本田圭佑ダウン・アンダー戦記:第2回 本田の本気

本田圭佑ダウン・アンダー戦記

第2回 本田の本気

Photo: ⓒMelbourne Victory
Photo: ⓒMelbourne Victory

本田圭佑(32/メルボルン・ビクトリー)のAリーグ挑戦が始まって1カ月。わずか4試合で、自らの実力の証明ともなる2得点3アシストの活躍を見せた。もう1つの顔であるカンボジア代表の実質的監督としても動いた11月のインターナショナル・ブレイクは、本田自身にも未体験ゾーンに入る意味深い2週間となったことだろう。そんな本田の活躍を振り返る(文中敬称略)。
文:植松久隆(本紙特約記者/ライター)

開幕から早1カ月、いよいよ本田圭佑の豪州挑戦、そして前代未聞の「選手・監督」兼業の真価が試される時期がやってきた。

というのも、11月12日から約2週間はインターナショナル・ブレイク(筆者注:国際Aマッチを行うためにFIFAが設定する期間。リーグ戦の日程は基本行われない)。メルボルン・ビクトリー(以下、ビクトリー)の代表選手でないチームメイトは、練習は当然あるものの、次の試合まで2週間空くことで、ほっと一息を付ける。しかし、元日本代表選手ではあっても、本田には休んでいる暇はない。ビクトリーの選手であるのと同時にカンボジア代表の実質的な監督である彼は、この期間は監督モードに入って、東南アジア・サッカー選手権(スズキ・カップ)を戦うカンボジア代表を10日間帯同して指揮するのだ。

第4節の試合後、間を置かずに過酷な移動を経て、カンボジア代表チームに合流する様子が本田自身のインスタグラムで折に触れて上がっていた。その印象的な画像や動画は、本田のまさに「選手」から「監督」へのトランジットを追体験するようで興味深く見た。この2週間は、監督・本田圭佑として結果を求められるから気は休まらない。あえて強行軍に身を置くことで疲労もあるだろう。もしかすると、それが選手としてのパフォーマンスに影を落とすかもしれない。そのリスクを分かった上で、自分が選んだ道での挑戦だ。常に結果にこだわる男は、当然、監督としても結果を出すべく最善を尽くしているだけに、インスタグラムの画像に顕れる本田の表情は自信に満ちている。

本田無双は続くか

まずは、「監督」の前に「選手」としての本田、その連載初回で書ききれなかった開幕戦以降、第4節までの戦いをフォローすることにしよう。

本田の派手なデビュー弾も実らず開幕戦を落としたビクトリーは、シーズン2戦目でホームにパース・グローリーを迎えた。今季から名将トニー・ポポビッチを迎えて戦力補強も順調に進み、優勝候補の一角に擬せられるパースとの試合は、打ち合いの末、ビクトリーが試合終了直前の失点で2-3と敗れ、まさかの連敗スタート。

この試合でも本田は、2得点のいずれもアシストするなど、その存在感は開幕戦より更に増した。どちらの得点も先行されたのを粘り強く追い付く展開の中でだったが、迎えた最終盤、もう負けはないという意識が試合終了直前の失点を招いてしまったか。いずれにしても、不要な失点で貴重な勝ち点1を落とした。この試合で、ビクトリーの弱点が守備陣、特に不安定なセンター・バックにあることは誰の目にも明らかとなった。

今季初のアウェーでのゲームとなったのが第3節のニューキャッスル・ジェッツ戦。この試合では、課題とされた守備陣が、自軍の倍となる20本のシュートを浴びながらも踏ん張った。またも本田のアシストで好調のテリー・アントニスがゴールを決め、そのリードをしっかり守り切っての今季初勝利。Aリーグ屈指の攻撃力を誇るニューキャッスル攻撃陣を零封したことで、ビクトリー守備陣にもようやく光明が見えた。一週間のうちに、DF陣に目に見えた改善が見られたことは非常にポジティブだ。

急なシステム変更が奏功!?

そして迎えた第4節のセントラル・コースト・マリナーズ(CCM)戦を前に、ビクトリーに明るいニュースがもたらされた。開幕前に本田に次ぐ目玉として獲得するもけがでの調整遅れで欠場していた元スウェーデン代表FWオラ・トイヴォネンが、いよいよデビューを迎えるべく、メンバー入りして今季初めて出場可能となったのだ。

この試合に関して、特筆すべきはビクトリーのシステム変更。ここまで開幕3戦で、ケビン・マスカット監督が起用したのは中盤をダイヤモンド型にした4-4-2。その右サイドのポジションが本田の定位置だった。

しかし、この日は違った。先の試合で2トップの一角を占め、この日も先発予定だったジャイ・イングラムが試合直前のウォームアップで故障。代わりに出場したのが守備的MFを本業とするマルチロールのMFリー・ブロクサムだったことで、急遽、ビクトリーのフォーメーションが変更されたのだ。

キック・オフ後、ピッチに散った選手が引いた布陣は、4-3-2-1。ワン・トップのFWコスタ・バルバローシスの下にMFジェームズ・トロイージと本田が並び、中盤の真ん中アンカーにはキャプテンのMFカール・バレリ、左右に好調のMFテリー・アントニウスとブロクサム。急に変更されたこの新しいシステムが結果的に功を奏したのが、この試合だ。

「けがの功名」と「脱・本田」で勝点3

本田は、よりゴールに近い所でプレーができ、前半の早い時間から積極的に攻め上がる姿勢が見られた。ここ数戦でかなり強く意識していた守備、特にDFラインとの距離感なども、守備的なブロクサムとバレリが後ろに控えたことで、過度に意識せずともプレーできるようになった。

迎えた前半30分、より攻撃的なポジションでプレーしていたが故に訪れたビッグ・チャンス。相手DFの不用意なパスをカットすると、奪ったボールを前に運んでから左足で豪快にシュート。これが決まり、本田の通算2得点目のゴールでビクトリーが先制。

その後も攻めの手を緩めないビクトリーは、35分にはトロイージ、47分には18回パスをつないで最後はDFコーリー・ブラウンが決めて、3-0で折り返す。後半は、選手交代枠を有効に使いながら堅実に試合を運んだビクトリーが終了間際に、交代出場の期待のトイヴォネンが若手FWジョッシュ・ホープのゴールをお膳立て。地力に勝ったビクトリーが4-1とCCMを圧倒、勝ち点を6まで伸ばし、気持ち良くインターナショナル・ブレイクに入ることができた。

この日の試合の収穫は、“脱・本田”にある。もちろん、先制点を本田が取ったことは重々承知で、この日の出来も変わらず良かった。それでも、結果的に本田の先制点以降は、他の選手たちが直接的に本田に頼らずとも3得点した。また、試合前のアクシデントでの緊急対応としての新システムが、チーム全体の「けがの功名」とも言えるほど機能した結果の4得点。戦列復帰の選手や若手起用がハマったりと、マスカット監督の采配も冴えた。

とにもかくにも、本田に依存し過ぎずに勝ち切った意味は非常に大きい。この勝利、ただの勝ち点3にとどまらず、さまざまな収穫のあった意味のあるものとして記憶しておこう。この試合は、今後のビクトリーの歩みを見ていく上で、後々、ターニング・ポイントとなる試合だったと振り返ることになるかもしれない。

監督・本田圭佑

「選手」としてのシーズンの滑り出しを4戦2得点3アシストという文句なしの形で終え、いよいよ「監督」の本田が結果を示す時が来た。

11月20日、東アジアで大きな盛り上がりを見せるスズキ・カップの予選リーグの3戦目。カンボジアにとっては、何としても勝ちたい相手のラオスをホームに迎えての試合で3-1で勝利。

ラオス戦では、自らが実質的な監督として率いる新体制で6試合目、自らが帯同した試合では3試合目での記念すべき初勝利となったが、他国の結果と併せて予選リーグでの敗退が決まった。それゆえ、試合直後の本田の表情には勝利での一定の満足感は見えたが笑顔はなかった。

試合後には、「この勝利で選手を誇りに思うが、結果だけで満足はしたくない。過去2、3試合は良い試合をしながら勝てなかったこともあって、結果だけで一喜一憂はしたくない。引き続き、チームの改善と成長に関わっていきたい。試合後に選手にはこの勝利はあくまで過程であって、手ごわいベトナム戦に向けてしっかり備えようと伝えた」と語った。

直接、豪州の読者には関係のない東南アジアの公式戦の試合後の監督コメントを少し長めに引用したのには訳がある。これは、もう正真正銘の「監督」のコメントそのものだ。ミックス・ゾーンでインタビューに応えるその姿は、まさに「監督」のそれだった。しかも、それを全部英語で通訳なしで語っている。その英語力の成長ぶりにも驚かされた。前回まとまった彼の英語を聞いたのは、シーズン直前の記者会見だから、1カ月少々前のことだ。その時と比べると明らかに英語力が伸びており、何よりも堂々としているのだ。そこにあったのは、自信に満ちた「監督・本田圭佑」の姿そのものだった。

最後に懺悔(ざんげ)をしておきたい。正直、本田の今回の兼業の話題が上った時に、長年、Aリーグと豪州代表を主として豪州フットボール事象を追ってきた身としては、掛け持ちされることに複雑な気持ちを感じてしまったこともあり、彼の挑戦にわずかながら懐疑的な自分がいた。と同時に、Aリーグのレベルを知るが故に選手として活躍することに全く疑いはなかった。だからこそ、120%選手専業でもう遮二無二(しゃにむに)暴れて欲しかったのだ。

しかし、そんなちっぽけな考えは、もう捨てた。この男は、本気だ。「二足のわらじ」という使い古された比喩をあえて使えば、その二足のわらじのどちらも履き潰す気概で臨んでいる。そして、どちらも誇れる結果を上げられる自信があるのに違いない。

次は何で驚かしてくれるのか。次戦、自身初のナショナル・ダービーのシドニーFC戦、どんな本田無双を僕らは目の当たりにするのだろうか。もう、疑わない――。本田圭佑の本気を。

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