【今さら聞けない経済学】日本の円は「国際通貨」になれる?

日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。
ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。
解説・文=岡地勝二(龍谷大学名誉教授)

第9回:日本の円は「国際通貨」になれる?

「今さら聞けない経済学」を読んでくださる皆さんに、日本の地から新年のご挨拶を申し上げます。今年も楽しく分かりやすいコラムにしていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します。

さて、世界には約200の国と地域があります。今では大きな国の「植民地」という国や地域はありませんが、第2次大戦で負けた日本ではアメリカ政府によって沖縄を占有され、沖縄の人々は長い間アメリカの通貨ドルを使っていました。同じ日本でありながら日本の通貨が使えないということは、沖縄の人々にとって不便で残念なことであったろうと思います。そこで、このことを世界全体の経済に当てはめて考えてみたいと思います。世界中どこへ行っても同じ「お金」で買い物ができたり、商売の取引ができたらどんなに好都合でしょうか。

そんな考えで始まったのが、EUの「ユーロ」という通貨です。ヨーロッパでは大小の国が隣近所のように並んでおり、ほんの少し行けば、例えば橋を1つ越えれば、フランスやドイツのお店で好きなものが買えるのです。その際、フランやマルクといった別々の通貨を使用していては不便で仕方がありませんね。そこで、ヨーロッパを1つの通貨で結んでしまおう、と誕生したのがユーロという「国際通貨」です。

日本は島国ですので、すぐ隣の国のお店で買い物というわけにはいきません(オーストラリアも大きな大陸国家とはいえ、ポツンと離れたところにあるので日本と同じことが言えますね)。しかし人と人の往来は近年どんどん活発化し日本は隣近諸国とあらゆる物を取引しています。例えば個人でも、日本から韓国の釜山まで気に入ったお店へお買い物、などということも今では珍しくありません。

そんな時、同じ通貨で「受け取り・支払い」ができたらどんなに便利なことでしょう。仮に日本の通貨「円」が国際通貨になったらどうでしょうか? そんなことは果たしてできるのでしょうか。今回は、円の「国際化」について考えてみましょう。

通貨の国際化とは何か

以前「第2次大戦後、IMF体制の下ではドルを中心として国際通貨体制を構築した」と述べました。ドルを世界通貨の「勧進元」にした通貨制度であったのです。つまりドルを基軸通貨として、そのドルと各国の通貨とを結びつけたのです(ドル体制)。したがって現在もドルが世界の通貨の中心であり、今でも「1ドル=いくら」という「ドル相場」が成り立つのです。

しかし1973年の春に世界経済は変動相場制に移行したため、IMFが世界の通貨制度の中心的存在と言うことはなくなりました。世界の取引に使う通貨は「当事者同士でどこの国の通貨を使うかを取り決めれば良い」のです。例えば、日本の企業がオーストラリアの企業と取引をする際、「支払いは日本の円でしましょう」と当事者同士が決めれば円で受け取り・支払いができることになります。すると円が「国際通貨」としての役割を果たす、と言うことになります。

「国際通貨とは◯◯だ」という厳格な国際的取り決めはありませんし、しかしながらどこの国の通貨でも国際通貨になれるのかと言えばそうでもありません。国際通貨とは一般に、国際間で取引される財、サービスの価格表示に用いられる通貨のことを指します。良い例として、世界的に取引される石油の値段はドル表示になっています。それはドルが「表示通貨」だからです。「1バレル(約159リットル)=50ドル」など、よく耳にしますね。

少し横道に逸れますが、今から半世紀前までは1バレル=1ドルほどと大変安かったのです。この安い石油をどんどん使って世界の先進国は急速に生産活動を活発化させ、大いに発展を遂げました。そこで石油を生産する国々は腹に据えかね、「我々の国で取れる石油をもう安い値段では売らない」と言って一気に1バレルあたりの石油の値段を30ドルにも35ドルにも引き上げたのです。そこで世界は「狂乱物価」に突入し、世界は破滅するのではというほどの大変な事態になりました。これは「オイル・ショック」と呼ばれ、73年の夏のことでした。

71年には衝撃的な「ニクソン・ショック」が起こり世界経済がひっくり返るほどの状態になったことを元凶に、73年春には「変動相場制」に突入、更にその年の夏にはオイル・ショックが発生し、世界経済はもう「この世の終わり」とも思われたのです。そんな状態だったことを考えると、実によく立ち直ったと思います。

さて、話を元に戻しましょう。この世界で生産活動にとって必需的な財の価格はほとんどが「ドル表示」されています。それは、ドルが国際通貨として絶対的な地位を占めている証拠です。

国際取引においてはある国の国内通貨が国際通貨の役目を果たすことになりますが、国際通貨には「強制通用力」はありませんので、そこが難しいところです。一例として、日本の通貨「円」は日本の法律にもとづいて国内での「強制通用力」と持っているのです。もし私がスーパーマーケットでお金を払うとき、店員は「あなたのお金は新品じゃないから受け取りたくない」などと言うことは絶対にできません。なぜなら私が持っている日本円に強制通用力があるから、です。

しかし、もし日本がオーストラリアと取引する時に日本の円で払おうとすると、オーストラリア人は円での受け取りは嫌だ、と言うことができます。なぜなら円は国際的に強制通用力が無いからです。しかし、日本の企業とオーストラリアの企業との間で「支払いは日本の円で」という契約をすれば、日本の円は立派に国際通貨となり得ます。

国際通貨になるための「4つの条件」

ある国の通貨が国際通貨となるためには、条件があります。第1の条件は「その国が世界経済において大きな経済規模を持っていること」。つまり、その国の世界での貿易量がとても大きいことが必要なのです。これはその国の「存在価値」が十分に高い、ということを意味します。第2の条件は「その国に、自国と他国との通貨の交換が容易にできるような十分発達した金融市場が存在していること」。第3の条件として「他国から十分に信用されていること」も不可欠です。もしその国で、クーデターでも勃発してその国の通貨が使えなくなってしまうとなると大変なことですから。時に第4の条件として「その国に大きな軍事力が整備されていること」も考慮されます。これは第3の条件と関連しており、つまりある国がどこかから襲われた時にちゃんと救ってくれる、ということです。このような国は他国から信頼されます。

以上の4つの条件が備わっている国の通貨が国際通貨として役割を果たす、ということになります。日本は第4の条件を備えているとはとても考えにくいですが、一方アメリカは世界の「紛争処理を任される国家」として世界的な「警察の役目」を果たしています。第1から第4の条件まですべてを満たしているのがアメリカであり、したがって米ドルが国際通貨として絶大なる信頼を寄せられているわけです。

しかし、「日本も円を国際通貨にしたいので、もっと強い防衛力をもって世界に軍事的に貢献しょう」という考えは容易に認められませんね。それでは日本の通貨「円」が世界からこれ以上の信頼を得ることは難しいのでは、とも思われます。しかし、国際通貨の果たす機能(役割)の面からも考えてみたいと思います。

国際通貨の機能

国際通貨が持っている機能(役割)は、一般的に①価値基準としての機能、②支払い手段としての機能、③価値保蔵手段としての機能の3つです。以下、詳しく見ていきましょう。

①価値基準
 国際取引の際に「これはいくら」という値段を決める役目です。先に見たように、1バレル=何ドル、というように財の価格表示に用いられます。また、1ドル=何円、というように通貨交換時の基準にもなります。

②支払手段
 貿易時に支払う「取引通貨」としての役目を持っている、ということ。更に、もし為替相場が大幅な変動をしてその国が窮地に陥った時、政策として為替市場に「介入」して、相場を元の水準に戻すことがあります。これを「介入政策」と言いますが、そこで使う通貨を「介入通貨」といい、主としてドルが使われています。

③価値保蔵
 よく知られているように、各国は国際貿易で得た収入を「外貨準備」として蓄えますがその時に用いられる通貨が国際通貨です。それを価値保蔵手段として使います。

こうして見ると日本円もそうした役割を十分に果たし得るのでは、と思われます。日本の円が更なる国際通貨となるとても良い機会として、太平洋を挟んで12カ国が大きな自由貿易ゾーンを結成する「TPP(環太平洋パートナーシップ)協定」が考えられます。私は、これは日本の円が名実ともに国際通貨となる絶好の機会だと思います。TPP圏内では、「人・モノ・金」の自由な取引が約束されています。そこで「この圏内では円によって取り引きをしましょう」と約束を交わせば良いのです。すると、ある意味で「円圏の形成」が実現できることになります。

さて、中国の通貨「元」が国際通貨の仲間入りした、という最近のニュースを思い出された方もいるかもしれません。また、特別引き出し権(SDR)という言葉もさかんに耳にするようになりました。次回は、これらに焦点を当てて考えてみましょう。



岡地勝二 プロフィル
関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了、フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業析研究所主宰

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