【インタビュー】注目のピアニスト小菅優さん、2月に初来豪公演

ピアニスト小菅優さん、初の豪州公演

9歳でオーケストラと共演を果たし、その後もドイツ、アメリカ、日本など世界各国でのコンサートで成功を収めるなど、世界が注目する日本人ピアニスト、小菅優さん。抜群のテクニックと美しい音色、強い集中力と熱い情感が持ち味の小菅さんに、オーストラリア初公演となるシドニー(2月21日)、そしてキャンベラ(2月24日)、メルボルン(2月27日)でのリサイタルを前に、幼少時からの音楽との関わりやピアノ演奏を通して表現したいことなどをお話し頂いた。
(インタビュー=倉田佳弥子、文・構成=関和マリエ)

シドニー公演(2月21日)のチケットを、1組2名様にプレゼント! 応募は下記より。
Web: http://nichigopress.jp/campaign/
締切:2月15日(水)

 

「1つひとつの音を、自分の言葉として弾く」

9歳で初めてドイツで演奏

――小菅さんのお母様がピアノの先生ということで、生まれた頃から音楽が身近にあったそうですね。ピアノを始めたきっかけやプロとして活動されるようになった経緯をお聞かせください。

小さい頃、積み木などのおもちゃで遊ぶように、ピアノもその中の1つという感じでした。また家にLPがたくさんあって、LPプレーヤーをいじるのが好きだったのと、オーケストラの曲、特に物語がある曲のストーリーを母に読んでもらいながら音楽を聴くのがすごく好きだったんです。最初バイオリンに興味があったのですが、家にあったのはピアノだったこともあって、2歳くらいから母の膝に乗って弾き始めました。それからすぐ母ではない先生に付き始め、4歳の時に東京音楽大学付属音楽教室に入り、ピアノのみでなくソルフェージュなどの勉強を深めました。

9歳の時に日本とドイツの交流コンサートがケルンで開かれ、演奏者として参加しました。その時にドイツの音楽関係の人たちや同世代の音楽家と一緒にコンサートに行ったりしたのがきっかけで、たくさんの方と知り合いました。現地で友達もできて楽しかったですし、先生のことも気に入って私はまたすぐドイツに行きたいと思っていたんです。ただ親としてはすごく大変だったようで、1年間は家族で話し合い、最終的に私がドイツに行くことが一番良いのでは、となって、私はまだ小さかったので母も一緒に1993年からドイツに行くことになりました。

プロの演奏家としての活動は本当に少しずつ増えていったのですが、12歳の時に初めてCDを録音しました。コンサートは、先生を介するなどして、またCDを聴いてくださった方が出演者として呼んでくださったりして、少しずつ機会が増えていきました。

――小菅さんの場合、コンクールではなくコンサートで知名度が上がっていったようにお見受けします。これは音楽家として珍しいことかと思いますがいかがですか。

人それぞれに違うキャリアの積み方があると思うのですが、私の場合は大人になってからコンクールを1つも経験していないので、本当に録音とコンサートを重ね続けています。

――録音やコンサートなどでは、いつもどのような心境でピアノを演奏されていますか。

演奏に臨む気持ちは毎回違うのですが、私にとって一番大事なことは音楽に集中していることです。その上で音楽の表すメッセージなどを考える時もあれば、曲によって色や絵が浮かんでくる時なども。曲そのもののメッセージをお客さんに伝えたいなと思っています。自分の気持ちが入っていないといけないので、曲を愛していないといけませんし、本当に1つひとつの音が自分の言葉だと思って弾いています。

――ピアノはご自身の考えや感情を表すものということでしょうか。

自分の表現の場ですね。どの国にも共通の言葉がありますが、言葉で伝えられないことを音楽で伝えられることもあります。作曲家が楽譜に書いたものがとても大事だと思っていますので、それに忠実にメッセージを伝えるというか。独りよがりで勝手に解釈して弾くのではなく、また楽譜に書いてある音をただ弾くだけでもなく、裏にあるメッセージというか、作曲者が何を伝えたいのかということを楽譜だけではなくて本を読んだり背景を調べたりして理解しようとしてから、「自分はこう思う」という解釈を表現したいです。とても難しいことですが、私にとって、作曲者のメッセージを追求することはとても楽しいことなので。やはり好きなものはとことん追求していきたいです。

ベートーベンをめぐる音楽活動

――作曲者のメッセージを追求し表現する上で、小菅さんにとって特に思い入れのある作曲家は誰ですか。

ベートーベンのソナタ集のCD制作がちょうど昨年終わったところなので、特にベートーベンに今、気持ちを傾けています。最近『ベートーベン詣(もうで)』というプロジェクトを立ち上げたところで、これはベートーベンのソロ作品に限らず室内楽や歌曲も含め全てのピアノ付きの作品を徐々に演奏していくというものです。数えきれないほどの曲があり、それを通して新しい作品の委嘱や、ベートーベンの曲に合う後世や同世代の曲を合わせることによってたくさんのすばらしい作品を紹介していこうと思っています。尊敬する共演者と一緒に音楽を作ったり、演奏していくということもあり、とても楽しんでいます。

――ベートーベンのお墓を訪ねたこともあるそうですね。それもプロジェクトの一環だったのでしょうか。

その時はちょうどそのソナタを録音し終わったタイミングだったので、ベートーベンを詣でる、ありがとうの気持ちを伝える、という感じでした。普段は17~18世紀の作曲家を身近に感じるのはなかなか難しいことですよね、まるで想像の世界のようで。ウィーンに行った時にお墓にお参りしたのですが、やはりお墓などを訪ねたことで「この人は生きていたんだ」という気持ちになり、ベートーベンをより身近に感じるようになりました。ちなみにモーツアルトやシューベルトなどのお墓も、ウィーンの同じ墓地の一画にあるんです。

――小菅さんは、ベートーベンは古典派とロマン派、どちらとお考えになりますか。

1つの枠に固定できない要素がどの作曲家にもあると思うのですが、ベートーベンは非常に大きな変化を遂げた人なので、その成長の中では後期の作品の中で古典的なものが見えたり、初期作品の中にすごく斬新なものが出てきたりもします。そう考えるとベートーベンを古典派と言い切ってしまうことはできないと思います。後期の作品では形式もどんどん崩していたりロマンティックな要素もありながら、それでいてバッハの影響もあったりしますね。

――他に、小菅さんが影響を受けた人物や目標とする音楽家がいらっしゃれば教えてください。

いろいろな人がいますが、ピアニストではクラウディオ・アラウやアルトゥール・シュナーベル。指揮者はカルロス・クライバーやフルトヴェングラーを尊敬しています。そして去年亡くなられたアーノンクールも演奏を聴いていて本当に勉強になります。

世界中で「曲の持つメッセージ」を伝える


――世界各国で演奏活動をされている小菅さんですが、海外で演奏する時と日本で演奏する時を比較して、観客の反応の違いなどはありますか。

最初に日本で演奏活動を始めた時はお客様の大人しさというか、例えば拍手をする時も周りを見てからというのが気になったのですが、最近は日本のお客様もどんどん変わってきています。

もちろんドイツは今でもすごくオープンというか、演奏が気に入らなかったら拍手をしないし、気に入ったら盛大に拍手をします。私自身もコンサートを聴きに行くことがとても好きで、オペラもよく観に行くのですが、常連のおばあさんがものすごく大きな声で「ブラボー!」と叫んでいますし、とにかくはっきりしているんですよ。

アメリカなどではすぐにスタンディング・オベーションが起きます。皆が立ち上がるのですが、ただその後静まるのも座るのも早いんです。どの国にも特徴がありますね。オーストラリアの皆さんはどんな風に楽しんでくださるのか、演奏するのがとても楽しみです。

――小菅さんは音楽を通してどんなことを伝えたいとお考えですか。

先ほどのお話とも少しつながるのですが、曲によってメッセージは違っています。ベートーベンを弾いていて特に思ったのは、後期の作品などは人間の人生を表していたり、輪廻(りんね)というものを感じるということ。それが音楽によって伝わってくるんですよね。ベートーベンに限らず曲によっては愛や平和を訴えていたり、曲そのものから感じることは聴衆の方それぞれで違うと思うんですよ。ただやはり曲の骨格というかメッセージを強調して皆さんに伝えることができればと思います。

特に世界では今、良くないこともたくさん起こっていますが、共感することや、一緒に考えるということを音楽によって発信していきたいです。ただきれいなだけではなく、世界の残酷さを表している曲やパートもありますから、そういうところも演奏者として全身全霊で残酷な要素を爆発させるしかない。100年、200年前に作られた作品を弾いているわけですが、考えていることや考えさせられることは現代にも通用すると感じますね。

――コンサートなどのためにお忙しい生活をされているかと思いますが、練習や生き抜きなど、どのようにバランスを取っておられますか。

映画が大好きなので、ドイツでも日本でも、友達とでも1人でも映画館によく行きます。古い映画が好きでこの間はヒッチコックの『めまい』が4K(編注:高解像度の映像)になったのでそれを友達と観に行きました。ドイツでもドイツ語作品だけでなく新しい映画を英語でやっている所もありますし、フランス映画なども上映されています。チケットも1,000円くらいなのでドイツの方が安いですね。

ピアノの練習は続けていると疲れてしまうこともありますし、テクニック的な練習はあまり楽しいことではなく我慢も必要なのですが、どう表現していくか音楽のことを考えるのは楽しいです。集中する時は休憩も入れながら何時間でも弾きますが、その後プールに行って泳いだり、住まいが森の近くなのでその中を歩いたりします。食べることや飲むことがすごく好きなので、公演後の音楽仲間とのパーティーも楽しいですね。お酒は強くないですが飲むのが好きなので、オーストラリアのワインも楽しみです。

――オーストラリアにはどんなイメージをお持ちですか。

自然が豊かでカンガルーやコアラがたくさんいるというイメージがあります。また、小さい頃の日本での最初の英語の先生がオーストラリア人でした。

――今回初めてとなるオーストラリア公演の「聴きどころ」を教えてください。

今回のプログラムには自分の好きな曲をたくさん並べました。前半には、先ほどお話したベートーべンのすばらしいソナタ「ワルトシュタイン」がメインで、私はこの作品から天地創造が想像できると思います。その前には、彼の尊敬するバッハのあまり弾かれていない変奏曲。叙情的なアリアの主題がとても美しく切なく変奏されます。後半は「水」が全体のテーマで、絵画的描写だけではなく、その奥深くの心理的な世界へいざなうような、想像力をかき立てるプログラムになっています。また、私の尊敬する日本の作曲家・武満徹の「雨の樹素描」や、10代のころから憧れているワーグナーのオペラ「トリスタンとイゾルデ」の最後の曲をピアノで弾けることはとても幸せです。このコンサートでお客様にいろいろなことを想像してもらえればうれしいです。私自身、初めてのオーストラリアなのでとてもわくわくしています。

小菅優ピアノ・リサイタル in オーストラリア 2017
※料金は各ウェブサイトを参照

【シドニー公演】
■会場:Verbrugghen Hall, Sydney Conservatorium of Music(1 Conservatorium Rd., Sydney)
■日時:2月21日(火)7PM~9PM(開場6:30)
■Email: sydneyrainbows@gmail.com
■Web: jcsrainbow.com/yukosuge(公演情報)、yukosuge.eventbrite.com.au(チケット購入)

【キャンベラ公演】
■会場:Llewellyn Hall(Building 100, William Herbert Pl., Canberra ACT)
■日時:2月24日(金)7PM
■Tel: (02)6125-5767(会場)
■Web: llewellynhall.anu.edu.au/whats-on(公演情報)、premier.ticketek.com.au/shows/show.aspx?sh=YUKOSUGE17&v=CSM(チケット購入)

【メルボルン公演】
■会場:Collins Street Baptist Church(174 CollinsSt., Melbourne VIC)
■日時:2月27日(月)6PM
■Tel: (03)9650-1180(会場)
■Web: www.melbourne.au.emb-japan.go.jp/jicc/event/whatson.html#20170227_piano


小菅優プロフィル
◎9歳でオーケストラと共演を果たし、ニューヨークのカーネギー・ホール、ザルツブルグ音楽祭、東京・サントリー・ホールなどでリサイタルを成功させる。最新アルバム「ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ集第5巻『極限』」を含む15枚のCDをソニーよりリリース。第13回新日鉄音楽賞、アメリカ・ワシントン賞、第8回ホテルオークラ音楽賞、第17回出光音楽賞、平成25年度文部科学大臣新人賞を受賞。

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