オーストラリアの外国投資規制の強化について

税務&会計Review

 

税務&会計 REVIEW

アーンスト・アンド・ヤング シドニー・ブリスベン 税務ディレクター
ジャパン・ビジネス・サービス
渡辺登二

著者プロフィル◎国外投資スキームのストラクチャリング、移転価格、M&A、資金調達、税務当局対応において税務とリーガルをあわせ15年以上の経験を有する。現在、日系企業の豪州およびパプアニューギニアへの投資に対する税務サービスを担当

オーストラリアの外国投資規制の強化について

外国投資規制が強化されることとなり、2015年12月1日よりオーストラリアへ投資を行う日本法人に対しても新しい規制が適用されます。この規定の仕組みは複雑で、今後、日本法人によるオーストラリア企業の株式買収、豪州国内の事業や土地買収など幅広い対内直接投資取引においてオーストラリアの外国投資審査委員会(FIRB)からの承認が必要となる可能性があります。今月号では、オーストラリアの外国投資規制の強化について解説致します。

税務監視の強化

16年2月22日、連邦財務大臣はFIRB(Foreign Investment Review Board)による承認審査手続きの一環として、新たに税務事項の審査を導入することを発表しました。これにより、オーストラリア国税局(ATO)の見解を取り入れることがFIRBから承認を得るために必要な要件として加えられました。これには税法上の法令順守状況についてFIRBに報告するためのアニュアル・レポートの提出が含まれます。これらの新措置はその導入の発表日より即日適用されることとなり、今後、オーストラリアへの対内投資に使われる税務ストラクチャーについても税務監視の対象となるため、ATOが管理する各納税者に関するタックス・リスク・プロファイルへ大きな影響を与えることが予想されます。

申請にかかる手数料

FIRBは近年、申請者が申請費用を負担すべきであるとし、全ての申請案件について申請手数料を新たに課す方針を決定しました。申請手数料は申請対象となる投資案件の投資額及び投資対象資産の評価額により異なりますが、大型の買収案件の場合では最大10万豪ドルに達する可能性があります。なお、グループ内の組織再編の場合であっても、1万豪ドルの申請手数料が課されることとなります。

ペナルティー

FIRBは外国投資者に対する罰則規定を発表しました。外国籍の個人または法人が事前承認を得ないで豪州内の事業や特定の不動産を取得した場合や条件を満たさずに承認を受けた場合には、個人に対して13万5,000豪ドル以下の罰金または3年以下の懲役、法人に対して67万5,000豪ドル以下の罰金が科されます。またこれとは別に個人に対しては4万5,000豪ドル、法人に対しては22万5,000豪ドルまで過料金額が引き上げられました。

その他、投資撤去命令、住宅用不動産関連の規制に対する違反通知書、及び外国投資家による違反行為をサポートした者に対する罰則が定められています。

FIRBからの承認が必要となる取引・投資の例

投資案件・取引の性質によってFIRBから承認が必要となります。一般に承認が必要となる対象取引には以下のものが含まれます。

事業投資

一般に日本の投資家が、豪州企業に対して、一定の割合を超える権益(20%以上)を取得する場合や豪州国内事業を管理下に置く場合には事前承認が必要となります。日本の投資家(政府投資機関を除く)に適用される金額の基準値は、対象となる事業もししくは企業の総資産または株式の時価総額のいずれか大きい金額とされ、「ノン・センシティブ」とされる分野における投資では10億9,400万豪ドル、「センシティブ」とされる分野では2億5,200万豪ドルとされています。

センシティブとされる事業にはメディア、通信、交通、国防及び軍事関連産業や事業活動、暗号化やセキュリティー技術もしくは通信システム、ウランまたはプルトニウムの採掘、核施設の運用などが含まれます。これらの分野における国外からの投資については綿密な審査が行われることになります。

FIRBから承認が必要とされる取引・投資である場合には、たとえ企業グループ内の再編に伴う取引であったとしてもこの承認規定は免除されません。既存の企業グループにおける新持株会社の設立、子会社間の資産移転、資本の増加および債務の株式化(DES)のようなシンプルなグループ内再編であっても、独立企業間(アームス・レングス)取引に準ずるものであると事前に承認を得ておかなくてはなりません。

日本の投資家による鉱業、石油やガス関連産業の資産を取得する場合においても事前承認が必要となります。またオーストラリア国内の土地をその主要な資産とする信託や企業については、その株式を取得する場合についてもこの承認規制の対象となります。

鉱業及び石油、ガス

日本の投資家による、鉱業権・生産ライセンス、探鉱権または鉱業、石油・ガス操業のために用いる土地の権益を取得する際には、FIRBからの承認が必要とされる可能性があります。「鉱業権や生産ライセンス、探鉱権」に関して事前承認が必要かどうかは多岐にわたる要因を入念に検討した上で判断されます。

オーストラリア政府から直接権益を取得する場合を除いて、日本の投資家は鉱業権や生産ライセンスの権益を取得する際にはその規模に関わらず事前承認が必要となります。

日本の投資家は、探鉱権の権益の期間が5年を超えることが見込まれる場合の権益保有者が土地の占有権を付与されると、その権益取得にあたり承認が必要となる可能性がありますが、実際に承認が必要かどうかについては多岐にわたる要因を検討した上で判断されます。

日本政府機関による投資は、その取得する価値の大小にかかわらず、鉱業、生産、探鉱会社の株を10%以上取得する場合に承認が必要となります。

オーストラリア政府が保有するインフラ資産の売却

従来は、日本政府系投資家に限りFIRBへの報告義務を有していましたが、16年3月31日より、その他の日本の投資家もオーストラリアの州政府が保有する重要なインフラ資産の買収を行う場合はFIRBへの報告義務が生じます。重要とされるインフラ資産には、以下のものが含まれます。

(1)公共インフラ(飛行場または飛行場の施設、港、公共交通機関;電気、ガス、水や下水道システム)

(2)国土交通ネットワーク(National Land Transport Network)の一部または政府、準州政府より重要だと指定された(あるいは政府管理下にある)既存または計画予定の道路、鉄道、協働輸送の施設

(3)電気通信の構造基盤

(4)核施設

商業不動産

日本の投資家が更地である商業用地を取得する場合、取得金額にかかわらず事前に承認を受ける必要があります。また、日本の投資家が開発済み商業用地(センシティブな商業用地でないことが条件)を取得する場合は、取得金額が10億9,400万豪ドルを超える場合にのみ事前承認を受ける必要があります。日本の投資家(及び日本の政府機関)は特定の商業用地の取得に対して免除証書を申請することができます。

なお、農業や農業関連産業や住宅不動産など、上記に記載されていない取引でも承認の対象となるものがありますので十分な注意が必要です。

まとめ

15年12月1日よりFIRBによる新規制の導入に始まり、新たな申請手数料の負担や企業または個人へのペナルティーの適用などが発生するため、日系企業の投資活動に大きな影響を与える可能性があります。オーストラリアに投資を考えている投資家は、個別の状況に即したアドバイスを専門家に相談することをお勧めします。

免責事項
 本稿は一般的な情報を提供する目的で作成されており、法的助言を行うものではありません。本稿の内容に関連する事項については、正式な法的助言を別途受けた上で判断される必要があります。

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