【今さら聞けない経済学】経済学を学ぶ基本「ミクロ分析とマクロ分析」

日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。
ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。
解説・文=岡地勝二(龍谷大学名誉教授)

第17回:経済学を学ぶ基本「ミクロ分析とマクロ分析」

どんな分野でも勉強するためには「基本」や「基礎的知識」というものが必要です。それは経済の問題を知る上でももちろん例外ではありません。今回のお話はもしかすると、この連載コラムの開始後すぐに書くべきだったかもしれませんが、基礎を学ぶことに関しては「遅すぎる」ということはないと言われています。今回は、経済学を学ぶ時や、さまざまな経済の記事を読む時に必要とされる経済学の基本を、改めて振り返ってみたいと思います。

経済学の事始め

大学に入学して一般教養科目を履修する際、「経済学」という科目があります。新入生は、高校で取った社会科目の延長だろうという「軽い気持ち」で経済学の授業を選ぶことが多いかもしれません。始めの頃は「大学の講義なんて大したことないな。つまらないけれど、時々出席するか」という程度のノリで講義に出席している人が多いかもしれません。しかし3回、4回と講義が進んで経済学の基本を学びだすと少しずつ難易度が上がり、そこで「こんなに難しい講義なんて履修をやめよう」という学生と、「よし、真剣に取り組むぞ」という学生との2グループに分かれます。前者の学生より後者の学生が多ければしめたものですが、現実はたいてい逆で、大教室はガラガラとなります。それでも50~60人の真剣な学生と経済学の基礎を真剣に学ぶことはとてもうれしいことで、私はそんな経験をたくさん積んできました。

さて、経済学の勉強はまず大きく2つに分かれます。1つ目は「ミクロ分析」、2つ目は「マクロ分析」と呼ばれるもの。たいていはミクロ分析から学び始めますが、ミクロ分析、という言葉が聞こえた途端になんだか難しく感じられ、学生たちはやれやれといった顔をしだすのです。

経済学を学ぶ時、まずは小さな単位を取り扱うことが大切です。例えば、「パンの値段はどこでどのようにして決められるのか」といった、身近な物の価格決定について学ぶところから、経済学の勉強は始まります。パンやアイスクリームなどは日常的で、身近な「小さな物」ですね。この小さな物をミクロと呼びます。

そもそもミクロとは何かというと、教科書では「微視的」と訳されています(そこでいよいよ学生たちには分からなくなってしまうのです)。ミクロ分析とは、経済学では「市場の原理」ともいわれ、あらゆる財の価格の決定メカニズムを勉強する学問です。

市場(「いちば」ではなく、必ず「しじょう」と読みます)では、物(財)の取引が実行され、そこでその財の価格が決定されます。市場に参加するのは、財を購入する人=需要と、財を作り出す人=供給の2者であり、この需要と供給の2者の「力関係」で財の価格が決定されるのです。

もし「需要>供給」という状態になればその財の価格は上がり、逆に「需要<供給」という状態になればその財の価格は下がることになります。また「需要=供給」という状態になった際にその財の「価格」は決定されることになります。この「需要=供給」という状態を「市場の均衡」といい、そこで決定される価格を「均衡価格」というのです。

今もし「需要>供給」という状態になれば、その財の価格は「上昇」し、「需要<供給」という状態になればその財の価格は「減少」します。そこで「需要=供給」という状態になった時に、やっとその財の価格は決定され「均衡状態」ということになるのです。また、以下のような社会との関連も考えられます。

●需要>供給 ⇒ インフレ状態を作り出す
●需要<供給 ⇒ デフレ状態を作り出す

そこで社会全体にとって望ましいのは「需要=供給」の状態ということになります。この状態を作り出すために、さまざまな経済政策(金融政策、財政政策など)を実行することになります。

「市場」について

ここまでで考えたのは一般的な物の価格決定メカニズムについてであり、経済が対象としている価格決定については、更にたくさんの例があります。例えば、貨幣の値段は「金利」、労働の値段は「賃金」、外国為替の値段は「為替相場」と、経済の中にはありとあらゆる物(財)が存在し、それら全てに「価格」が付いています。これが、世の中には「タダのものはない」と言われるゆえんでしょう。そこで、金利が決定されるのが「金融市場」であり、賃金が決定されるのが「労働市場」であり、為替相場が決定されるのが「外国為替市場」ということになります。

考えてみると、上述のような市場は決してそれ自体で独立して動いているわけではありません。相互に関係(影響)し合っているのです。例えば金融市場で決定される金利水準の結果によっては、それが労働市場に決定される賃金にも影響を及ぼす、ということが大いに考えられます。もちろん、外国為替市場で決定される外国為替相場によっては物(財)の取引に大いに影響が波及し、時にはその国も経済全体にも影響を及ぼす、ということは、私たち日本経済をつぶさに見ている者にとっては十分理解されていることでしょう。

もし「ドル安=円高」という状態になれば、日本の財に対する需要が減少し、するとその財を生産している企業の業績は低下し、その結果が労働市場にも波及し、労働に対する需要が減少し、賃金が低下する、という現象が発生します。

そのような現象は、常日頃私たちが目にしたり耳にしたりしているものですね。そうです、ミクロ分析は私たちの日常生活の状態を調べるために存在しているのです。

マクロ分析とは?

マクロ」とは、辞書をひも解くと「大きい」や「長い」という意味ですが、経済学では一般に「巨視的」と訳されています。つまりマクロ分析とは、日本経済あるいは世界経済の「全体」の状態を分析する学問だ、といえそうです。

なぜ日本経済は「大不況」状態に陥ったのか、なぜ1990年代に世界経済のトップを走っていた日本経済が今や「中程度」の国になってしまったのか、なぜ日本の労働者の賃金は世界水準から転落してしまったのか、なぜ日本は「借金大国」になったのか、更に、なぜ「リーマン・ショック」は世界経済を瀕死の状態に陥れたのか、などといった日本経済全体のこと、あるいは世界経済全体のことを分析対象とするのが、マクロ分析なのです。

決して、ミクロ分析とマクロ分析のいずれが易しい・難しいということではありませんが、経済学の講義ではミクロ分析の後でマクロ分析を勉強するのが一般的です。

さて、マクロ分析で取り扱う分析問題は「国民所得決定問題」ともいわれます。一国の失業者をなくし、より「完全雇用の状態」を作り出すための方策を研究するのがマクロ経済の仕事です。つまりマクロ分析とは、経済状態を改善し、より水準を高めるに何が必要か、を研究することです。

そう考えると、「なんだ、それならもう既にマクロ分析は取り上げてきたのでは」と思う方もいらっしゃるでしょう。そうです、これまでにも何度か以下のようなマクロ方程式を取り上げてきましたね。

Y =(C + I + G)+(X - M)

Yとは国民所得水準、つまり経済水準のことです。ある国の経済水準を上げるために、どんな政策をどこに用いたら良いのかを示しているのが上の式で、この式を「マクロ決定方程式」といいます。この式を使って、さまざまな要素(式の右側)の変化が国民所得、つまり経済水準にどのように影響を及ぼすのかを微分という方法で追求するのです。

ここでは、「乗数効果」という分析方法をお話します。これは財政政策によって財政支出が増大された時、それによって国民所得がどれくらい増大するかという問題で、上の式の「Y=C+I+G」の部分を取り出して分析するのです。つまり財政支出(G)の増大が国民所得(Y)を増大させるにはどんな条件が必要か、ということ。上の式を微分して分析するのですが、ここでは結果だけを見ておきましょう。

政府がお金を使った時、大きな効果が現れるのは「限界消費性向」という数字の変化です。限界消費性向とは、人びとが自分の月給からどれくらいの金額を消費に回すかということを意味します。例え政府がどんなに借金をして財政支出(G)を増やしても、人びとの消費が全く増大しない状態の下では、財政支出の効果は少ない、ということです。

仮に、月給が3万円上がったとします。それを全部貯金してしまったとすると限界消費性向はゼロとなり、また3万円のうち2万円を消費したとすると限界消費性向は約0.6になります。つまり、限界消費性向がゼロの時に財政支出を増やしても、国民所得(Y)に及ぼす効果はほとんど無に等しいのです。しかし上の数字のように人びとの消費活動が「活発」な時に財政支出をすると経済に及ぼす効果はとても大きい、ということが分析されます。

この「乗数効果分析」はマクロ分析の中でも特に重要な分析方法とされており、消費活動の大きさが経済水準を高める大きな要因である、ということが主張されるのです。人びとが「たんすにどんどん貯金」をするような社会では経済の発展は望めない、というのがマクロ分析が教えてくれる教訓です。



岡地勝二 プロフィル
関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了、フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業析研究所主宰

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