【シアター通信】オーストラリア・バレエ団『シルヴィア』

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バレエからオペラやミュージカルまで、オーストラリアで上演された話題のパフォーミング・アートをご紹介。

オーストラリア・バレエ団『シルヴィア』

取材・文=岸夕夏 写真:Jeff Busby

シルヴィアと羊飼いのデュエット(TAB 2019 Sylvia, Ako Kondo & Kevin Jackson)
シルヴィアと羊飼いのデュエット(TAB 2019 Sylvia, Ako Kondo & Kevin Jackson)

あらすじ

3人の主要人物

■アルテミス:オリュンポスの狩猟の女神。最高神ゼウスとレトの娘でアポロンは双子の姉弟。オリオンと深い友情で結ばれている。
■シルヴィア:半神。アルテミスの狩猟軍の戦士。魔法をかけられ羊飼いに恋をする。
■プシュケ:人間。愛の女神アフロディーテの息子。エロスに愛される。

第1幕

戦闘で勝利してもアポロンだけを褒めるゼウスにアルテミスは面白くない。アルテミスを慰めるオリオン。アルテミスとオリオンの仲を快く思わないアポロンは、謀を巡らしてアルテミスに矢を放たせ、その矢に当たったオリオンは落命する。
 愛の女神アフロディーテは人間の娘プシュケの美しさに立腹し、息子エロスにプシュケを殺すように命じる。仮面をつけ人間に変装したエロスとプシュケは互いに恋に落ちて結婚するが、仮面の下の顔を見ないという約束を破ったプシュケからエロスは立ち去る。
 エロスに「最初に見た者に恋をする」という魔法をかけられたシルヴィアは、鎧よろいを置いて、最初に見た羊飼いと旅立とうとするが、河の神アルペイオスとその手下に捕らえられ、シルヴィアだけが拉致される。

第2幕

羊飼いがアルペイオスの隠れ家に持って来た鎧と剣でシルヴィアは闘いに勝ち、アルペイオスは水の中に溶けて逃げ出す。
 エロスを取り戻しに冥界に行ったプシュケは開けないと約束した箱を開け、毒を吸って落命。これを知ったエロスはシルヴィアに頼みアルテミスに助けを請う。羊飼いと一緒に自分の軍から抜け出したシルヴィアを許すことができないアルテミスに、エロスは自身が魔法をかけたことを話し、羊飼いの命乞いをする。シルヴィアは魔法を解かれても羊飼いを愛していることに気づき、アルテミスの許しを得て羊飼いの元に戻る。

第3幕

ゼウスはエロスとプシュケの結婚を祝い、プシュケを半神にする。シルヴィアと羊飼いには子どもが生まれ、家族が増え、羊飼いは老いていく。シルヴィアの腕の中で息を引き取ろうとする羊飼いに、エロスは羊飼いを半神に昇格させる贈り物をする。また、娘の苦しみを察したゼウスは、アルテミスとオリオンを天空で永遠に結ばせる。

ウェルチが描く美しくも強いヒロインたち


第1幕よりアルテミス軍の女性戦士の群舞(TAB 2019 Sylvia, Artists of The Australian Ballet)

ヒューストン・バレエとの共同制作で、ギリシャ神話を基にした物語バレエ『シルヴィア』が、メルボルンでオーストラリア初演公演の幕開けをした。レオ・ドリーブ(1836~1891)作曲のバレエ組曲『シルヴィア』を聴いたチャイコフスキーは「この楽曲を先に聴いていたら、『白鳥の湖』を作曲しなかった」と書き記したとされている。バレエ『シルヴィア』は1876年にパリ・オペラ座バレエで世界初演された。

オーストラリア・バレエ団の新作『シルヴィア』はヒューストン・バレエの芸術監督スタントン・ウェルチの振付けで、タイトル・ロールのシルヴィアの他にアルテミスとプシュケを加えた。通常、物語バレエのヒロインは美しく繊細、悪者の犠牲者であったりするが、ウェルチの描いた3人のスーパー・ヒロインは強く戦う女たちだ。アルテミスとシルヴィアは弓と矢を持ち、鎧をつけて戦う。美しい乙女のプシュケも目的のためには冥界の女王に会いに行くことすら厭(いと)わない。勝手気ままで気荒い神々の棲(す)む天界と人間界を鮮やかに対比させ絡ませながら、3人のヒロインと彼女らの想い人の3カップルの恋物語が、ユーモラスに高速で展開される。

相反した3様の個性が音楽と響き合う

第2幕より箱を開けたプシュケ(TAB 2019 Sylvia, Benedicte Bemet & Artists of The Australian Ballet)
第2幕より箱を開けたプシュケ(TAB 2019 Sylvia, Benedicte Bemet & Artists of The Australian Ballet)

管楽器のファンファーレにティンパニーが響き渡る煌(きら)びやかなレオ・ドリーブの音楽に包まれて、黒のロング・ブーツ、光沢のある深い藍鉄色の鎧とヘルメットを装着し、弓と矢を手にした女性戦士だけの群舞が登場する第1幕の冒頭シーン。彼女らを率いるアルテミスの凛々(りり)しさ。矢を射る姿も様(さま)になり、強い印象で観客を惹きつける。

大きな愛くるしい瞳をしたプシュケ役のベネディクト・べメイのダンスとマイムからは、抑えきれない好奇心がいきいきと溢れんばかりに表出。ピンクのロング・ドレスのドレープが揺れるたびに見える脚のラインが表情豊かで、端正なピルエットは客席を沸かせた。

オーストラリア初演公演のタイトル・ロールを踊ったのは、プリンシパルの近藤亜香(あこ)だった。近藤は、慈愛に満ちた眼差しと難技巧をもたやすく見せてしまう確かな技術で、魔法による恋心、真実の愛の喜び、愛する人の死を見送るなど移り変わる場面と心情を、心の綾(あや)を映し出した演舞で物語を紡ぐ。

幻想的な舞台美術から一転して、第3幕は理想郷を想わせるのどかな田園風景。豊かな自然に囲まれた人間界の中で営まれる生命の誕生と避けることのできない死を、ウェルチは観客をほろりとさせながらもユーモラスな振付けの妙で包み込み、劇場は笑いに満ちた。

第3幕よりアルテミスとオリオンのデュエット(TAB 2019 Sylvia, Robyn Hendricks & Adam Bull)
第3幕よりアルテミスとオリオンのデュエット(TAB 2019 Sylvia, Robyn Hendricks & Adam Bull)
第1幕よりエロスとプシュケのデュエット(TAB 2019 Sylvia, Marcus Morelli & Benedicte Bemet)
第1幕よりエロスとプシュケのデュエット(TAB 2019 Sylvia, Marcus Morelli & Benedicte Bemet)

最終場面では照明とプロジェクションを使い、劇場全体を宇宙空間のように見立てる。抑制してきた恋心を開放したアルテミスとオリオンのデュエットは、星々が煌めく中で硬質な輝きを放ち、胸打つ物語の終幕となった。『シルヴィア』は11月8日から23日までシドニー・オペラハウスで上演される。
(鑑賞:2019年8月31日 / メルボルン・ステート・シアター)

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