見つかったこともあり、一時、少々過熱気味の“ヒアリ騒動”となった。

ヒアリは、体長約2~6ミリと小さく、全体は赤茶色で腹部が黒みがかっている。性格は攻撃的で雑食。樹液や花蜜の他、昆虫やトカゲなども食べ、時には小型哺乳動物なども集団で襲うこともあるという。主に獲物の捕獲、巣の防衛などに使うヒアリの毒液は、アルカリに似た化合物という意味のアルカロイド系で、スズメバチの毒に似た激しい毒性を持つ。ヒアリの尻の先にある毒針で人間が刺されると、激しい痛みを感じ、幹部は水泡状に腫れ、“アナフィラキシー・ショック”と呼ばれる毒に対するアレルギー反応による頭痛、めまい、吐き気の他、呼吸困難や意識不明に陥ることもあり、最悪の場合死に至る。

通常ヒアリは、公園や農耕地など少し開けた屋外に土で巣(蟻塚)を作るが、油や甘い蜜などを好むため、家の中のテレビなど電化製品の裏や電気コンセントの周りで見つかることもある。また、巣が大雨などで流されても、蟻がつながって筏状(いかだ)になって水の上を浮いたり、ブリッジ状になり水や障害物で届かない餌にありつくという驚くべき“サバイバル・スキル”も持っている。

◇アメリカでは死亡例も

アメリカでは、ハチやヒアリなどによるアナフィラキシー・ショックで、毎年で少なくとも90~100人が死亡しているという報告がある。

2013年9月、テキサス州の中学校に通う13歳のキャメロン・エスピノサ君が、学校近くのスポーツ・グラウンドでアメフトの試合中、「アリだ!アリだ!」と叫んだ後にその場で倒れた。駆けつけたコーチが、キャメロン君の足に群がっていたアリをペットボトルの水で洗い流したが、強いアレルギー反応を起こしたキャメロン君は意識を失い、病院に緊急搬送された。脳が腫れ上がり、数日間昏睡状態に陥った後、残念ながら亡くなってしまったキャメロン君の主治医は「彼を刺したのはおそらく“ヒアリ”だろう」と、現地メディアの取材に答えている。

また、現地メディアの報道によれば、16年にもアラバマ州で2人の女性がヒアリに刺され、その後アナフィラキシー・ショックで死亡したという。

一方、日本の環境省は、それまでウェブサイトに記載していた「海外での死亡例」が、専門家の指摘により確認できなかったとして、7月18日に該当部分を突然削除している。

◇豪“ヒアリ特捜部”出動!

今年7月中旬、冬とはいえ日中は半袖でも過ごせるクイーンズランド州ブリスベン市内中心部から南西約30キロのある公共施設で「ヒアリが見つかった!」との連絡を受け、筆者は現地に向かった。

ブリスベン近郊の縁石の上にできたヒアリの巣(今年7月14日、筆者撮影)
ブリスベン近郊の縁石の上にできたヒアリの巣(今年7月14日、筆者撮影)
体長2~6ミリになるヒアリの拡大写真(提供:QLD州政府)
体長2~6ミリになるヒアリの拡大写真(提供:QLD州政府)
豪州ではこれまで約300億円を掛けてヒアリ対策を行った(写真はQLD州政府発行のパンフレット)
豪州ではこれまで約300億円を掛けてヒアリ対策を行った(写真はQLD州政府発行のパンフレット)

ヒアリの巣は、敷地内の私道の縁石の上に、長さ約50センチ・高さ約10センチの蟻塚状にできていた。筆者と同行したヒアリの専門家でオーストラリアの「ヒアリ根絶プログラム」を指揮するロス・ワイリー博士が、持っていた棒で巣を突くと、おびただしい数のヒアリが湧き出てきた。「これは、昨日施設職員の通報で見つかったものです。ヒアリの巣の特徴は、出入り口となる穴が見えないこと。ヒアリは、冬に日当たりの良い縁石などの上に蟻塚を作ることが多いのです」とワイリー博士は、白い口ひげを撫でながら柔らかい語り口で教えてくれた。

オーストラリアでヒアリは、01年にブリスベンの港で初めて見つかった後、最大都市シドニー近郊の港でも確認された。これを重く見た州政府などが、これまでに3億4,600万豪ドル(約300億円)の予算を掛けた“ヒアリ対策”を行い、いまだ根絶には至らないものの、現在クイーンズランド州南東部の限られた地域の中だけでヒアリの繁殖拡大を食い止めている。

その甲斐あってか、今のところオーストラリア国内では、人がヒアリに刺されて死亡する例や家畜や農作物への甚大な被害などは報告されていない。

ワイリー博士率いるクイーンズランド州の“ヒアリ特捜部”には、毎日のように住民から「ヒアリの巣があるようだが……」といった連絡が入るが、その度に職員が直接現場に出向いて確認作業を行い、適切にヒアリを駆除している。「もしその巣がヒアリのものなら、まず女王アリを不妊にさせる薬物を混入させた餌を巣の周りに撒き、コロニーを死滅させます。直接人的被害を及ぼすような緊急の場合に限り、巣に毒を注入して駆除するようにしています」(ワイリー博士)

この他にもクイーンズランド州の「ヒアリ根絶プログラム」では、温度センサー付きカメラを搭載したヘリコプターで、空からヒアリの巣を探したり、その卓越した嗅覚で草むらに隠れたヒアリの居場所を突き止める探知犬も使う。

また、ヒアリ危険地域に指定されている地域の学校では、定期的に子どもや親たちを集めたセミナーや住民への注意喚起を継続的に行っている。ヒアリの巣発見の7割は、地域住民からの報告によるものだという。

◇落ち着いた行動と徹底した対策

一方、隣国ニュージーランドでもオーストラリアと同じ01年に最大都市オークランドの空港近くで、ヒアリが見つかった。しかしその後、同国の農務省が迅速にコロニーを駆除し、ヒアリ定着のリスクが高い地域を絞った徹底的な調査を行った結果、数年後には「ヒアリ根絶」を宣言することができた。

先述のワイリー博士は、ヒアリ騒動で揺れる日本に向けて「①ヒアリの生息数を過少評価するべきではない、②一般への注意の喚起を積極的に行い、ヒアリに対する正しい知識や危険性への意識を高める、③駆除方法はオーストラリアやアメリカで行っているような方法を取るのが望ましい」と3つのアドバイスをくれた。

アメリカでは、人的被害だけでなく農作物のへの被害など、ヒアリにより年間日本円にして約5,000億円の経済的損失が発生していると言われ、日本もオーストラリアのように惜しまぬ予算を掛けた徹底的な対策をする必要があるかもしれない。


PROFILE
飯島浩樹(いいじま・ひろき)
日本の民放キー局でニュース番組のディレクターなどを経て来豪。ウーロンゴン大学院でジャーナリズム修士号を取得後、TBSのシドニー五輪支局現地代表となる。
現在、TBSのシドニー通信員として多くのニュース・リポートを日本に送っている。2017年8月より、FCAオーストラリア・南太平洋海外特派員協会会長を務める。

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