再生可能エネルギーの見直しは 投資家を神経質に

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アーンスト・アンド・ヤング 税務ディレクター
ジャパン・ビジネス・サービス 
裕子カーンズ

著者プロフィル◎オーストラリア登録税理士。2006年EYシドニー事務所入所。オーストラリアにおける法人税務申告代行や税務調査対応、そしてM&A、グループ再編、事業の設立・売却などに関わる税務アドバイスの提供を通して日系多国籍企業のお客様のオーストラリアでの事業をサポート
再生可能エネルギーの見直しは 投資家を神経質に

オーストラリア政府は近年、再生可能エネルギー・ターゲット制度(Renewal Energy Target、RET)を見直しました。これによって、投資家の信頼喪失という結果につながり、立法リスクがいかに税政策に影響を及ぼし得るかを浮き彫りにしました。ほかの諸国はここからどのような教訓を引き出せるでしょうか? 今月号ではEYオセアニア地区の電力セクター税務リーダーであるポール・ラクソンの見解を以下にご紹介します。

RET制度は通常、化石燃料生産者よりもコスト構造が高い再生可能エネルギー生産者の競争力を確保するための富の移転メカニズムです。これまで同制度は、オーストラリアの発電構成をよりクリーンなエネルギー源に移行し、電力セクターの温室効果ガス排出削減目標の達成に成果を上げています。

実際、国内の屋根上太陽光発電セクターの成功はやや過剰ともいえるほどで、2013年の発電量は6,400GWh(ギガワット時)と、RETの当初目標である20年までに4,000GWhというRETの当初目標を大きく上回りました。

13年9月の新内閣発足を受け、電力需要が当初の予想よりも低い状況もあり、RETのコストとその必要性に疑問の声が生じるようになりました。14年2月、アボット内閣は、RETの見直しと変更提言のために専門委員会を任命しました。その結果、「RETは電力卸売価格低下に向け一定の効果を発揮している」との結論が出たものの、報告書には以下の提言が盛り込まれました。

▶ 小規模再生可能エネルギー・スキーム(SRES)の廃止または20年までの段階的廃止
▶ 大規模再生可能エネルギー・ターゲット(LRET)の新規投資の受付を中止し、30年までの既存発電会社による操業継続、または電力需要の成長に合わせたLRET目標の修正

今回の見直しに加え、14年後半には気候変動委員会(Climate Change Authority、CCA)が法定調査書を発表しています。CCAはRET目標の維持を推奨しているものの、例として、目標達成期間を3年程度延長する案も提言しています。

オーストラリアの再生可能エネルギー・ターゲットとは?
 RET制度の起源はハワード内閣にさかのぼります。10年までに再生可能エネルギーの生成を2%増やすことを目指し、01年にスタートしました。また、ギラード内閣は、20年までに国内電力の20%以上(または4万1,000GWh)を再生可能エネルギー源で賄うべく、09年にRETを拡大しました。

投資家の信頼喪失

税政策には常に立法リスクが存在し、再生可能エネルギーに対する投資の最大の課題の1つともなっています。制度見直しのために委員会を設置するだけでも投資家の信頼喪失につながるという点を見過ごすわけにはいきません。

RET見直しを受け、総額150億米ドルの大規模再生可能エネルギー・プロジェクトが一時中断となり、過去18カ月間資金調達もほとんどまとまりませんでした。世界最大の集光型PV太陽光発電所(ビクトリア州、ミルデューラに100MW規模)の建設計画も、卸売価格の低さとRETの見通し不透明性から、中止されました。

オーストラリアは助成金にいくら費やしているのか?

国際エネルギー機関(IEA)の推計によると、世界全体の13年の化石燃料助成金は約5,500億米ドルと、同年の再生可能エネルギー助成金(1,210億米ドル)の4倍を超えています。

一方、国内では化石燃料に対するインセンティブの推計値にはかなり幅があり、国際通貨基金(IMF)による11年の推計では年間187億米ドル、経済協力開発機構(OECD)による13年の推計では年間65億米ドルとなっています。推計値の相違は、計算方法の違いから生じています。OECDの推計には、連邦政府と州政府が助成金として直接費やしたコストのみが含まれている一方、IMFの推計は国際価格と原価回収価格を参照した上で算出されています。

化石燃料に対するオーストラリアの税制上のインセンティブには以下が含まれます。

▶ ディーゼル燃料払戻金:年間46億米ドル
▶ 資産の加速償却
▶ 排出削減基金(温室効果ガス排出を減らすための、汚染排出者向け奨励金):10年間で21億米ドル
▶ 調査・探査費用の損金算入

RET向け助成金の総額は、推計で年間年間16億米ドルです。概して、RET制度は、1MWhの再生可能エネルギー生成ごとに証書を発行することを再生可能エネルギー生成者に認めることによって成り立っています。電気小売会社などの一部企業は、こうした証書を購入し、クリーン・エネルギー規制当局に毎年提出して制度プログラムへの適合を証明することが義務付けられています。証書認定証への需要により証書認定証発行に価値が生れ、再生可能エネルギー発電会社の追加収入源となります。

化石燃料とRETへの助成金を比較すると現状は化石燃料の助成金が少なくなっています。

今後対処すべき課題

現在争点となっているのは、今後どのような再生可能エネルギー目標を設定すべきかという点です。現在の電力需要は目標設定時よりも低いので4万1,000GWh(予測需要の20%相当)にとどめるべきか、あるいは2万7,000GWh(実需の20%に相当)に引き下げるべきかという議論が生じています。

目標を引き下げると、投資対象としての再生可能エネルギー・セクターの魅力が減少する可能性があります。生成高増加に伴い証書の発行が増えるほど、将来的にも国内に再生可能エネルギー需要が存在することが明らかになり、投資対象としての同セクターの魅力が高まります。

RET見直しによって生じたもう1つの問題は、コストと価格の構造をどのように一致させるかという問題です。現在、消費者の需要をベースに電力ネットワーク・コストが配分されていますが、電力小売コストと電力小売価格がリンクしていないのが実情です。例えば、屋根上太陽光パネル設置によるコスト・ストラクチャーは、この状況を反映しており、こういった制度は長期的に機能しないでしょう。

信頼性のある電力ネットワーク・コスト配分は、オーストラリアをはじめとする多くの国々で今後数年間にわたって議論される課題といえます。最終的には、エネルギー・セクターに影響を及ぼすあらゆる税政策と同様に、政府と野党が社会経済的観点から最も望ましい政策を慎重に検討し、しかるべき政策を策定することが求められます。

どの税政策にも、勝者と敗者は付き物です。要は、どのような世界に住みたいと考えるかです。再生可能エネルギー・ベースの制度を増やしたい場合、短期的にコストをかけるしかありません。それは、現時点で同セクターに投資することは経済的とは言えないものの、長期的に見れば生活の質が高まる可能性があるからです。

政府は、国益上の最善策を判断し、投資家から信頼される明確な進路を取る必要があります。世界的に流動する資産を惹きつける魅力がオーストラリア市場にないなら、資産は別の場所に投資されるからです。

RETは2大政党の支持を受けて実現しました。新RETについて政治的コンセンサスがまとまれば、市場で望ましい結果を達成する後押しとなるでしょう。エネルギー・セクターは、投資回収に時間がかかる非常に長期的な投資対象です。そのカギを握るのは、投資家にとってのリスク削減です。

今後数年間で政府は、この問題に関して、オーストラリア国民とエネルギー・セクター投資家をどのように先導するのか、重大な選択を迫られることになります。

英語原文はこちらのウェブサイトでご確認いただけます:
www.ey.com/au/TaxPlugIn

 

※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報を基に行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。

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(02)9248-5986
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