【特集】2017/2018連邦政府予算案

[特集]2017/18連邦政府予算案 Budget 2017-18
松本直樹
政局展望

来年度連邦予算案の特徴

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー 松本直樹

5月9日、2015年の9月に連邦首相の座に就いたターンブル率いる自由党・国民党保守連合政権が、同政権としては2回目、そして昨年7月の連邦選挙で再選されて以降では初の来年度連邦予算案を公表している。

17年連邦予算案の概要

ターンブル保守政府は今次予算案策定の原則として、「公平さ」(Fairness)、「保障」(Security)、「機会」(Opportunity)の3つを掲げている。一方、予算案の戦略目標/柱としては4つ、具体的には、①雇用の拡大や賃金の上昇をもたらす経済成長の実現、②国民が強く依存している基盤的サービスの充実や保障、③生活コスト圧力の緩和、④「身の丈に合った」あるいは「懐具合に応じた」国家運営の4つを挙げている。

そして予算案は、上記①のための施策としては、とりわけ運輸インフラストラクチャーの整備を、②については、緩慢な賃金/給与上昇ペースの中、保健・医療、身障者支援、住宅、教育、雇用政策の必要性を、③については、住宅問題、電気料金の高騰、託児所対策の重要性を、最後に④に関しては、財政再建努力の継続と「トリプルA」の格付け維持を宣言している。

以上の原理・原則、戦略目標を基に策定された今次予算案だが、幾つかの点から相当に異例、かつ過去の予算案とは異なったものとなっている。

予算案の特徴(選挙直後の「選挙直前予算案」)

連邦下院の任期は最大で3年であることから、通常は次回の下院選挙までに計3回の連邦予算案が公表される。3回の中では選挙後の初回予算案が、国民の反発する各種歳出の削減策や、あるいは増税策を盛り込んだ、かなり厳しいものとなるのが一般的である。

というのも、初回の予算案は時期的に次期選挙からは最も遠いことから、他の2回の予算案に比べると、政府としてもかなり安心して(注:国民の反発も選挙までには収まるとの期待)、必要不可欠な厳しい施策を採用することが出来るからだ。

ところが、今次予算案は昨年7月の選挙以降で初の予算案で、したがって3回の予算案サイクルの中では最も厳しいものであって然るべきにもかかわらず、選挙直前の予算案と見間違うほどに、有権者への「バラマキ」策や、有権者懐柔策を盛り込んだものとなっている。

典型例が、既に予算案の公表前に、保守政府が明らかにしたゴンスキー初等・中等教育改革政策であり、また、しばしば国民の反発を惹起する5大銀行への課税策、外国人労働者や多国籍企業への各種施策であり、更に、アボットの14年初回連邦予算案以降に継続して盛り込まれてきたものの、上院によって施行法案が否決され続けてきた、いわゆる「ゾンビ節減策」の追求を放棄したことなどであった。

選挙直後の予算案が、あたかも選挙直前予算案のようになった背景、理由だが、まず今期には通常の3回の予算案サイクルはなく、次期連邦選挙までに予算案が公表されるのは、来年の5月の1回だけになる公算が高いという点が指摘出来る。他方で、ターンブル政府は、とりわけ昨年7月の選挙以降、支持率、評価の低迷に喘いでいる。そのため政府としては、可及的速やかに評価を回復する必要があるが、それには一定の時間を要する。それが今回の「選挙直前」有権者懐柔予算案となった理由である。

言うまでもなく、来年5月公表の予算案も、文字通り選挙直前「バラマキ」予算案となることは確実である。

予算案の特徴(財政再建戦略の劇的転換)

今次予算案は国民受けする「バラマキ」、あるいは懐柔予算案となったが、もちろん、バラマキには莫大なコストが掛かる。ところが「ゾンビ節減策」に代表されるように、規模の大きな歳出の節減/削減は、多数の国民の反対をバックにした上院の強い抵抗により、現実的には無理と言える。

他方で、保守政府としては、いわんや経済通、ビジネス通を任ずるターンブルとしては、政党の経済運営能力の判断材料となる財政再建問題を無視するわけにはいかず、速やかに財政赤字を解消することが要請されている。

そういった状況の中で、ターンブルやモリソン財務大臣は、17年予算案の中で劇的な2つの戦略転換を断行している。それは、歳入サイドを重視した財政再建路線への転換と、経済成長実現の「ビークル」の転換である。

周知の通り、与野党リーダーシップへの好悪や評価と並び、与野党の経済運営能力に関する有権者の評価は、有権者の投票行動を決定する上での重要要因である。ただし、経済政策の詳細比較を通じた与野党の評価ではなく、有権者の経済への見方や印象、経済分野における与野党の能力に対する有権者の「漠然とした」印象が重要となる。そして、経済運営能力に関する与野党の「漠然とした」評価、イメージを決定する上で重要なのが、国民にとって解りやすい国家財政の状況である。

ところが労働党の場合は、連邦レベルで見ても、州レベルで見ても、財政赤字、莫大な政府/公的純債務残高を記録することが多い。こういった2大政党の財政面での「実績」によって、2大政党の経済運営能力に対する評価については、ほぼ恒常的に労働党が保守連合の後塵を拝している。

実際に、今後も保守政権下で財政赤字や政府の「大借金」状況が続くにもかかわらず、アボットやターンブルは同問題を前面に掲げてきたが、その理由は、労働党への攻撃材料には事欠かないからだ。言うまでもなく、ラッド/ギラード労働党政権の「負の実績」である。

そして「豪州の抱えるのは歳入問題ではなく歳出問題」、と執拗に繰り返してきた保守政府のこれまでの対野党攻撃スローガンが、「労働党は重税かつ大浪費政党」というものであった。これに対してショーテン野党労働党は、財政再建に関する議論でも、労働党前政府の「放漫経営」を否定し、また労働党が悲惨な財政状況、経済状況を残したことも認めていない。逆にショーテンは、豪州経済のファンダメンタルズは比較的良好であると述べつつ、その証拠として、豪州の低インフレ、低金利、かなりの低失業率、堅調な経済成長、そして、豪州が世界の3大格付け企業から「トリプルA」を獲得しているとの事実を挙げてきた。

またショーテンは、アボット保守政府の「緊急事態」宣言、すなわち、目下の連邦財政が危機的な状況下にあるとの主張も信じず、当然のことながら、国民各層に犠牲を強いる大幅な歳出削減策の必要性も認めてこなかった。しかも労働党は、財政赤字問題をあくまで歳入問題として捉え、歳出問題ではないと考えており、この点で与野党の見解は真っ向から対立していた。以上のように、財政再建の必要性については、野党よりも与党保守連合の方が熱心であったばかりか、これまでは財政再建の基本的手段に関しても、前者が歳入サイドを通じてとしていたのに対し、後者は歳出サイドを通じてと、明瞭な相違点が看取された。

ところが、今次17年予算案の中でターンブル政府は、「ゾンビ節減」策を放棄したばかりか、新たに大きな節減策を明らかにしたわけでもなく、それどころか、選挙対策のために各種政策分野で支出を増加させ、しかもその財源を新税や増税を通じた税収入の増加で手当てしようとしているのだ。

とりわけ重要なのは、メディケア・レビィー税(注:公的な国民皆保険制度メディケアの財源となる目的税)の増税策と銀行レビィーの導入策である。もちろん、自由党が増税策を採用することはあるものの、伝統的に税負担の低減、歳出の抑制、安価な政府を信条とする自由党が、しかも、これまでショーテン野党の「大きな政府」ぶりや浪費ぶりを執拗に攻撃してきた自由党が、相当規模の増税策を採用したのである。そのため驚きをもって受け止められた。

なお政府は、財政再建問題における歳入サイド重視への転換については、これらの新税、増税策を「上院税」と呼びつつ、政府が財政再建の最善の策である歳出削減から、歳入増加に舵を切ったのも、上院の抵抗によってそれを強いられたからであり、その意味で今次予算案の増税策は上院が課した税である、云々と弁明している。

いずれにせよ同シフトは、それが必ずしも積極的なものではなかったにせよ、自由党の伝統的、基本的政治哲学、信条に直接関わる重大な転換であった。

更に政府は、従来からの路線である、経済成長を通じた財政再建路線を併せて保持しつつも、その成長を実現する方策、「ビー__クル」に関し、重大な路線転換を行っている。具体的には、法人税減税策主導の経済成長から、生産性向上を通じた、しかも運輸インフラ投資による生産性の向上を通じた、経済成長路線への転換である。

保守政府はごく最近になって、連邦政府の債務、借金を、「良性の借金」(Good Debt)と「悪性の借金」(Bad Debt)に区別すると共に、前者を使った、すなわち、将来の生産性向上や経済成長、国民所得の増加に資する投資のための借金を使った、連邦政府主導の大型インフラ整備プロジェクトの重要性を盛んに強調している。

ここにきて唐突に、保守政府がインフラ整備の重要性を強調する理由だが、まず第一に、「経済成長と雇用成長を通じた財政再建」を中核スローガンとするターンブル政府が、昨年の5月に公表した16年連邦予算案以降、成長戦略の中核に据えてきた方策、すなわち、中・長期法人税減税策の行方が相当に不透明、との政府の判断がある。

第二に、ターンブル政府が法人税減税計画とともに、同じく経済成長路線の「ビークル」と位置付けてきた、生産性向上のためのイノベーション促進策が、期待していた政治的効果も、経済的効果も上げてこなかった、とのターンブルの認識がある。

予算案の特徴(労働党政策との同化)

就任以来2回目となる予算案を発表したスコット・モリソン連邦財務相
就任以来2回目となる予算案を発表したスコット・モリソン連邦財務相

以上のように、17年連邦予算案の何よりの特徴とは、有権者の懐柔、すなわち、ターンブル政府の「サバイバル」を最優先目標とした相当な「バラマキ」予算案で、他方で、財政再建には歳入サイドの施策を通じて対処するという、自由党らしからぬ「高支出、重税」予算案となっている点である。「高支出、重税」予算案とは、ショーテン野党労働党の「影の予算案」で、ショーテン労働政権が誕生した際に、実際に施行される計画の予算案に他ならない。

要するに、これまでも保守連合と野党の政策に類似点は観察されていたものの、過去4回の保守政府の予算案の中では、今次予算案が最も労働党に近いものとなっているのだ。しかもこれは、ターンブル政府による、意図的な労働党政策への接近によって実現したものである。

政府の動機、目的とは、労働党が得意と自負する、また国民からも得意と見なされている政策分野においては、労働党からの「差別化」ではなく、むしろ同党への「同化」を通じて、労働党の優勢さを「中和」することにある。政治の世界ではしばしば、「相手を倒すことが出来ないのなら、相手方に仲間入りしろ」との格言が取り上げられるが、今次予算案におけるターンブル保守政府の姿勢は、正にこの格言を体現したものと言えよう。

確かに、モリソン財務大臣が強調するように、結果を出すためには戦略的後退も必要で、このターンブル政府の姿勢を冷徹なプラグマティズムとして、ポジティブに評価する向きもあろう。しかしながら、今回の路線転換や労働党への同化の動きは、選挙上も重要なターンブルのリーダーシップ評価を一層毀損しかねない、相当に危険なものである。

というのも自由党穏健派、すなわち自由党内ではイデオロギー上「左」に位置するターンブルは、最近では連立先の国民党や党内右派に阿おもねるため、あるいは極右政党のワンネーション党を意識してか、さまざまな分野で従来のイメージからの「右旋回」を繰り返してきたからだ。それだけでも、ターンブルが変節したと嘆く人びともいるわけだが、今次予算案の諸政策は、一転して労働党内でも左派寄りの「大きな政府」を志向したものとなっている。

頻繁な変節もさることながら、ますますターンブルの拠って立つ政治哲学、信条が不明瞭となっているのだ。これはリーダーにとっては、極めて危険な評価である。

議会情勢と予算案の行方

上下両院の権限がほぼ同一となっている豪州では、あらゆる法案の成立のためには、両院で可決されることが要件となる。これは、最重要議案の予算案についても同様である。ところが、政権党にとって問題なのは、大選挙区比例代表制を採用する上院では、少数政党にも十分当選の機会が生じ、そのため下院を制した政党あるいは政党連合が、上院では過半数を制することが出来ない状況が頻繁に現出することだ。

実際に定数76の現行の上院政党勢力分布は、与党保守連合が29議席で、野党労働党は26、グリーンズ党9、「その他」が12となっている。「その他」12の内訳は、①ラムビー議員、②ゼノフォンを含む3人のニック・ゼノフォン・チーム、③自由民主党のレオンハイム、④豪州保守党のバナーディー、⑤ハンソン党首を含む極右政党ワンネーション党が4、⑥ヒンチ、そして⑦ギチューヒとなる。

上院で政府法案が可決されるためには、過半数の39票以上の支持を受ける必要があるが、野党労働党やグリーンズ党は政府法案に反対するケースが多い。そのため、上院で29議席を擁するに過ぎないターンブル保守連合政府としては、しばしば「その他」12議員の内、少なくとも10議員から支持を取り付けることが必要となる。

ただ、政府にとっては幸運なことに、全体的に「その他」議員の重心は保守系である。また、政府と頻繁に敵対するTAS州選出のラムビー女史を除いて、「その他」議員の大半は、当然のことながらさまざまな「見返り」は要求するものの、政府との法案交渉には前向き、積極的である。確かに、保守政府の上院運営は困難ではあるものの、実際には「12議員中の10議員の支持」という、極めて悲壮的な数字から受ける印象よりはましな状況と言えよう。

17年連邦予算案の行方だが、結論から言えば、今回を含めて合計4回の保守政権の予算案の中では、今次予算案が最も明るいものと言える。換言すれば、かなりの重要政策関連法案が、変更や修正の可能性はあるものの、成立するものと予想される。言うまでもなくその理由は、予算案関連政策の中に野党労働党の政策と類似したもの、というよりも、野党政策を「借用」したものもあり、したがって条件や修正は要求するにしても、野党が全面的に反対に回るのはかなり困難であるからだ(注:労働党が支持する限り政府法案の成立は保証されている)。



[特集]2017/18連邦政府予算案 Budget 2017-18
菊井隆正

2017/18年度 オーストラリア連邦予算案

EY パートナー/ジャパン・ビジネス・サービス
アジア太平洋地域統括
菊井隆正

2017年5月9日にターンブル政権発足から2回目となる連邦予算案がスコット・モリソン連邦財務相により発表された。今回の予算案は、歳出の伸びを抑えながらも、追加的な措置による歳入の増加を見込んだ慎重な予算案と言えるだろう。長期的なインフラ整備と成長戦略への投資のための財源確保を主眼に置き、14年当時に不評であった政策の多くを引き戻し、財政再建への道のりの中でよりフェアなやり方で「痛みと利得」のバランスを取ったものとなっている。

予算案の勝者は、小規模事業と新規インフラ・プロジェクトから創出される雇用の恩恵を受ける労働者と言えるだろう。また、政府は国有地の払い下げ、スーパーアニュエーション、外国人所有者及び投資家に対する制限等のルール変更により、住宅アフォーダビリティ(取得可能性)について改善策を講じた。
 予想外の増税予算案により、財務相は政府のAAA格付けの維持を目論んでいる。待ち望んだ財政改善は、主要銀行、外国人不動産投資家、そしてメディケア・レビーの料率アップによるオーストラリア居住納税者の負担増によりもたらされることになる。
 今回の予算案が21年度までの財政黒字達成に十分なものであるかはまだ不明である。予算における経済見通しは、賃金、投資、雇用そして経済活動が全て改善に向かうとの前提に基づいている。しかし、政府が期待する景気回復の兆しはまだ現実のものにはなっていない。

経済

今回の予算案は景気回復の兆しが見えつつあるという経済基調に下支えされたものとなっている。事実上、政府は景気サイクルの底から脱しつつあり、賃金、投資、雇用、そして経済活動は全て回復基調に向かうと見込んでいる。
 16/17年度GDP成長率は実質ベースで1.75%と大幅減が見込まれるものの、先行き見通しの18/19年度には3%に回復すると予想している。これは地政学的リスクやコモディティー価格の不安定要素がある中、GDP予測は家計消費、非資源投資及び輸出の改善を見込んだ結果である。CPI上昇率は現状1.0%の低水準から、記録的な低金利にも支えられ20/21年度までには2.5%まで回復すると予想している。賃金上昇率も20/21年度には3.75%まで大幅に改善し、税収増に大きく貢献することが見込まれている。

これは歳入予算?

予算案は幾つかの新税の導入を発表したものの、20/21年度の財政黒字達成は依然として個人所得税及び法人税の税収増に強く依存している。個人所得税及び法人税によりそれぞれ600億ドル及び270億ドルの税収増を見込んでいるが、これは見込まれる1,170億ドルの歳入増のうち、それぞれ51%及び23%を占めている。
 低迷する歳入により財政収支は長年バランスを欠いた状態となっており、これは多分に、低水準の経済活動及びそれを受けた個人所得税及び法人税の税収減によるものであった。今回、景気回復による歳入増が見込まれているが、構造的財政赤字の懸念も残っている。これに対応するため、政府はメディケア・レビーの料率アップと主要銀行に対する新税導入といった歳入の増加策を提案した。
 経済見通しによれば法人税は年率8.6%の増加が見込まれている。これは資源ブームの投資フェーズに導入された、一連の時限的減税策が終了することによる影響と見られている。(下記グラフご参照)


歳出は引き締め

予算案では引き続き歳出の引き締め策が取られている。経済成長や雇用を生み出す景気回復のための積極的投資に歳出を振り向ける一方で、国家の基本的サービスを継続するための歳入と歳出を管理することに注力している。
 保守主義の台頭にもかかわらず、「Gonski 2.0」(「ゴンスキー教育改革」の見直し)や凍結していたメディケア・レビーの段階的引き上げ策により、教育や医療分野には追加的な歳出が投じられることとなった。

インフラ業者が勝者

政府は主要なインフラ分野への歳出を強くコミットした。予算案では700億ドルにも上る経済活性化に注力したインフラ投資を発表した。


その多くは新規のプロジェクトではないものの、オーストラリア鉄道(ARTC)主導の内陸鉄道(84億ドル)や西シドニー空港(53億ドル)への多額な投資はプロジェクトを大きく推進するものとなるであろう。その他スノーウィー・ハイドロ・スキームの買収と拡張計画に対しても新たな投資予算が振り向けられる可能性もある。各州によって集められた資金は、各州の優先度の高いインフラ投資に振り向けられるべきであり、その意味でニュー・サウス・ウェールズ州やビクトリア州のインフラ案件により多くの投資が行われることとなる。

今後の新規インフラ案件の特定、開発及び新たな資金調達策等については、新たに設立され、首相・閣僚メンバーで構成されるインフラ・ストラクチャー・プロジェクト・ファイナンシング庁(Infrastructure and Project Financing Agency)において検討されるであろう。

税務改正の分析

今回の予算案のテーマである「公平」と「機会」は税制改正においても一貫している。幾つかの重要な優遇措置があるが、これらは特に初めての住宅購入者と小規模事業を対象としており、社会福祉への配分を目的とした増税と、税制度を引き締め、税漏れを解消するための措置によって均衡を保った状況となっている。

住宅取得促進に関わる施策

賃貸住宅について損金算入されている経費への対策として、17年7月1日より2つの保全措置が導入される。

賃貸住宅までの交通費
賃貸住宅の管理に関わる交通費は控除が認められない。独立した不動産管理業者の管理費は引き続き控除可能である。

器具備品の減価償却費控除への制限
器具や備品(一般的に不動産より取り外しできるもの)の減価償却費控除は投資者が実際に支出した経費に限定する。すなわち、不動産取得時に住宅に既に設置されている器具備品のコストは、通常不動産の取得価額に含まれるが、今後は不動産のキャピタル・ゲイン税(Capital Gains Tax:CGT)上の税務簿価の一部を成す。

ファースト・ホーム・バイヤーに対する年金の優遇制度(First Home Super Saver Scheme)

17年7月1日より、ファースト・ホーム・バイヤーは年間1万5,000ドル、合計3万ドル(上限枠)まで、頭金に充当する目的で任意にスーパーアニュエーションに拠出することが出来る。
 18年7月1日以降に頭金の支払いのため引き出される拠出金や運用益に対する税額に対しては、30%の税額控除がある。カップルの場合は2人とも同じ優遇措置を適用することが出来る。

住宅のダウンサイジングと年金拠出金枠の拡大

18年7月1日より、65歳を超える個人は10年以上所有した主要住宅の売却対価から、退職年金基金に最大30万ドルまでの税控除対象外拠出をすることが出来る。同拠出金は年金拠出の上限額規制に影響されず、またカップルの場合でも2人とも適用出来る。今後当法案の詳細や影響について綿密に考える必要がある。

外国資本による住宅不動産への投資は制限

一方、外国資本による住宅不動産の直接所有に対しては、以下の具体的な制限がある。

• 新規開発に対する外国資本の割合は50%に制限

• 源泉徴収税率の10%から12.5%への増加及び非課税限度額の200万ドルから75万ドルへの引き下げによる、非居住者向けキャピタル・ゲイン源泉徴収税額の拡大

• 非居住者向けMain Residence免除規定の廃止

これらの変更は、住宅価格の急落を生じることなく市場圧力を削減することを目的とした制度である。ただし、インセンティブと制限ルールの組み合わせが、外国資本による住宅不動産への投資を抑制しつつ広範な住宅取得への投資を促進するために適切なものであるかどうか疑問が残る。

大手銀行に対する新税法案

17年7月1日より1,000億ドル超の負債を持つ銀行が課税対象となる新税「6bps」の導入が発表された。オーストラリアの4大銀行およびマッコーリー・グループがこの対象となるものと考えられる。オーストラリアに支店を持つ外国銀行がこの対象となるかどうかについては明らかではない。
 今のところ、課税対象となる負債額には社債、コマーシャル・ペーパー、譲渡性預金などの負債及び自己資本のうち補完的項目(Tier2)が含まれているが、中核的自己資本のうち規制上のハイブリッド資本、普通預金やFinancial Claims Scheme(オーストラリア政府による預金保障制度で25万ドル未満の預金が対象)にて保護される預金額は含まれていない。課税対象となる負債額に、グループ全体の負債(海外事業の負債)が含まれるか、オーストラリア国内の負債のみが含まれるのか、または銀行業に関連する負債のみが含まれるのかという点については明らかでない。新税の適用が開始される17年7月1日に向けて詳細が近々公表されることが見込まれる。

規制当局の権限増大
 金融機関の幹部に対してAPRAへの登録が義務化される。APRAは役職の就任や幹部の管理上の問題などの監督を行う。
 銀行に対しては、業務履行における誠実性や合理的なスキル、善管注意、慎重な姿勢などにおいてこれまで以上に高い期待が持たれる。上限が2億ドルの新しい民事制裁制度が導入され、これらの期待を満たすことが出来ない場合に行使される。

メディケア・レビーの増税

19年7月1日より課税所得に課されるメディケア・レビーは2%から2.5%に引き上げられる。これは、国家障害者保険制度(National Disability Insurance Scheme:NDIS)に十分な財源を確保するためである。現行のメディケア・レビーの免除や低所得者向け減免措置は、インデックス調整も含め、引き続き適用される。
 重要点として、現行年間18万ドルを超える課税所得に課税される2%の時限的予算均衡税は17年6月30日付で終了となる。

その他の施策

国際税務における租税回避防止措置の拡大

多国籍企業による租税回避措置防止法(Multinational Anti-Avoidance Law:MAAL)への対策として、信託やパートナーシップを介在するストラクチャーを導入している事業主について、オーストラリア税務当局(Australian Taxation Office:ATO)が懸念を表明しており、一部遡及的な改正を加える見込みである。具体的には外国信託やパートナーシップを使ったストラクチャーに対してMAALが「2016年1月1日以降」適用される。
 今回の予算案ではMAALへの改正及び金融業における自己資本に関わる変更が国際税務における主な改正となるが、来月までに適用開始となる税務上の新規定が幾つか存在し、以下を含むこれらも多国籍企業の事業に重大な影響を与えることが考えられる。

• 迂回利益税(Diverted Profits Tax)の適用が17年7月1日以降開始する課税年度より開始

• 17年7月1日より年間総売上が10億ドルを超えるグローバル企業への罰則金の増加

• 一般目的財務諸表(General Purpose Financial Statements)の提出義務

これら以外の規定も検討されており、ハイブリッド・ミスマッチ規定については18年1月1日または裁可(Royal Assent)後6カ月のいずれか遅い日に導入されること、またOECDモデルによる多数国間協定を導入することが検討されている。

小規模事業税制

2万ドル未満資産の即時償却制度を18年6月30日まで延長

年間売上高1,000万ドル未満の小規模事業に対して適用される2万ドル未満資産の即時償却制度について、18年6月30日までに使用開始される、または使用可能な資産に対して、その適用を延長する。これにより、小規模事業が恩恵を受けるだけでなく、これら資産のサプライヤーにも利益をもたらすことが期待される。

小規模事業に対するCGT制度への保全措置

小規模事業に対するCGT優遇税制も改正され、優遇税制適用に際し、対象となる小規模事業資産の定義が変更される。
 17年7月1日よりこの優遇税制は、小規模事業で使用されている資産または小規模事業に対する持分についてのみ適用が可能となる。

間接税

住宅不動産の売買における物品サービス税(Goods and Services Tax:GST)の納税義務が消費者に移行する。
 18年7月1日以降、連邦政府は住宅の売買決済時に発生するGST納税の義務を売手から住宅の買手に移行させることを計画している。これは、ほとんどの不動産開発事業者が新しい住宅不動産の売買決済において正しくGSTを徴収し納税しているにもかかわらず検討されている。
 この規定により不動産開発者と不動産の購入者に新たな申告上の負担が生み出されることとなるが、これにより導入後の3年間に新たに6億6,000万ドルの税収が見込まれている。ただしこれについては以下の疑問が残る:

• GSTの納税主体は誰か?

• GST過払いが生じた場合、誰が還付を申請するか?

• GSTの算定にミスが生じた場合、不正確なアドバイスを受けた場合、納税金額に不足があった場合の取り扱いはどうなるか?

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