法律相談室/医療サービス時における不慮の事故の責任追及

知ってると知らないでは大違い!
日豪プレス 法律相談室

第37回 医療サービス時における不慮の事故の責任追及

19世紀のロンドンで“ウエスト・エンドで最もメスさばきの速い外科医”として知られていたリストン先生。手術時間の速さを誇るリストン先生でしたが、患者の脚切断手術の際に左の睾丸も一緒に切除してしまったどころか、助手の指2本も切断してしまったのだそう。その後、患者も助手も感染症で亡くなったため、死亡率200%の手術になってしまったとか(歴史上これだけ)。

幸いにも、私たちが暮らすオーストラリアにおける医学は、この時代と比べて劇的に向上しています。しかし、ベストな医療を受けたとしても、手術によって残念な結果になることもあります。このような不慮の事故が起こってしまっても、それが必ずしも医師や病院の責任ではないことを、私たちは理解しなければなりません。

法律は医師に対して“完璧”を要求しているのではなく、医者の法的義務を、患者に対する治療と助言の配慮と述べています。こうした概念は、医師の“注意義務”と呼ばれています。医師が“注意義務”を怠って起きた医療ミスは“過失”と見なされ、この場合、被害を受けた患者側には民事の賠償請求権が生じるでしょう。

オーストラリアでは、病院も医師も保険に加入しているので、賠償金を支払わなければならないようなミスが起きた時には、保険会社がそれを負担します。患者の賠償請求額を構成する要素としては、所得損失額、追加で必要となった治療費、痛みや不便さに対する手当などが含まれます。

各州で定める州法にも、このトピックに関する更に詳しい規定があります。「オーストラリアで広く認められている(その医療サービスが提供された時点で)十分な専門的診療が施された」と医師仲間の専門的意見がある場合、医師の“怠慢、不注意”はなかったと見なされます。また医師には、患者の死、負傷・疾病のリスクに関して忠告、助言、その他情報を与える義務があります。

医師による助言の合理性には、リスクを正しく見定めることも含まれます。医師がリスクを軽視していただけでなく、ほんのわずかなリスクしかないと患者が信じてしまうほどの明白な表現を使ってアドバイスした結果、医師が裁判で敗訴したケースはたくさんあります。このように医師と患者のコミュニケーションは非常に重要ですので、医師が英語を話し患者が日本語を話す場合、臨床の場に通訳を手配する義務があります。

とはいえ、オーストラリアでは1年に5万件近くの医療ミスによるけがや病気が起きていますので、仕組みの見直しが必要です。例えば先月には、豊胸とボトックスに関する半日研修を受けただけの医学部卒業生が美容整形外科医と称している現状に関する政府調査を求める声が上がりました。また最近、33歳の女性がバストの手術中に亡くなる事故があり、規制強化の必要性がここでも浮き彫りになりました。


ミッチェル・クラーク
MBA法律事務所共同経営者。QUT法学部1989年卒。豪州弁護士として24年以上の経験を持つ。QLD州法律協会認定の賠償請求関連法スペシャリスト。

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