第6回 テルストラ

ビジネス
通信市場に大変革をもたらしたスマートフォン。豪州では今や大人の約半数が所有している(Photos:-Telstra)
豪州企業名鑑

第6回
次世代携帯の設備投資に注力
スマホ人気でモバイル需要拡大

 

テルストラ
Telstra

 テルストラは固定回線で約8割、モバイル(携帯)回線で約5割の圧倒的なシェアを持つ豪州最大の通信企業である。市場では、5人に1人が固定回線を持たなくなった一方で、2人に1人がスマートフォン(スマホ)を保有している。モバイル化が急速に進む中で、同社も次世代携帯電話ネットワークへの設備投資に力を入れている。
■会社概要
登記名——————————Telstra-Corporation-Limited
本社———————————メルボルン
創立———————————1901年(電話・電報・郵政省)
設立———————————1975年(豪通信委員会)
最高経営責任者——————デービッド・ソーディー氏
従業員数—————————3万6,039人(海外事業を含むフルタイム社員)
売上高*—————————-253億6,800万ドル(1.1%)
EBITDA*—————————-102億3,400万ドル(0.8%)
純利益*—————————-34億2,400万ドル(5.4%)
*テルストラ2012年6月期決算(カッコ内は前年度比伸び率)

 


■沿革


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2011年にQLD州南東部を襲った洪水時にも稼働したテルスト
ラの災害用移動基地局(MEOW)。同社は営利事業だけではな
く遠隔地の公衆電話の運営などユニバーサル・サービスの責務
も担っている

1901年の連邦制施行に伴い、各植民地が所管していた通信・郵便事業が連邦政府に委譲された。これに伴って新設された電話・電報・郵政省(ポストマスター・ジェネラルズ・デパートメント=PMG)が、テルストラの原形である。75年、PMGはテルストラの前身である豪通信委員会(ATC)と豪郵便委員会(オーストラリア・ポスト)に分離された。ATCは「テレコム・オーストラリア」の商標を掲げた。

89年にATCは「豪通信公社」となり、91年に連邦政府が全株式を所有する国営企業となった。92年に国際電話の海外通信委員会(OTC)を吸収、93年に現在の社名「テルストラ・コーポレーション・リミテッド」に改称した。

97年、通信自由化を受けて、テルストラ株の第1次売却(T1)が実施され、連邦政府は保有株の33%を手放した。99年の第2次(T2)で16%を放出し同比率は51%となった。2006年の第3次(T3)で同17%に縮小した。07年、連邦政府の保有株は公共部門の勤労者の年金基金に移管された。09年、さらに24億ドル分の株式が売却され、政府保有比率はさらに10.9%まで低下している。

 


■現況


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09年からCEOを務めるデービッド・ソーディー氏。テルストラの株価は長期的に低迷している。99年には1株当たり8ドル台だったが、過去1年間は上値4ドル58セント、下値3ドル20セントの範囲で推移。なお、政府株放出時の売却価格は、T1が3ドル30セント、T2が7ドル40セント、T3が3ドル60セントだった

 国内通信市場の主戦場は、通話、データともに固定からモバイルへ移行している。既にモバイル回線の契約件数は全人口(約2,280万人)を上回り、固定の約3倍に達した。

豪通信メディア規制局(ACMA)によると、12年6月末時点の固定の契約件数は1,044万件(前年比0.9%減)にとどまった一方、モバイルは3, 020万件(3. 1%増)まで拡大した。自宅に固定回線を持たない人(18歳以上)の数は1年前から24%増加して310万人となり、全体の18%を占める。12年5月時点のスマホ普及率(18歳以上)は49%とわずか1年間で約2倍になった。

今や固定回線を引かなくても、通話は携帯電話、インターネットは無線ブロードバンドのモデムで十分に事が足りる。その上「テザリング機能」を備えたスマホがあれば、通話と同時に、パソコンなど複数の携帯端末をインターネットに接続することもできる。

テルストラの契約件数も、固定が減る一方でモバイルが増えている。12年6月期決算によると、同社の固定電話契約件数(卸売を含む)は約806万7,000件(前年比3.7%減)と5年前に比べて130万件減少した。携帯電話(料金先払いを含む)や無線ブロードバンドなどのモバイルの契約件数は1,380万件と前年比で13%増えた。

同社の業績も、携帯事業の伸びが全体を支える構図だ。12年6月期の売上高は253億6,800万ドル(前年度比1.1%増)。商品別の売上高を見ると、全体の約85%を占める上位4分野のうち、1位の携帯は86億6,800万ドル(8.5%増)と好調だった一方、2位の固定は74億8,80 0万ドル(6.1%減)、3位の「データ通信・IP」は31億2, 200万ドル(0. 8%減)、電話帳やケーブル・テレビ(CATV)などを手がける4位の「デジタル・メディア」は23億7,700万ドル(9. 6%減)といずれも減少した。

 


■展望


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11年にテルストラが国内で初めてサービスを開始したLTE(4G)のUSBモデム。12年6月末時点で同社のLTEの基地局数は1,000カ所以上、契約件数は37万5,000件

 こうしたモバイルの需要拡大に合わせて、同社は次世代携帯インフラの設備投資に注力している。

豪州では今後、一般的に第4世代携帯電話(4G)と呼ばれる「ロング・ターム・エボリューション」(LTE)が本格的に普及する。11/12年度は主にLTEのインフラ整備など35億9,100万ドルの設備投資を行い、売上高に占める設備投資比率は14.2%となった。今後2年間も同比率を15%程度に維持する。

モバイルは固定に比べて通信速度が遅いことが欠点だった。しかし、現行LTEのダウンロード速度は最大40メガビット秒(理論値、以下同)。豪州で一般的に普及している固定ブロードバンド「ADSL2+」の最大24メガビット秒を上回る。

一方、連邦政府は現在、全国ブロードバンド網(NBN)の整備を推進している。2020年ごろまでに全人口の93%を対象に最大100メガビット秒の光ファイバーによる固定回線網を整備し、残りは同12メガビット秒程度の衛星回線などで補う。テルストラは12年、連邦政府から約110億ドルを受け取る代わりに保有するインフラをNBN公社に明け渡し、同社を小売と卸売に分割することで最終合意した経緯がある。テルストラによる固定通信インフラの独占状態を見直し、競争を促進することを目指している。

ところが、モバイル通信は近い将来、固定の光ファイバーをはるかに上回る速度を実現する見通しだ。LTEの後継規格「LTEアドバンスド」が今後、各国で段階的に導入される。LTEアドバンスドのダウンロード速度は最大3ギガビット。現在のLTEの75倍、光ファイバー回線の30倍も速い。このため、モバイルの需要が拡大する中で、NBNの固定回線が著しく陳腐化する可能性が指摘されている。

仮にNBNが完成時に時代遅れとなり商業的に成功しなかった場合、中長期的にテルストラの業績にどの程度の影響が出るかは現時点では不透明だ。12/13年度は売上高、EBITDAともに1ケタ台前半の伸びを見込んでいて、短期的には緩やかな成長が持続すると予想される。

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