AUSメディア・ウォッチ「女性の自由とブルキニ」

オーストラリア・メディア・ウォッチ

オーストラリアの新聞をはじめ、テレビ、ラジオ、映画、書籍などのメディアで今話題のもの、または面白い記事やエピソードを毎月1つ取り上げ、そこから見えるオーストラリア社会を在豪日本人の視点で紹介する。

第13回:女性の自由とブルキニ

海の季節がやって来た。

オーストラリアのビーチでは、みな思い思いの装いでそれぞれに海を楽しんでいる。ウェットスーツを着て波に乗るサーファー、日焼け防止のラッシュガードを着て砂で遊ぶ子どもたち。ビキニ姿の若い女性もいれば、ビキニ姿の老年女性もいる。

そんな自由な海の風景とは対照的なことが欧州で起こった。バカンス・シーズンの真っ只中、ニースなどのフランスの海でブルキニの着用が禁止されたのだ。

ブルキニとは「ブルカ」と「ビキニ」を合わせて作られた造語で、肌を露出しないイスラム教徒の女性向け水着を指す。7月にニースで起きたテロ事件後、フランスの各自治体が相次いでブルキニの着用を禁止した。

ブルキニ発祥の国、オーストラリア

実はこのブルキニ、オーストラリアのデザイナーが考案したものだ。

考案者のアヒーダ・ザネッティさんは、2歳の時にレバノンから移住したオーストラリア人。2003年にブルキニを思い付いたのは、姪がヒジャブ姿でネットボールをしていたことがきっかけだったという。

フランスでの禁止を受けてガーディアン紙に寄稿したザネッティさんは、ブルキニの本来の目的について次のように述べている(電子版:16年8月24日)。

オーストラリアで誕生したブルキニは、女性の自由のために作られた(Photo: Ahiida Pty Ltd)
オーストラリアで誕生したブルキニは、女性の自由のために作られた(Photo: Ahiida Pty Ltd)

「(姪を見ていて)私自身も子どもだった頃、スポーツが思うようにできなかったのを思い出しました。(中略)姪のために、イスラム教徒の女の子でも着られる、オーストラリアのライフスタイルに合った西洋風の(スポーツウェア)を用意してあげたいと思ったのです。

「スポーツをするのはとても大切なこと。私たちはオーストラリア人ですから!」

イスラム教徒の女性も、他のオーストラリア人と同じようにスポーツや海を楽しみたい。そんな思いからデザインされたブルキニ。ザネッティさんは、フランスはブルキニを「誤解している」という。「ブルキニは女性の自由のために作られたもの。その自由を奪うのなら、タリバンとフランスの政治家は何が違うのでしょう」

画像が語ること

ソーシャル・メディアは、時として非常に分かりやすく社会の問題をつく。

そもそも今回のブルキニの禁止に世界が注目するきっかけとなったのは、8月23日にニースの海で撮影された写真だ。人びとが憩う海辺で、4人の取り締まり警察官を前にして、ブルキニ姿の女性が服を脱ぐ写真は異様だった。その異様さが禁止条例の不当性を示していた。

この写真がソーシャル・メディアで拡散されると、1925年のビーチで、警察に水着の丈をチェックされる女性の写真が合わせて投稿された。肌を露出しすぎてとがめられる91年前の女性と、肌を覆いすぎてとがめられる現代の女性。女性は本当に解放されたのだろうか。

また、ベールをかぶったカトリックの修道女が海で楽しんでいる写真も多く投稿された。なぜカトリックの修道女に許されることが、イスラム教徒の女性には許されないのか。

日に焼けないよう完全装備した日本人女性の写真も取り上げられた。つばの広い帽子を目深にかぶり、首にタオルを巻き、長袖のジャケットを羽織った格好だ。さらに、目と鼻と口の部分だけに穴のあいたマスクをかぶって海に入る中国人女性の写真も登場。中国で流行した日焼け防止用のマスクだ。

修道服に身を包んだ修道女、全身を覆った日本人女性、マスクまでかぶった中国人女性の装いが許されて、ブルキニが許されない。そんな矛盾を、ソーシャル・メディアで共有された画像が分かりやすく物語っていた。

女性の自由とは

今回の騒動を受けてオーストラリアン紙は、ブルキニは宗教原理主義的なものであり、禁止するべきではないにしろ多文化の象徴としてとらえられるべきではないとするコラムを掲載した(同年8月29日)。

しかしザネッティさんは、ブルキニは「西洋社会に溶け込むためにデザインされた」もので、「イスラム教徒の女性を象徴するものではない」と言う。実際、ザネッティさんのブルキニを購入する人の半分近くはイスラム教徒以外の女性だ(SBS電子版:同年8月23日)。

ザネッティさんの顧客には正教、キリスト教、ユダヤ教の人もいるという。皮膚ガンや乳ガンを患った人、日に焼けやすい人、もうビキニは着たくない人などがブルキニを買っていく。

前述のコラムの著者は、ブルキニは「私たちの母や祖母が(女性)解放のために戦ってきた暗黒時代への逆戻り」だと言う。しかし、肌を露出することが女性の解放であるという主張は一方的だ。肌を覆うことを自ら選択する女性もいるからだ。

そこには宗教上の理由があるかもしれないし、健康上の理由があるかもしれない。日焼けをしたくない人もいる。各自の選択が尊重され、多様な装いが受け入れられることが大切だ。

ブルキニ発祥の国、オーストラリア。そのビーチは自由なままであって欲しい。


クレイトン川崎舎裕子
Hiroko Kawasakiya Clayton
◎米系通信社の東京特派員(経済・日銀担当記者)を経て、2001年よりオーストラリア在住。クイーンズランド大学院にてジャーナリズム修士号を取得後、03年からライター。キャンベラを拠点に社会事情などについての記事を雑誌や新聞に執筆する
Web: twitter.com/HirokoKClayton

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