進出日本企業インタビュー「富士フイルム・オーストラリア」

Photo: Naoto Ijichi

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第17回
富士フイルム・オーストラリア

増田清忠 最高経営責任者(CEO)

かつて写真フィルムの世界的なブランドとして知られた富士フイルム。現在では、ヘルスケアや印刷システム、高機能材料など、「B to B」(法人事業)を中心とした幅広い事業分野で強みを持つ総合精密化学メーカーへと変貌を遂げている。オーストラリア市場でのビジネス戦略について、100%出資の現地法人である富士フイルム・オーストラリアの増田清忠最高経営責任者(CEO)に聞いた。
(インタビュー=ジャーナリスト・守屋太郎)

オンリーワン技術を生かし新市場に挑戦していきたい

——20年程前まで、世界中の観光地で「FUJI FILM」の看板を見かけましたが、その後のデジタル化によって写真フィルムの需要は縮小していきました。富士フイルムは現在を「第2の創業期」と位置付け、事業領域の多様化を進めています。

源流は「日本初の国産映画フィルムを作ろう」というビジョンの下で、1934年に設立した「富士写真フイルム」です。同年2月に、写真フィルムや印画紙、乾板などの写真感光材料の製造を始めました。

創業当初から培ってきたこうしたフィルム技術が、長らく当社のコア・テクノロジーとなっていました。50年代からはグローバル化を進め、世界の写真フィルム市場で存在感を高めていきました。しかし、写真フィルムの販売は2000年前後にピークに達し、その後急速に衰退していきます。フィルムを必要としないデジタル・カメラの性能が格段に向上し、急速に普及したからです。

ところが、当社はそれよりもずっと以前の80年前後からこうした流れを想定して、デジタル技術への移行を進めていたのです。このため、時流に乗り遅れることなく、ヘルスケアや印刷などのビジネス分野でデジタル化の波を受け入れ、移行することができました。

現在は、①デジタル・カメラやプリント事業などの「デジタルイメージング」、②医療システムや医薬品、化粧品、サプリメントなどの「ヘルスケア」、③フィルムの塗布技術を生かした液晶パネルの偏光フィルターを主力とする「高機能材料」、④デジタル印刷の統合システムを提供する「グラフィクシステム」、⑤放送用レンズ市場で圧倒的な存在感を誇る「光学デバイス」、⑥富士ゼロックスの事業分野であるオフィス機器などの「ドキュメント」の6つの事業体が、現在のグループのコア・ビジネスとなっています。

「今後は法人向け市場にも積極的に注力していきたい」と話す増田清忠CEO

「今後は法人向け市場にも積極的に注力していきたい」と話す増田清忠CEO/Photo: Naoto Ijichi

——オーストラリア事業の沿革と、現在の主な事業分野について聞かせてください。

オーストラリアではかつて代理店を通して営業していましたが、将来性の高いオーストラリア市場に確固たる基盤を築く必要があると判断し、04年に代理店を買収する形で現地法人を立ち上げました。直接進出してから今年で11年目になります。

旧代理店時代のカルチャーや従業員の意識を変えることが最大の課題でしたが、私が着任してから約3年半でようやくスタッフの志を高めることが出来たのではないでしょうか。

「B to C」(一般消費者向け)の事業の主力は「デジタルイメージング」です。小売大手チェーン「ハービーノーマン」や「ビッグW」の店内、フランチャイズの店舗などで主にデジタル・カメラやスマートフォン(スマホ)で撮影したデータをプリントするサービスを提供しています。

スマホで、いつでもどこでも気軽に高画質な写真を撮影できる便利な時代になりましたが、その半面、膨大な量の画像がスマホの中に眠ったままになっています。そこでこれを取り出して、写真として飾り、家族友達と楽しみを共有し、思い出として残していく。こうして写真文化を守り、発展させていくのが当社の役割であると考えています。

そのための1つの取り組みが、日本で進めている「ワンダーフォトショップ」の店舗展開です。コンセプトは、お洒落な木目調のカフェ風の店内で、画像のプリントサービスを提供するだけではなく、カレンダー、フォト・フレーム、Tシャツ、スクラップ・ブック、マグカップなどさまざまなアクセサリーに写真を取り込んで自在に遊んでもらうというものです。

オーストラリアでもこの9月、ハービー・ノーマンのオーバーン店(シドニー南西郊外)にワンダーフォトショップの国内第1号店をオープンしました。今後も店舗網を拡大し、特に若い世代に向けて写真の楽しみ方を紹介することで、富士フイルム・ブランドの付加価値を訴求していきます。

また、デジタルイメージングの分野では、インスタント・カメラ「インスタックス」の販売にも力を入れています。実はこの商品は、オーストラリアでもヒット商品になっていて、年間数十万台の販売を記録しています。スマホ全盛の時代にあって、すぐにプリントできるアナログなインスタント・カメラが逆に受けています。

一方、「B to B」(法人向け)の事業では、医療事業と印刷事業を2つの大きな成長の柱と位置付けています。特にオーストラリアの医療技術は先進国の中でもトップレベルの質を誇っており、医療現場は最新の診断装置やソフトウエアを積極的に導入しています。非常に魅力の大きい市場であり、今後も順調な伸びを期待しています。

ハービー・ノーマン・オーバーン店に今年9月、オーストラリア国内1号店としてオープンした「ワンダーフォトショップ」

ハービー・ノーマン・オーバーン店に今年9月、オーストラリア国内1号店としてオープンした「ワンダーフォトショップ」

インスタント・カメラ「インスタックス」は、オーストラリア国内で年間数十万台の販売を記録するヒット商品

インスタント・カメラ「インスタックス」は、オーストラリア国内で年間数十万台の販売を記録するヒット商品
印刷事業は「B to B」(法人向け)事業における大きな成長の柱と1つと位置付けられている

印刷事業は「B to B」(法人向け)事業における大きな成長の柱と1つと位置付けられている

——オーストラリアは人口約2,300万人と欧米やアジアの主要市場と比較して市場規模は大きくありませんが、消費者の購買力は高く、人口も伸び続けているため高い成長力が見込めます。この国での事業展開の課題と展望について伺えますか。

広大な国土に散らばる、数少ない大都市に少ない人口が集中しているため、運営の効率が非常に悪いのはデメリットであると考えます。また、流通や人件費のコストが高いのも経営の重しになります。そうしたマイナス要素を除けば、総じて有望な市場だと考えています。

比較的高い出生率や一定の移民受け入れを背景に人口は今後堅実に伸びていく見通しですし、先進技術を積極的に採り入れる資質もあります。消費文化も欧米と似ていますので、人口が少ないとはいえテスト・マーケティングの対象としても魅力的でしょう。

——オーストラリア事業の中長期的な戦略についてお聞かせください。

コンシューマー事業の主力であるデジタル・イメージングの市場では、既に相当なシェアを確保していますので、急激な伸びは期待できませんが、今後も堅調な成長を見込んでいます。

一方、医療や印刷を中心とした法人向け市場は、まだまだ伸びしろは大きいと思います。また新素材の市場性に注目しています。例えば、富士フイルムは高品質なフィルターの技術を持っています。この技術を応用したフィルターはオーストラリア全国にあるワイナリーやビールの醸造工場で潜在的な需要が見込めます。

写真フィルムは完全にデジタル時代に移行しましたが、長年のフィルム製造で培った基礎技術は現在も富士フイルムの大きな強みになっており、こうした新素材の開発にもつながっています。

既存のデジタル・イメージング事業を着実に伸ばしつつ、他社の真似出来ないオンリーワン技術を生かして業績を大幅に伸ばし、オーストラリア経済の発展と国民生活の質の向上に貢献していきたいですね。

●PROFILE
ますだ・きよただ
<略歴>
神戸大学卒業
海外4カ国(タイ、シンガポール、香港、米国)を経験して2012年7月より現職

<トップに聞く10の質問>
1.座右の銘:迅速果断
2.今読んでいる本:坂の上の雲(司馬遼太郎)
3.豪州の好きな所:気候
4.外から見た日本の印象:兎に角、物が豊富
5.好きな音楽:80年代ポップ
6.尊敬する人:スティーブ・ジョブズ
7.有名人3人を食事に招待するとしたら誰?:スティーブ・ジョブズ、ダイアナ妃、ジョン・レノン
8.趣味:サッカー、ラグビー観戦、ゴルフ
9.将来の夢:田舎生活
10.カラオケの18番:Unfair World
<豪州支店の概要>
英文社名: FUJIFILM Australia Pty Ltd
事業内容: デジタルイメージング、医療、印刷製品などの販売
代表者: 増田清忠CEO
拠点: シドニー本社、メルボルン、パース、ブリスベン、アデレード支店
従業員数: 225人(15年10月現在)
<沿角>
2004年 シドニーに現地法人を設立

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