税務コーポレート・ガバナンスが日系企業にもたらすメリット

税務&会計 REVIEW

EYジャパン・ビジネス・サービス
税務ディレクター
井上恵章

プロフィル◎登録税理士・税理士顧問(CTA)・勅許会計士・WA州弁護士。2000年にメルボルン大学卒業後、大手会計事務所に入所。以来18年以上にわたり豪州で法人・国際税務の専門家として、また豪州上場企業でも数年にわたり税務専門家として活躍。多岐にわたる経験を基に投資ストラクチャなど実務的な税務アドバイスを日系を含む多国籍企業のクライアントへ提供

税務コーポレート・ガバナンスが日系企業にもたらすメリット

オーストラリア国税局(以下、ATO)では、納税者による税務コーポレート・ガバナンス(以下、TCG)への対応について注視する傾向が続いており、現在、企業納税者が健全なTCGフレームワークを導入、そして運用しているか否かを調査しています。税務上の観点から事業がTCGに関するATOのガイドラインに沿ったものであることが重要ですが、一方でTCGフレームワークは他にも多くの業務上のメリットをもたらすこともあり、税務部門のマネジメントにとって重要事項の1つになると考えられます。今月号では、税務コーポレート・ガバナンスが日系企業にもたらすメリットについて詳しく説明します。

はじめに

ATOは全ての企業納税者とその取締役会に対し、効果的なTCGフレームワークの導入を求めています。TCGフレームワークなくしてATOと「根拠ある信頼」(Justified Trust)を確立するのは難しく、TCGへの対応が遅れている納税者に対してはATOによる厳しい税務調査へとつながる可能性が出てきます。納税者には、組織における税務リスクの特定と管理、そして軽減を可能にする目的のため、文書化された正式なポリシー、手順及び管理手段を有することが求められています。更に、これらポリシー、手順及び管理手段は、企業の取締役会(または承認された小委員会)レベル、経営管理レベル、一般管理職レベルできちんと適用される必要があります。

税務リスク管理及びガバナンス審査の指針

ATOは、「税務リスク管理及びガバナンス審査に関する指針(Tax Risk Management and Governance Review Guide)*」(以下、ガイドライン)の中で、ATOがTCGの「ベタープラクティス」と考える一連の業務慣行を公表しています。改定されたATOガイドラインは2017年1月に公表され、今年4月にも再び改定されました。このガイドラインには、TCGフレームワーク運用についての有効性を判断するための自己評価方法、税務リスク管理に関する取締役の義務の概要、及び間接税に関するTCGなどが含まれています。

TCGはATOが現在注力している分野であり、オーストラリアの納税者上位1,000社を対象としたStreamlined Assurance Reviewにおいて納税者のTCGフレームワークがATOガイドラインにおける「ベタープラクティス」とどの程度整合しているかを評価するため、多くの人員を割り当てています。オーストラリア企業が健全なTCGフレームワークを有していることを証明することができない場合、ATOによるリスク評価において高リスクに分類され、厳しい税務調査という結果になる可能性があります。また、税務調査の後、ATOが申告納税額を修正した場合、「Significant Global Entity」である納税者に対しては非常に高額なペナルティーが課せられる可能性があるので注意が必要です。

TCGフレームワークのメリット

健全なTCGフレームワークによる恩恵は、ATOとの良好な関係の維持だけにとどまらず、他にも業務上の大きなメリットを企業にもたらし、特に税務及び財務部門の効率的な運営といった観点からも重要となってきます。その他のメリットとして以下の例が挙げられます。

① 内部監査の観点からのメリット

第一に、正式なTCGフレームワークは税務リスクを組織内の他のリスクと同様に取り扱うためのプラットフォームを提供してくれます。これにより、内部監査部門は税務リスク管理プロセスの包括的な評価と保証をすることが可能となるため、税務・財務部門を内部監査対象に含みやすくなることもあり、内部監査部門と税務・財務部門間の風通しが高まることが期待されます。

② 戦略的観点からのメリット

第二に、企業がTCGフレームワークを運用した結果、戦略的優位性を獲得するケースが多くみられます。例えば、TCGフレームワークは税法の改定を積極的に特定することを促し、改定内容が事業に関連する場合には必要に応じてスタッフを訓練するよう企業に促す役割も果たします。こういったプロセスにより早い段階でのオポチュニティーの特定が可能となります。更に、TCGフレームワークは税務・財務部門と事業部門との連携を強化するため、重要な取引に対しより早い段階で税務・財務部門が関与することを促し、ひいては税務上の問題を適切なタイミングで対処することを可能にします。

③ 効率化の観点からのメリット

第三に、税務に関する正式なポリシーと手順を導入することは、税務部門だけでなく幅広い部門において効率化をもたらします。コンプライアンス・プロセス、税務に関するスタッフの役割と責任、及び社内報告経路を詳細に定め、重要取引を報告し、外部アドバイザーを関与させる場合の基準を明確にすることによって税務業務が合理化され、税務上の問題への対処、更には問題の早急かつ効果的な解決を確実なものにします。

④ 取締役会の観点からのメリット

第四に、ATOは企業の取締役会に対し、組織内の税務リスク管理を監督することを求めています。実際、効果的に運用されているTCGフレームワークの下では、税務上の重要な取引及びリスクは検討・審議のため取締役会に常に報告されることになります。つまり、税務・財務部門が税務上の問題を積極的に特定して取締役会に迅速に報告することによって、想定外の問題がなくなるようになります。

⑤ 親会社の観点からのメリット

最後に、グローバル・レベルでのTCGフレームワークの運用はさまざまな国で事業を展開している日系企業に対し、海外進出している全ての国における税務リスクを積極的に管理することを促します。ここで重要となる点は、健全なTCGフレームワークを導入することにより、海外を拠点とする各グループ企業の税務オペレーションを、日本の本社によってより効率的に管理することが可能となることです。また税務リスク追跡ソフトウェアによって各税務管轄区域で行われる税務調査の記録や追跡が容易となるため、グローバル税務マネジャーによるリアル・タイムでの管理が可能となります。同じく、TCGフレームワークの下で、各国のスタッフに対し税務当局による調査への対処方法に関する訓練を実施することは、事業を展開する全ての国で一貫性を確保できるという観点から有用な戦略となります。

まとめ

健全なTCGフレームワークの重要性はATOとの関係を良好にするといったものにとどまりません。効果的な税務リスク管理によって得られる恩恵は、事業の行われている地域にかかわらず、幅広い部門に波及します。まだTCGフレームワークを整備してない企業は、最重要検討事項の1つとして導入のための準備に着手することをお勧めします。また、TCGを作成するにはかなりの労力が掛かることが想定されます。上記を踏まえますと、ATOへの対応の観点だけではなく、包括的な観点からアプローチし、企業にとってより広範囲な分野でメリットを享受できるように対応することが好ましいのではないでしょうか。

*税務リスク管理及びガバナンス審査に関する指針(Tax Risk Management and Governance Review Guide)の詳細については以下のリンクをご参照ください。
■Web: www.ato.gov.au/business/large-business/in-detail/key-products-and-resources/tax-risk-management-and-governance-review-guide/

※上記の内容は、著者個人の見解であり、所属する組織の公式見解ではありません。また、本稿は出版時の時点で適用される一般的な情報を提供する目的で作成されており、法的助言を行うものではありません。本稿の内容に関連する事項については、正式な法的助言を別途受けた上で判断される必要があります。


EYジャパン・ビジネス・サービスのウェブサイトはこちらから
www.ey.com/AU/en/JapanBusinessServices

コンタクト

井上恵章(パース)
Tel: (08)9217-1296
Email: shigeaki.inoue@au.ey.com

新着記事

新着記事をもっと見る

NICHIGO CHANNEL

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る