AUSメディア・ウォッチ「不動産市場の落とし穴」

オーストラリア・メディア・ウォッチ

オーストラリアの新聞をはじめ、テレビ、ラジオ、映画、書籍などのメディアで今話題のもの、または面白い記事やエピソードを毎月1つ取り上げ、そこから見えるオーストラリア社会を在豪日本人の視点で紹介する。

第12回:不動産市場の落とし穴

春になると窓から明るい光が差し込み、暖かい風が家を吹き抜け、裏庭には花が咲き乱れる。

家のコンディションが整ったところで、冬の間に控えられていた物件が一気に市場に出る。春はオーストラリアの不動産市場が活発になる季節だ。

高騰する不動産価格

ここ十数年の不動産価格の上昇には驚かされる。オーストラリア準備銀行(中央銀行)の資料によると、住宅価格は1990年代から2000年代半ばにかけて名目で年間平均7.2パーセント上昇した後、過去10年間は平均5パーセント程度の上昇を続けている。96年に50万ドルで買った家が、今年160万ドルになる計算だ。

80年代後半の日本の不動産バブルをも彷彿とさせる市場。価格は上昇し続けるのか。それともソフト・ランディングするのか。または崩壊するのか。メディアの報道もさまざま、専門家や不動産関係者の意見も分かれている。

そんななか中央銀行は先月2日、政策金利を過去最低の1.5パーセントに引き下げた。利下げによって住宅価格が一層押し上げられることが懸念されていたにもかかわらずだ。

中銀のグレン・スティーブンズ総裁は、住宅価格の伸び率が緩やかになったことなどを理由に「低金利が住宅市場を激化させるリスクはなくなった」との判断を示している。

過大な借入

一方、オーストラリアン紙(電子版:16年8月2日)は、利下げを機に「借金を返済するのではなく、より大きなローンを組むために低金利を利用する買い手が出てくる」問題を指摘している。

またエイジ紙(電子版:同年8月1日)によると、家計の所得に対する借金の比率は、中銀が1988年に統計を開始して以来最高の186.9パーセントに達しているという。

7月に発表されたME銀行の調査でも、過大な借入の危うさが露呈された。ローンを抱えている世帯の10パーセントが、今後1年間、最低限の支払いさえ「不可能」だと回答したのだ(同紙)。

高騰する不動産市場を特集したABCの時事番組『フォーコーナーズ』(同年5月2日放送)では、LFエコノミクスのリンジー・デービッド氏が次のように述べている。「(銀行は)ローンを支払う能力のない買い手にまで(お金を)貸しています。不動産が一貫して値上がりし続けることだけを頼りにしているのです」

人口が増え続け、需要が絶えないオーストラリアで不動産価格が下落することはないという意見はある。しかし、過大な借入によって支えられた市場は危うい。

いずれ金利が上がり、オーストラリア国内の不動産価格が頭打ちになったら、または下がるようなことになったらどうなるのか。最も影響を受けるのは多額の借金を抱える人たちだ。

家が買えない世代

不動産価格の高騰によって出てきたもう1つの問題は世代間ギャップだ。価格上昇の波に乗って豊かになったベビー・ブーマー(団塊の世代)が投資物件を複数持っていることが多いのに対し、若い世代にとってはマイ・ホームを持つことさえ届かない夢になってしまった。

世代間ギャップに関しては、7月に発表されたHILDA(オーストラリア家計・所得・労働推移)報告書が詳しい。報告書によると、来年には、家を所有する人の数は成人の半分にも満たなくなるという。

報告書の著者でメルボルン大学の経済学者、ロジャー・ウィルキンズ教授はABCラジオ『ザ・ワールド・トゥデイ』(同年7月20日放送)に出演し、広がる世代間ギャップに懸念を示した。

「(過去15年間で)65歳以上の人の財産が平均で実質70パーセント増加しているのに対し、25歳から34歳の人の財産は実質的には変わっていません。つまり若い世代と上の世代との溝が広がっているのです」

「(同時期に)住宅価格は実質90パーセント上がりました。これが上の世代が財産を増やした最も大きな要因です。そしてこのことが、若い世代の財産が増えていない理由でもあるのです。若い世代の家の所有率が、過去15年間で著しく下がっているからです」

不透明な先行き

オークションで競り合うベビー・ブーマーたち。オークショナーが「もっともっと」とけしかける
オークションで競り合うベビー・ブーマーたち。オークショナーが「もっともっと」とけしかける

近所の家のオークションへ行ってみた。築50年以上の小さな3ベッド・ルームの家だ。ベビー・ブーマーと思われる3組が、100万ドルを超える勢いのビッドで競り合う。手も足も出ない若い世代は傍観するしかない。

経済紙のオーストラリアン・ファイナンシャル・レビュー(電子版:同年7月24日)によると、今年の春の市場は需給が逼迫するという。オークション件数が少ないなか、競落率の高い状況が春まで継続するという見方だ。

激しい競争のなかで世代間ギャップはますます広がる。若い世代はマイ・ホームを諦めるか、多額の借金を負うしかない。さまざまな問題を抱える市場は持続可能なのだろうか。

今後市場がどうなるかは不透明だが、リスクだけは認識しておいた方が良さそうだ。


クレイトン川崎舎裕子
Hiroko Kawasakiya Clayton
◎米系通信社の東京特派員(経済・日銀担当記者)を経て、2001年よりオーストラリア在住。クイーンズランド大学院にてジャーナリズム修士号を取得後、03年からライター。キャンベラを拠点に社会事情などについての記事を雑誌や新聞に執筆する
Web: twitter.com/HirokoKClayton

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