ソーシャル・メディアとつき合う

オーストラリア・メディア・ウォッチ

オーストラリアの新聞をはじめ、テレビ、ラジオ、映画、書籍などのメディアで今話題のもの、または面白い記事やエピソードを毎月1つ取り上げ、そこから見えるオーストラリア社会を在豪日本人の視点で紹介する。

第2回:ソーシャル・メディアとつき合う

デジタル化やオンライン化で職場の仕事はずいぶんと効率的になった。一方で、新しい分野の業務が増えたと感じる人も多いだろう。例えば、ソーシャル・メディアだ。今や、民間企業、政府組織、自営業でも、フェイスブックやインスタグラムなどの活用が必須となった。

「ソーシャル・メディア・エンゲージメント」を通じて会社の「ソーシャル・ネットワーク・プレゼンス」を高めるため、社内で「ソーシャル・ネットワーク・タスクフォース」を立ち上げ、「デイリー・エンゲージメント」を目指す。こんな表現を社内で耳にしないだろうか。分かりやすく言うと、「ソーシャル・メディアで自社の存在感をアピールするため、作業班を立ち上げ、日々情報を更新していく」だろうか。

こんな専門用語をちりばめ、ソーシャル・メディアに翻弄される職場の様子を皮肉たっぷりに描くコメディー・ドラマがある。8月から10月にかけてABCテレビで放送された「Utopia」シーズン2の、エピソード6である。

架空の政府組織を舞台に、ありがちなオフィスの様子を風刺描写する。官僚的なシステムを皮肉るところなどがオーストラリアらしいコメディだ。

主人公は、著名なコメディアン、ロブ・シッチが演じるトニー。どこの組織にもいそうな平均的で一番まっとうな人物。登場人物は、エネルギッシュな広報部長ロンダをはじめ、個性的でありながらいかにも職場にいそうな役柄ばかりだ。

エピソード6では、ロンダがソーシャル・メディアの改善に乗り出す。ソーシャル・ネットワーク・プレゼンス、略してSNPを高めるため、スタッフはスマホを片手に忙しい。会議や視察中でも、写真を撮ってこまめにツイートするのを忘れない。忘れているのは、本来の仕事。視察現場で大規模プロジェクトの話をする中、スタッフがずれたタイミングで「フェイスブック用の写真を撮ってもいいですか」と口を挟む。

仕事が山積みの状態で、ソーシャル・メディアに時間をとられることに疑問を持つのは、しっかり者のナット。彼女がネットいじめにあっても、その炎上でフォロワー数が増え、「ハッシュタグ」が「トレンディング」されればオフィス内で拍手がわき上がる。

思わず笑ってしまう現実だが、本当は笑ってばかりもいられない。ナットのせりふにもあるが、ソーシャル・メディアの管理には「多くの時間とリソース(人材)を費やす」。しかし、それでも活用せざるを得ない時代になっているからだ。

「コストをかけるだけの価値がある」と言うのは、オーストラリア助産師カレッジのプロフェッショナル・オフィサーで、フェイスブックを担当するサーラ・スチュワートさん。「ソーシャルメディアの利点は、幅広いコミュニティーとつながることができること。私たちの声を広め、旧来メディアでは報道されない情報を共有し、議論を行う場として活用しています」政府関連のフェイスブックを管理する公務員のセリーナ・ホワンさんも、ソーシャル・メディアは「驚くほど効果的」だと言う。

「今では40パーセントの人が、データにアクセスをするのに携帯電話を使用しています。それがコミュニケーション方法となったのです。組織としても、これを利用しないわけにはいきません」ソーシャルメディアの積極的な利用に関しては、職場でも意見が分かれていることはホワンさんも認める。「ソーシャル・メディアに否定的な人は、よく知らないから怖いのです。けれども情報化の時代に、避けて通ることはできません」

ホワンさんは仕事以外でも、Ms Frugal Earsの名でツイッターやピンタレストなど8つのソーシャル・メディアで節約レシピを紹介している。

ここまで手を広げるに至った最初のきっかけは、台湾での出産経験をつづったブログだった。ホワンさんは現在、台湾女性が産後1カ月間完全休息を取る「坐月子」の習慣について本を執筆中だ。「出版の可能性について話し合うときにまず聞かれるのは、『何のソーシャル・メディアをやっているか』ということです。(出版社は)それで下調べをするのです。ソーシャル・メディアなしで本を出版する人もいますが、あれば確実にプラスになります。トピックや自分自身に対する読者の関心度を計ることができるからです」

テレビの登場で、家族の団らんがなくなるという話が昔あった。だからといってテレビはなくならなかった。ソーシャル・メディアの登場で、現実の人間関係が希薄になるかもしれない。信憑性のない情報が蔓延して、本物のジャーナリズムがなくなるかもしれない。それでもソーシャル・メディアがなくなることはないだろう。

ソーシャル・メディアにはまっている人も、実はひそかにうんざりしている人も、「Utopia」を観て笑ってみてはどうだろう。身近な現実を、一歩引いた視線で皮肉ったところに、真実が見えるかもしれないから。「Utopia-Season 2」はiTunesで配信中。DVDはABC Shopで発売中。


クレイトン川崎舎裕子
Hiroko Kawasakiya Clayton
◎米系通信社の東京特派員(経済・日銀担当記者)を経て、2001年よりオーストラリア在住。クイーンズランド大学院にてジャーナリズム修士号を取得後、03年からライター。キャンベラを拠点に社会事情などについての記事を雑誌や新聞に執筆する
Web: https://twitter.com/HirokoKClayton

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