多文化主義と移民とコメディー

オーストラリア・メディア・ウォッチ

オーストラリアの新聞をはじめ、テレビ、ラジオ、映画、書籍などのメディアで今話題のもの、または面白い記事やエピソードを毎月1つ取り上げ、そこから見えるオーストラリア社会を在豪日本人の視点で紹介する。

第4回:多文化主義と移民とコメディー

原作者であり脚本も担当したベンジャミン・ロウさん
原作者であり脚本も担当したベンジャミン・ロウさん

マイノリティーの人にしか言えないジョークというのがある。欧米人が言えば人種差別になり、異性愛者が言えば同性愛者に対する差別発言になる。

ツイッターのプロフィールで自らを「近所のアジア人&地元のホモセクシュアル」と表現する作家ベンジャミン・ロウさんのユーモアは、このぎりぎりの線を試す。だから面白い。『Good Weekend』誌(シドニー・モーニング・ヘラルド)のコラムで、彼のそんなユーモアに触れている方も多いだろう。

そんなロウさんの著作『The Family Law』がテレビ・ドラマ化され、今月14日からSBSテレビで放送される。自らが育った中国系移民家庭を、1990年代のクイーンズランド州という背景の中でユーモラスに描く。

多文化社会を映し出す

「最初のエピソードでは、家族を紹介します。ここでついてこられなかった人は、もうこのドラマにはついていけません」と言うのは、ユーモアを交えながら取材に応じるロウさん。

つまり、引く人は引いてしまうほど、家族のキャラクターとその家庭が強烈なのだ。ストレートな発言で周囲を驚かす母親を筆頭に、中華料理店を営む父親と、ベンジャミンを含む5人の思春期の子どもたちが織りなすドラマ。そして両親の離婚。機能不全で不完全な家族を、面白おかしく、それでいて温かい視線で描き出す。

14歳のベンジャミンとその家族が織りなすひと夏の物語
14歳のベンジャミンとその家族が織りなすひと夏の物語

本作品は、アジア系移民の家族に焦点をあてたオーストラリアで初めてのコメディー・ドラマだ。原作にはないが、テレビでは近所の日本人も登場する。「中国系家族についてのドラマですが、日本人コミュニティーも参加しています。ですから、中国系というよりアジア系オーストラリア人のコメディーです」とロウさんは言う。「オーストラリアは多文化社会。10人に1人はアジアの血を引いており、およそ4分の1の人は海外生まれ、半分近い人の両親または片親も海外生まれです。今までそれがスクリーンに反映されてこなかっただけなのです」

パリ同時テロを通して見えたこと

多文化社会といえば、昨年11月に多くの犠牲者を出したパリ同時テロは、そんな社会を見つめ直すきっかけにもなった。テロ後各国で、イスラム系移民に対する差別や、中東からの難民を排斥する動きが見られたからだ。

オーストラリアには、アジア系だけでなく中東系の移民も多い。そんな中、エジプト系オーストラリア人のメディア・プレゼンター、ワリード・アリさんのテロ直後のコメントが話題となった。アリさんはネットワーク・テンの番組『The Project』(2015年11月16日)の中で、憎しみによって世界が分離すればIS(イスラム国)の狙い通りであり、今こそ皆が1つになるべきだと訴えた。

イスラム教徒であるアリさんのコメントは、国内で大きな共感を呼んだ。私が驚いたのは、影響力のあるイスラム教徒の発言者がオーストラリアにいるということ。そして多くの国民が彼に共感したということだ。オーストラリアにおける多文化主義の浸透を象徴している。

テロを受けて、駐豪フランス大使も国営放送ABCテレビの討論番組『Q&A』(同年11月16日)に出演。フランスはイスラム系移民を社会に受け入れる努力を十分にしてこなかったとした上で、次のように述べた。「オーストラリアを見ると、過去20年間、新たに来た移民をコミュニティーに受け入れることを、私たちよりよっぽど上手くやってきたことがわかります。そういう意味で、オーストラリアは本物のモデルです」

移民2世としてオーストラリアで育ったロウさんも言う。「一般的に、オーストラリア(の多文化主義)はかなり成功しているかと思います。オーストラリア人には人種差別は悪いものだという認識があります。だからこそ(極右派の政治家)ポーリン・ハンソンは、自分は人種差別主義者ではないと主張するのです」

異文化をコメディーにできる国

ロウさんは作品の中で、オーストラリア社会における自分の家族の異文化性を笑いにする。そこにユーモアを見いだす余裕のある多文化国家が、世界にどれだけあるだろうか。今回脚本も担当したロウさんは言う。「(これまでになかった設定という意味で)この作品が型破りなものになることは認識しています。しかしそれよりもまず、面白い作品になるように仕上げました」

そんな作品は、インタビューを通してにじみ出るロウさんの人柄を反映しているようにも思われる。取材中、堅い話をしていても、どこかに笑いを組み込もうとするサービス精神旺盛なロウさんである。今回のテレビ・シリーズにも期待したい。

この新シリーズ『The Family Law』は1月14日(木)午後8時半よりSBSテレビで放送開始。全6エピソード。
Web: www.sbs.com.au/programs/the-family-law


クレイトン川崎舎裕子
Hiroko Kawasakiya Clayton
◎米系通信社の東京特派員(経済・日銀担当記者)を経て、2001年よりオーストラリア在住。クイーンズランド大学院にてジャーナリズム修士号を取得後、03年からライター。キャンベラを拠点に社会事情などについての記事を雑誌や新聞に執筆する
Web: https://twitter.com/HirokoKClayton

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