第45回 オーストラリアにおける汚職防止法

教えて! オーストラリアの企業法務

第45回 オーストラリアにおける汚職防止法

ベーカー&マッケンジー法律事務所
パートナー弁護士 リチャード・ラスティグ(左)
パートナー弁護士 ミニ・バンデポル(中)
シニア・アソシエイト 辻本哲郎(右)

Q 近年、グローバルにビジネスを展開する企業にとって、コンプライアンスの観点から各国の汚職防止法への対応の重要性が広く認知されることとなりましたが、オーストラリアにおいてはどのような法的規制となっているのでしょうか。また、当該問題について、オーストラリアに拠点を有する企業としてどのような取り組みを行う必要があるのかについても教えてください。

A 国際的NGOである「Transparency International」が公表する世界各国の汚職・腐敗度合いを示す2012年度「Transparency International Corruption Perceptions Index」によれば、オーストラリアの汚職の蔓延度は世界各国の中で7番目に低く(日本は17番目)、オーストラリア国内企業は当該問題について軽視しがちです。また、オーストラリア連邦政府の取り組みとしても、海外政府職員に対する贈賄行為を規制する刑事法制が存在するにもかかわらず、その執行例がほとんどないなど、汚職撲滅に向けた姿勢は必ずしも積極的なものとは言えません。

企業のグローバル化に伴い、米国の海外腐敗行為防止法、英国の贈収賄防止法といった先進国の法令においては、法令の「域外適用」により自国以外の地域での汚職行為への規制を強めつつあり、オーストラリアを拠点として活動する企業においても、汚職防止に関する高度のコンプライアンス体制を構築しておくことは、法的または経済的な観点のみならず、企業のレピュテーションの観点からも非常に重要であると言えます。

1. オーストラリア企業の汚職行為への対応状況

近時の調査によれば、オーストラリア企業は、グローバルに事業を展開する企業と比較して、贈収賄防止法のコンプライアンスに関する対応が不十分であることが指摘されています。

この点、オーストラリア企業の中には、上記のような汚職リスクが潜在的に存在することを認識しながらも、現状は社内ルールの作成といった受動的な防止措置を講ずるに留まり、具体的なリスク・アセスメントや従業員に対するトレーニングなどの能動的な防止措置については、今後の検討課題であると捉えている企業が多いようです。

また、ビジネスのグローバル化に伴い、企業がこれまでビジネス展開をしてこなかった国に新規に進出するケースも増加してきていますが、そのような場面では、外国政府関係者との交渉を円滑に進めるため、取引仲介者として現地アドバイザーなどの第三者を選任するケースも多くなっています。これら仲介者は、政府職員と直接接触する可能性が高く、その意味で汚職リスクについては十分な配慮が必要といえますが、オーストラリア企業の多くは、このような仲介者が汚職行為を行わないよう契約上誓約させているものの、当該仲介者の行為に対する実態調査およびモニタリングについては実施していないケースが多いようです。

2. オーストラリアにおける法的規制の枠組み

(1)オーストラリア政府職員に対する汚職行為

 オーストラリアの連邦刑法(Criminal Code)は、連邦政府職員に対する贈賄行為についての刑事罰を規定しています。当該贈賄罪は、オーストラリアの連邦政府職員との関係で行われる限りにおいて、当該行為または結果が世界のどこで発生したとしても、成立することとなります。

(2)外国政府職員に対する汚職行為

 オーストラリアは1999年10月8日に「腐敗の防止に関する国際連合条約」に批准しており、連邦刑法は「外国政府職員」(Foreign public officials)に対して、ビジネスやビジネス上の便益を獲得する、または維持することを目的として、その職務の行使に影響力を与える意図をもって、利益を供与することが犯罪となることを規定しています。
 ただし、例外的に、以下の行為については連邦刑法上犯罪にはなりません。

•当該利益の供与が「ファシリテーション・ペイメント」に該当する場合(ファシリテーション・ペイメントとは、主に政府機関における諸手続のための所要時間を短縮するために、外国政府職員に対して金銭を支払うことをいいます)

•当該外国における現地成文法において、当該利益の供与が合法であるとされている場合

このような外国政府職員に対する贈賄行為については、行為の全部または一部がオーストラリア国内で行われた場合、または行為がオーストラリア国外で行われ、違反者がオーストラリア法人、オーストラリア国籍者またはオーストラリア居住者である場合において、連邦刑法による刑事罰の対象となります。

(3)雇用者である法人の責任

 企業の役員、従業員および代理人などが上記のような贈賄行為を行った場合、雇用主である企業は以下①および②を満たす場合に、刑事責任を問われることとなります。

①当該贈賄行為が、役員、従業員および代理人などの実際の、または客観的に見た場合における業務の範囲内、または権限内とされる行為として、実施された場合
②上記に加え、会社に以下のいずれかの事情があることが証明された場合
•取締役会または業務決定機関が、故意、悪意、または極めて不注意にそのような贈賄行為を行ったか、または行うことを明示的または黙示的に授権または容認していた。
•会社の中に、そのような法令違反を指示、奨励または導くような企業文化が存在する。
•会社が法令遵守を確保するための企業文化を作り、また維持することを怠っていた。

3. 汚職リスクの高い業界

 上記のような法令遵守に向けて、各企業がどの程度徹底したリスク・マネジメントを行う必要があるのかについては、各企業が行う事業の内容にも関連することとなります。

例えば、製薬・医療業界は、一般的に汚職リスクが高い業界と認識されており、一方で、製造、流通業界においては、その業態からも、汚職リスクは低いと認識されているようです。

注目すべきは、近時オーストラリアでも急速に成長している資源・エネルギー業界です。本分野に関しては、オーストラリア企業においても、自国のみならず、アジアやラテンアメリカといった途上国で活動するケースも増えてきていますが、前記「Transparency International」の調査では、当該業界においてはその事業遂行のために多くの政府許認可を要し、当該関係で多数の政府関係者との接触があること(およびこれに関連して仲介者の利用なども多いこと)を考慮した場合、非常にリスクの高い業界であるととらえられております。

しかしながら、近時の調査において、同業界におけるオーストラリア企業のリスク認識はそれほど高いものではなく、定期的なリスク・アセスメントや仲介者に対する監視監督についてもあまり積極的に行われていないことが判明しています。

このように、実際のリスクの程度と企業の認識との間の齟齬がある業界においては、今後深刻な事態が引き起こされる可能性もあり、各企業としては早急なコンプライアンス体制の構築が望まれるといえます。

4. 企業の採るべき方策

以上のようなコンプライアンス体制の構築のため、企業が実施すべき措置としては、以下のような事項が挙げられます。
•コンプライアンス体制維持のための各種リソースの確保(責任部署・レポートラインの明確化、ヘルプデスク・内部通報制度の設置などの組織体制強化を図る)
•汚職行為防止ポリシーの履践(策定のみならず、これについての周知徹底、定期的説明会・トレーニングの実施)
•定期的なリスク・アセスメントの実施(地域・国に起因するリスク、事業に内在するリスクの分析)
•デューディリジェンス(仲介者を利用する場面などにおける積極的調査の実施)


※本記事に関する意見・質問は下記まで。
リチャード・ラスティグ   Email: Richard.lustig@bakermckenzie.com
ミニ・バンデポル     Email: Mini.vandePol@bakermckenzie.com
辻本哲郎       Email: Tetsuo.tsujimoto@bakermckenzie.com

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