【新連載】教えて! 今さら聞けない経済学

今さら聞けない経済学

今さら聞けない

日本や世界の経済ニュースに登場する「?」な話題やキーワードを、丁寧に分かりやすく解説。ずっと疑問だった出来事も、誰にも聞けなかった用語の意味も、スッキリ分かれば経済学がグンと身近に。

第1回 知っていますか? 「アベノミクス」と「レーガノミクス」

日豪プレスの読者の皆さん、こんにちは。私、岡地勝二は京都の龍谷大学で長く国際経済学の講義を担当してきました。この度、縁あって経済理論を分かりやすく解説させていただくことになりました。これまで、メルボルンの王立メルボルン工科大学やパースのカーティン大学などで講義をしたことがあり、オーストラリアが大好きですので、このコラムのスタートを大変嬉しく思っています。さて、第1回の今回はまず、今日本でとても話題になっていることから解説していきましよう。

どうして「アベノミクス」って呼ぶの?

日本は目下、経済の大改造を実行しています。その先頭に立っているのが、安倍晋三首相であることは言うまでもありません。安倍政権は、日本経済の中にもう20年近くも居座る「デフレ」を克服して正常な経済状態に戻そうと、さまざまな経済政策を採っています。それを「アベノミクス」と呼ぶのです。アベ+エコノミクス=アベノミクス、という構図です。エコノミクスとは当然、経済や経済学という意味ですね。つまりアベノミクスとは、安倍首相がやろうとしている経済政策のこと。このように自分の名前の付いた経済政策を世界中の人々から呼ばれるのは、安倍首相にとって非常に嬉しく名誉なことでしょう。なぜなら、これまでの日本の歴代首相の中で、推し進めようとしている経済政策に自分の名前が付けられたという幸運な首相は1人もいなかったからです。

レーガノミクスの出現

世界で、経済政策に自分の名前が付けられた指導者はいなかったのでしようか? 実は、アメリカにいました。1981〜89年までアメリカ大統領だったロナルド・レーガンという、とても人気の高かった大統領です。彼の経済政策は「レーガノミクス」と呼ばれました。彼が大統領になる前のアメリカの経済政策は、いわゆる「ケインズ経済」の理論によって構築されていました。このケインズ経済の理論についてはまた追って詳しくこの連載で述べるつもりですが、簡単に言うと「経済を構築しているのは需要と供給の2つの部門であり、この需要部門をより重要視する」というものです。そこで、レーガンを取り巻くブレーンたちは「これまでのアメリカ経済は需要の面を重視した経済政策を採り過ぎたがために瀕死の重症に陥ったのだ。これからは、需要(ディマンド)ではなく供給(サプライ)の面に光をあてた経済政策を推し進めよう」としたのです。つまり、レーガノミクスでは「サプライ・サイドの経済政策」を採ろうとしたのです。また、レーガンがホワイト・ハウスに入った時は、いわゆる「双子の赤字」という大問題がアメリカ経済の行く手をふさいでいました。その1つが、60年代中ごろより始まった悲劇的なベトナム戦争による「財政の赤字」、2つ目が、日本との貿易取引によって、考えられないようなドン底に陥った「貿易収支の赤字」です。これらの2つの赤字を双子の赤字と呼びます。その2つの赤字を克服するためにレーガンは果敢な経済政策を遂行しようとしました。

レーガノミクスとは、何だったのか

レーガノミクスの中身を見てみると、「なんだ、アベノミクスとよく似ているではないか」と思うかもしれません。レーガノミクスの主たる政策は次の4点に要約されます。

1.社会保障支出と軍事支出の増大によって強いアメリカを作ること
2.企業が払う税金を減らすことによって投資意欲、さらに労働意欲を高め、それによって貯蓄率を高めること
3.経済の仕組みの中のさまざま規制を緩和することで企業の競争意識を高めること
4.金融政策によってインフレを抑えること

これらの経済政策の実行によって、レーガンは富裕層の富を一層増大させ、それによって貯蓄を増大させ、さらに、投資を増大させようとしました。また、富裕層への減税を実施することで実質所得を高め、それに基づいて投資額を増大させ、企業活動を活発化させようとしました。つまり、経済を構築する2つの部門のうち供給面に光を当てようとしたのです。そのためレーガノミクスは「供給重視の経済政策」と言われるのです。

これらの元になった考えは、南カリフォルニア大学のアーサー・ラッファー教授による「ラッファー・カーブ」という簡単な1本の曲線です。もっともラッファーの考えは必ずしも厳密な理論に基づいたというものではなかったのですが、それでも当時人々の注目を浴びました。図1は、「税を上げれば確かに税収は増大しますが、上げ過ぎるとかえって税収は減収してしまう」ということを示しています。

その説を信じたレーガンは、富裕層の税率を下げようとしたのです。

これら一連の経済政策の導入によって回復するかと思われたアメリカ経済は、回復するどころか、かえっていっそう苦境に陥ることになりました。なぜでしょうか? その原因は、①減税の実施によって税収が少なくなり、また、強いアメリカ軍隊を作るためにより一層の軍備費が必要になり、財政赤字が拡大の一途をたどる結果となったこと、また、②富裕層の税を少なくする政策を採り富裕層を擁護したことにより、国民の間で貧富の差を拡大させ、アメリカ社会を混乱させる羽目になったこと、にあります。

インフレ抑制政策から金利高を招き、それが誘因となって外国(とりわけ日本)から資金の導入が急騰し、「ドル高」状態を作り出しました。その結果、アメリカの対外収支はさらに赤字が膨らむという状態に陥ったのです。それを回復するためにレーガンは、当時有名だったニューヨークのプラザ・ホテルに日本をはじめ主要先進国の最高責任者を招き、アメリカを救ってくれと頼みました。とりわけ日本にドル高是正政策を求めたのです。日本はこの求めに応じアメリカを救う政策に合意しました。これは「プラザ合意」と呼ばれ、これによって日本の政策当局は「円安政策」を遂行するようになりました。85年9月のことです。

日本がこの合意を受け入れたことによって、当時1ドル240円ほどだった市場では、円安が急激に加速し、これまでのように輸出ができなくなりました。そこで、日本の企業を援助するために、日本の政策当局は低金利政策を採るようになりました。その結果、「銀行よ、さようなら。証券会社、こんにちは」というような気分が人々の中に芽生え、日本経済の中で一気に不動産価格や株価が上昇し、いわゆる「バブル」を作り出すことになったのです。以上のようなプロセスをたどって、レーガノミクスは、あえなく失敗に終わったと多くの経済学者は分析しています。

急速に膨らんだ日本のバブル景気も90年代に入るとあっという間にしぼんでしまいます。その結果、経済成長は見る陰もなくなり、世間で言われる「失われた20年」という暗い時代へと突入していったのです。

そして、それを克服するために現れたのが「アベノミクス」である、と日本では考えられています。次回は、アベノミクスの本質について考えてみましよう。


岡地勝二 プロフィル
関西大学経済学部卒業。在学中、ロータリークラブ奨学生としてジョージア大学に留学、ジョージア大学大学院にてM.A.修得。名古屋市立大学大学院博士課程単位終了、フロリダ州立大学院博士課程卒業Ph.D.修得。京都大学経済学博士、龍谷大学経済学教授を経て現在、龍谷大学名誉教授。経済産業分析研究所主宰

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