鉱業・金属セクター事業リスク・トップ10(2017~2018)

税務&会計 REVIEW

EYトランザクション・アドバイザリー・サービス
ディレクター
長谷健一

プロフィル◎日本のEYで多数の国内・海外クロスボーダーM&A案件に関与後、2017年からEYシドニー事務所に出向。日系企業の成長戦略、買収・合併(M&A)、売却・譲渡、再編を支援

鉱業・金属セクター事業リスク・トップ10(2017~2018)

EYでは鉱業・金属セクターの専門家が、定期的に同業界が直面する重要なリスクについて調査しています。2017年には業界関係者700人を対象に調査を実施し、「鉱業・金属セクター事業リスク・トップ10(2017~2018)」を発表しました。同レポートは市場の上昇基調を明確に反映したものとなっています。以下に同レポートの調査結果のキー・ポイントをご紹介します。

事業リスクトップ10

事業リスクトップ10

EYが発表した「鉱業・金属セクター事業リスク・トップ10(2017~2018)」は市場の上昇基調を明確に反映したものとなっています。多くのコモディティーでボラティリティーは低下し、バランス・シートも改善されました。問題はいかに競合企業より先行するかであり、競争優位を確保しコストを可能な限り抑えることが鍵となるはずです。また、デジタル・トランスフォーメーション、継続的なイノベーション、そして新時代のコモディティーが注目されており、鉱業・金属セクターに新たなボラティリティーをもたらしつつあります。競争力を維持するために、より柔軟で機動性のあるビジネス・モデルが求められるようになるでしょう。

以下に鉱業・金属セクターにおける事業リスクのトップ10を順に説明していきます。

第1位「デジタルの有効性」

生産性と利益率改善を目的とした新しいテクノロジーの積極的な活用に企業が取り組んでいることから、デジタル化は鉱業・金属セクターに大きな影響を与えており、リスク・ランキングで第1位となりました。デジタル・マイニングの概念は以前から存在しますが、新しいテクノロジーを効果的に導入できたからといってデジタル・トランスフォーメーションの可能性を引き出せるとは限りません。デジタル・トランスフォーメーションは鉱業・金属セクターが生産性と利益率の課題を解決するための重要な鍵となると思われます。この波に乗り遅れた企業は、競合他社に後れを取ることになるでしょう。

第2位「競争力のある投資家へのリターン」

初登場ながら第2位につけた急速に注目が高まったリスクです。株式が再び多額のキャッシュを生み出すようになった結果、持続可能性に対する不安から、鉱業・金属セクターでは株主アクティビズム(株主行動主義)が台頭しています。ここ数年、鉱業・金属セクターの投資家へのリターンは一貫して平均を下回ってきました。この状況を脱するため、業界では長期の成長プロジェクトに再投資する前に配当や自社株買いなどに資金を割り当てるようになりましたが、これでは有効な長期的な戦略にはなりません。鉱業・金属セクターでは、適切な投資と他社よりも高水準の利益獲得により差別化を図る必要に迫られています。

第3位「サイバー」

デジタル・トランスフォーメーションが拡大し、情報テクノロジー(IT:Information Technology)と運用テクノロジー(OT:Operational Technology)の融合が進んだ結果、第3位に浮上しました。ITとOTの融合により鉱業・金属セクターでは企業を脅かす不正行為が広がりつつあります。世界では毎年、前例のない数のサイバー攻撃が行われています。鉱業・金属セクターもデータ侵害の影響を避けることはできず、収益が低下しています。

第4位「新時代のコモディティー」

新しいリスクとして、第4位にランクインしました。企業のポートフォリオに与える影響を理解し新時代のコモディティーと従来のコモディティーのバランスを保つことは、激変する環境下では困難になっています。ガソリン・ディーゼル車の終焉は、プラチナ需要の相当部分に影響を与えることになるでしょう。世界のプラチナ生産量のほぼ半分近くは、ディーゼル車の排ガスから有害物質を除去する触媒コンバーターに使用されているからです。一方、コバルト、リチウム、ニッケルといったコモディティーにとっては、拡大する蓄電池需要が有利に働くと考えられます。

第5位「規制リスク」

今回初めて登場したリスクで第5位にランクインし透明性のリスクも含まれます。透明性は依然として重要なテーマですが、コモディティー価格の上昇による増益の公正な配分を途上国が要求するようになった結果、政治リスクが急速に高まっています。環境問題の拡大を受けて操業許可の取得要件も厳しくなりました。

第6位「キャッシュの最適化」

コモディティー価格の回復と徹底したコスト削減努力により、利益率が上昇しキャッシュ・フローも改善しました。しかし、業界が成長に向けて舵を切るにつれて新たなリスクが台頭しつつあります。鉱業・金属セクターの企業は、債務削減のための支出を抑える一方で株主に利益を還元する意思を示しました。

第7位「社会的操業許可」

鉱業・金属セクターの企業に社会的操業許可を与えている地域社会、政府、従業員、その他のステークホルダーのニーズや期待を管理するためには、相反する課題や問題に対し慎重にバランスを取りながら対処することが求められます。

第8位「新たな資源開発」

初めて登場したリスクですが、組織の未来を守るためにはすぐに対処する必要があります。セクター全体でレバレッジが大幅に縮小し資本配分の効率化やコモディティー価格の上昇によってキャッシュ・フローが改善しているため、投資家は過去5年間の平均である5%未満を上回る配当利回りを期待するようになっています。探査は資源価格が下落した際、最初にコスト削減対象になりましたが、鉱業・金属セクターが成長するためには探査は不可欠です。

第9位「エネルギーの確保・最適化」

採掘や鉱物の処理には大量の電力が必要です。へき地での採掘作業には、自立電源システムの開発、維持、運用の面で特有の課題が伴います。運良く大規模グリッドから電力の供給を受け、現地の電力システムの大口顧客となることが少なくありません。このため、こうした事業の電力消費は現地の配電網やエネルギー市場に大きな影響を及ぼす可能性があります。

第10位「合弁事業の管理」

企業が合弁事業に参加する目的は、資本の集約やリスクの軽減、資源・技術の確保、サプライチェーンの最適化、市場シェアの獲得、規制対応、政治的対応などさまざまです。合弁事業は、これ自体がリスク緩和策の1つと見なされることがありますが、管理を誤り合弁関係がうまくいかないと極めて大きな混乱が生じる場合があり重大なリスクとなる可能性があります。

まとめ

鉱業・金属セクターは成長軌道に回帰しつつありますが、企業を取り巻く事業環境や競争環境は大きく様変わりしています。投資家へのリターンの改善を迫られている企業は、生産性を高めて利益率を改善し、より有効な資本配分を実現して長期的な成長を目指すという大胆な戦略を採用しなければならないでしょう。そのためにはデジタル・イノベーションが重要な鍵となることを認識し、これまでは不十分だったテクノロジーの導入を積極的に進めていかなければなりません。鉱業・金属セクターの企業がエネルギーの新時代に生き残り成功するには、デジタルを積極的に利用し、市場と採掘現場の双方で生産性を最適化することが不可欠でしょう。


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